決の思い出し
体が重い…この世界は普通の世界よりも、数億倍気圧や重力が大きいのだ。
だから世界移動をする時、急に体に負担がかかり大変である。
この世界は、重さや気圧、浮力などの能力を持つものはこの世界に多く存在する。
さて、主内容に入っていく。
優多は気圧が重い中、士御倉の一面青白い空模様の透き通った色の大理石の上を歩いて行った。
空には逆さに建てられた同じ形状のビルが同じ高さで建てられていた。何個も何個も同じように建てられているが色が無い。色がないというよりも、大理石のように透き通った色をして、まるでガラスだった。
そして5、6分歩くと、前に何かが見えてきた。
入り組んでいる細い“何か”が見えてきた。
道路だ。
黒のアスファルトの道。信号がついていなければ横断歩道も無い道路。
普通の道路が入り組んでいた。
そこである者と出会った。
「よお優多。元気にしているか?久しぶりだな。何ヶ月ぶりだろうな」
そう親しく優多に話かけてきたのは、
『砂川 勝』
和を操る能力でこの世界に住んでいるという、
人間だ。
“能力”というのは並の人間が決して持てるものでは無い。
超人や妖怪、怪物、神、仙人など人間よりも力が大きいものが持てるのだ。
だが、いつからか一部の人間が能力を持つようになり、
勝もその1人だ。
「あれ?砂川さん。久しぶりですね」
「ああそうだな。ところで、こんなところで何をしているんだ?あ、もしかしてこっちに引っ越すとか」
「いえ、実は事件の手がかりを掴むため世界を回っているんです。調査では無いですからね」
勝とは、久しぶりだった。
初めて会ったのは、この世界に調査しに来た時だ。
初めて会った時は…そう、
大変だった。
「お前、誰だ?」
「あ、初めまして!陣之内 優多と申します!」
勝の表情変わらず。睨んでくるが、優多はニコニコした表情で答える。
「聞いたこと無いな」
「すいません。今日からこの世界を含める全多世界を調査するものです」
勝は睨みつつ話を聞いた。
「おい?お前さっきから何かを感じるんだが…」
「あ、申し遅れましたが僕、重力を操る能力を持っています」
「へー」
無表情…だろうか?それに近い表情で優多を見る目が変わった。
「お前さあどこに住んでるの?」
「香花界です」
「そうかそうか…」
勝の表情が曇っていた。
「あの…どうかいたしました?何かしら無礼を申し上げていたら申し訳ございません!」
優多は慌てて頭を下げチラ、と勝の方を見る
「いやいや、無礼何て申し上げていない…
と言いたいが、あいにくそうはいかないんだ…」
「へ…?」
勝は、笑っていた。けども恐ろしかった。
「ちょちょちょっと!待ってください!」
勝は対抗する優多に刀を抜いた。
「お前も香花の者なら容赦せん!美の花の香りを持っている奴なんか見たくもねえ!俺はそんな有言実行する奴らが嫌いなんだ!」
美の花の香りというのは、美しい者は力も知能も高いという、伝承だ。
それに比べまだ優多は知らなかったが、士御倉の者はそんな香花の者が嫌いであった。
だが、優多は生まれつき香花の者では無いのでびっくりしていた。
「ここで言っておくが俺は、人間だ。他の士御倉の者は全員超人や神だ。でも俺はトップなんだ。
“強さ”と言う汚れた美の持ち主でなくても俺は誰よりも強いんだ!持っている力なんかで勝っているんじゃない!実力だ!俺は能力に頼ってなんかいねえ!」
勝は刀を振り回しながら優多に向けて香花の者にどれだけ自分が穢されているかを実績、経験で表した。
だが優多はそれを何とも思わなかった。
だって優多も人間だからだ。細かく言えば、超人の類には入るが…
だが、そんな地位の差の思い込みに自分の意思を左右に振っている勝に頭にきた。
「お前のような香花の者なんてな!人間の事なんて
分かっちゃいない!
