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ミーンミーンと木々にとまっている蝉の合唱が鳴り響く季節。
ー夏ー
多世界のほとんどの四季は夏を迎え、
香花界にも今、『夏』が来た。
優多は長袖のYシャツの上に布ベストという格好であった。
この格好は誰が見ても暑苦しいだろう。
優多も実際そう思っていた。
肌からは物凄く汗が吹き出しYシャツが濡れて肌にベットリとくっつきとても気持ち悪い。
優多は、まだ多世界の調査の続きだが、休憩を取ることにした。
ちょうど、森があったので適当に木陰を選んで座り、水筒を取り出して、中の水を飲んだ。
「あついですな…無限さんにお願いしなきゃな…」
もちろんYシャツとベストのことだ。こんな季節にこんな格好していたら死んでしまう…
そして、優多は立ち上がり再び歩き出した。
一方、多世界の通過点である香花界の中でも最も大きな建造物の香花館の中の大きなホールではたくさんのメイドや、お手伝いさんが何やら作業をしていた。
ホール内の中央には、香花館の主、無限がメイドに指示していた。
さすが多世界の“要”と言ったところだろう。
一切さぼっているものや口答えする者もいないのだ。
それに、皆嫌な顔をせず、むしろ嬉しがっていた。
みんながみんな、笑顔で満ち溢れていた。
笑いながら、話をしながら働くメイドたちを無限は叱らなかった。
だからこそみんなから笑顔で慕われるんだろうな。
「皆様!大変遅れて申し訳ございません!外の天気が異常だったもので…ってあれ?」
外は優多が言っていたように酷かったようだ。
服は所どころ傷んでいて、ビチョビチョに濡れていたそして優多が館に戻って、びっくりしたのは、いつもドアの前に立っている館の案内人である、メイドがいないことであった。
「すいませーん!どなたかいらっしゃいますか!すいませーん!」
優多は不審に思い、大声を出してみたが反応がなく
ますます心配になってきた。
まず、自分の部屋に戻ってから考えることにした。
そして優多は私室に戻るため、廊下を渡った。
すると小さな音が聞こえた。いや、音では無くて声?優多は、その声がする方に歩を進めた。すると、着いたのは、大きくて、料理用具が全て揃えてある万能なキッチンだった。スパイスや胡椒や酒などの調味料やオーブンや窯などとにかく色々揃っている所だった。
カチャカチャ
「あれ?おかしいなここにあったはずなんだけどな…どこにいっちゃったんだろう…」
優多は、突然聞こえた声にびっくりして、辺りを見回した、すると端っこの方に優多と同じくらいの女の子が困った顔で棚の中のなにかを探していた。
「メイドさん?ですか?」
優多はその姿でメイドだとわかった。
ちょっと暗めの色のスカートと服に、白いエプロンをかけて、頭にヘッドドレスを着用しているごく普通のメイドであった。
だが、そのメイドは、優多も知っている。
最近この世界に迷い込んでしまった子だった。
それで、とりあえずメイドをやってくれないか?
という、無限の命令で新人のメイドとなったそうな…「あの!すいません」
「えっあっ!キャ!」
女の子は優多が声をかけたのに驚いたのか乗っていた台から、滑って落ちてしまった。
が、
「お怪我は、ございませんか?」
「え…いや!あの!ええと…」
間一髪だった
滑って落ちてしまった女の子を危機一髪優多が受け止めていた。しかもお姫様抱っこで…
女の子は恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「すいません。急に声をかけてしまって…」
優多は女の子を降ろしながら言った。すると女の子は「あ、ありがとうございます!そ、そのこんな風にされるの初めてで…助かりました」
女の子は、ふふっと微笑み優多に頭を下げた。
「あなたが探していた食器は、あちらの棚の中にありますよ。よければ僕にもお手伝いさせていただけませんか?」
「えっ!あのっ!申し訳ございませんがこれはメイドの仕事なので、優多さんは休んでいて結構ですよ」
女の子は、優多の背中をキッチンの外に押して、
ご主人様も休んで大丈夫ですよっと言っていました。と女の子が言い、キッチンから追い出された。
それにしてもなぜ、自分の名前がわかっているのかが不思議であった。
それにしても、外の天気が凄いのは誰も気にならないのだろうか、そう言えば明日は僕の誕生日だけど、みんな祝ってくれるかな?
そんな事を考えながら優多は、部屋に戻る。
でもこの時、大きな事件はもう始まっていた…
8月1日
優多はウキウキしていた。
なぜか、それは
今年で優多は16歳の誕生日を迎えたからだ。
なぜか分からないが、この世のほとんどの人間は誕生日がくると心底嬉しくなる…
そんな事を思いながら、優多はいつもの服装に着替えて私室のドアを開けた。
「さて、長い長い1日の始まりだ!」
そう自分に呟き一歩踏み出した。
が、またもや香花館が昨日に引き続き寂しくなっている。住民の存在は、感じられるものの。
どこにいるのかさっぱり見当がつかない。
だが、優多はそのことよりも、窓の外の景色のほうが気になった。
“全ての天気が発されているのだ”
見たままだとこれしか例える言葉がない…
その言葉の通り、全ての天気がここで発されていた。
太陽の上に雲ができ、そこから雹や霰、雪、雨などが降っている。おまけに雷も近くで落ちている。
驚くべきことは他にもある。
まず雨だが、所々ではなく、全域に豪雨や弱い雨が降っている。
優多は窓に顔をじっと寄せ、目をまん丸にしてその風景を見ていた。
「何なんだ…この天気…絶対にあり得ない…」
「優多!大変だ!全ての多世界にあの意味不明な異常気象が起こっている!」
さすがの無限もこのことに気づいたらしく、慌てて、コピーされた資料を抱えて優多に押し付けた。
「情報は少ないけど、できるだけ多く集めてみた。今日は、多世界の調査は休んで良いからこの異常事態を解決して」
渡された分厚い資料を優多は受け取り、1ページめくった。すると端から端まで全て関係ありそうな世界やその特徴を隅々まで書いてあった。
「僕の知識内ではここまでが限界だ。だけど優多ならその、見て、触れて、感じて…その経験が大きな力を十二分に発揮できる。だからお願いだ。いや、命令だこの件を頼む」
優多は、目を閉じて深く息を吸い、目を開け
「承知いたしました。この件は僕に任せてください」
と、微笑みながら無限に一礼をし、私室に戻り刀を持ってこようと思い、無限に背を向けたそのとき、
無限に呼び止められた。
「あと、もう1つ優多の身にとって重要な事を言っておきたいんだけど…」
優多は立ち止まり、無限の方に向いた。
「優多の能力は、『重力を操る能力』と『生物の域を遥かに超えた、知能、力、生命力を持つ能力』と
『様々な術を使いこなす能力』を元から持っている。優多は、香花刀を持つとき、全然重さなどは感じないと思うけど、他の者が持とうとすると重すぎて、持ち上がらない。例え、どんな力の強い巨人や鬼であっても持てないだろう。その能力を実感すれば優多は、これまで以上に強くなる。絶対にだ。以上!変な話で足を止めてごめんね!」
この言葉が本当なのか嘘なのかは、分からないが、聞いていてとても不思議な気持ちになった。
理由は分からない。ならないのが当たり前だけど、これは、自分の中では、分かっているような気がした。
なんかもう…わけわからないや。
さて…これから騒がしくなりそうだ。