刀技:月毒四道、解散性!」
勝は、刀を振り回しながら4本の紫に光るかまいたちを作り、優多に向かわせた。
だが優多はそれに迎え撃つように
「刀技:衝動斬り!」
青白く光る聖剣 気力刀 を作り出しそのかまいたちを次々と破壊し、
「身体技:瞬時移所」
優多は立て続けに身体技を放ち瞬間移動を行った。
だが、ただ相手に近づくのではなく、
相手の集中していることを途切らせるように
勝の周囲をランダムで回り相手の集中を途切らせる。
豪気にも放った技だ。
以前これで豪気の体力を消耗させ、案の定隙を相手が自ら作ってくれた。だから、この時も活用した。
が、
「捕まえた…
導刀技:刹勝活剣、旧太刀流」
勝の目の前を素早く通り過ぎていく優多を、
勝は運良く発見でき、
手を優多の首めがけて掴み上げたのだ。
ありえなかった。豪気も捉えられなかったあの、俊足をあの時の勝は、ピンポイントで優多を掴み上げていた。
優多の首を締め付ける手の力はどんどん強くなっていき、呼吸が困難になってくる
勝は締め上げる首に刀の先をつけた。
「どうだ…?何の苦労もしないでその重力を操る能力を持った気分は?そうやって香花の法則が作られていく…馬鹿馬鹿しい話だ」
そして、勝は締め上げた片手の力をゆるめ始めた、
「死ね…呪うなら呪ってこい…」
と、次の瞬間。上から声が聞こえた。
それが徐々に大きくなる。
勝もそれに気づいたのか、上を見上げた。
『ドゥリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「グフ!」
激しい叫び声に続き今度は痛々しい声が聞こえた。
勝は上から奇声を発しながら降りてきた人によって、
溝キックを食らって縮んでいる。
「はあ…はあ…大丈夫?優多」
無限だった。香花の主の無限だった。
「もう心配したよ〜ついて行って良かった良かった!今度からは僕が練習相手になってあげるから無理しないでよね〜」
そもそも何も準備させないままこんな所に連れてきたのは誰か聞きたいくらいなんだが…
「うぅ…お、お前は…香花の者か…」
「…君は確か砂川 勝だったよね?隠れて聞いていたけど1つ言わしてもらって良いかな?」
無限が縮んでいる勝に合わせしゃがんで話した。
「別に香花の者だからって誰でも強いわけでも無いし、誰でも簡単に、楽して能力を手に入れたわけでも無い。
まあ、元々神であり超人でもある僕は楽して能力を手に入れたけど、
僕は出来るだけ苦労を経験したかった。
今、それで苦労をしているからね」
無限が勝の背中をさすりながら言った。ってかこの人元々神だったのか!すげえ!
「誰しも苦労なんてしなくても楽は手に入れることは可能なんだよ?
でも、人一倍苦労しなくてもしても手に入れられる物の大きさはそれぞれ皆同じなんだよ。
頑張ったって頑張らなくたって。
でも苦労なんて毎回のように来るんだよ。
それを逃れてばっかで苦労もせずに楽と得を得た者は必ずしもこれまでに感じたことの無い重すぎる責任や、苦労に追い込まれるんだよ。
それに君が殺そうとしていたこの子だって君と同じ人間だ」
「え?」
勝はびっくりしたように視線を優多に向けた。
「そんな香花の者よりも勝くんみたいな努力している奴の方がよっぽど上だなんてみんなが知っていることなんだよ。
だからお願いだ。
こんな低レベルな僕らを嫌うだなんてさらにレベルの低いことをやらないでくれ」
無限は目から静かに涙を流していた
そして続けて
「僕ら香花の者は生まれながらにして超人や神だけど優多だけは違う。人間で人の言うことはちゃんと+αでも返すここまで良い者はどこを探しても何人もいるわけでは無い。完璧だよ。
これは全種族共通で『当たり前』の事だけど、優多のような完璧な奴は、どこを探しても絶対に見つからない。
だから、お願い。優多を香花の者と同じにしないでほしい」
勝は、無限の言葉に涙を流していた。
それは僕もだった。