酷い時は酷くてそうでない時はそうでないの
物凄く寒かったあの夜。死神から頭を下げられ、事件解決を依頼された。
『死界の変』
そういえばいいのだろうか、死界。いわゆる死んだ時の世界。それが今、現在進行形で進んでいるのだ。
このままいけば世界崩壊と言ってその名の通り、世界が壊れて無くなり、存在が消える。
そんな大事を、今まで小さな事件ばっか解決していた優多に任された…
「同僚から聞いている。今の優多なら絶対的に強い、君のご先祖様みたいに。万の敵を一気に相手することはまだ不可能だろうけど一対一なら話は別になる」
海は言った。可能を見る目で、
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気付けば、翌日。
目を無理やり開けようとするが、体が言うことを聞いてくれない。
やっとの思いで、体を起き上がらせ目を擦り。そして擦り終わった時、目の前にある本の山に静かにだが、びっくりした。
早速ベットから立ち上がり、本の山の前に行った。
「そういえば…」と、周りを見渡して思った。
こっちは沢山本棚が並ぶ書庫の方の部屋だった。と、
まったく、誰だよここに資料本の山作ったやつ…残念ながらもう本を置くスペースはないんだけど…
「さっきからなんですか?」
「…おはよう。今日は休日なんだってね」
「おはようございます」
声をかけてきたのはカイトだった。仕事着ではなく、普通の洋服を着ていた。
「自分も今日休日だから…まあ僕は嘘を吐いて、偽りの理由で誘う類のものは大の苦手で正直に言う」
逸らしていた目を赤く染め、優多に向けて言った。
「無限からの命令で優多の戦闘訓練をしてくれと、まあ正直やるでもやらないでも。その気にならなきゃできないだろう?だからどっちでもいい」
「やります。お願いします」
「その乗り方は嫌いじゃない。だがこれも命令で、僕達も本気を出すようにと言われている。優多の不死力は知っているが容赦はしない」
「お願いします」
「じゃあ中庭でやろう。待ってるぞ」
無限はその場で薄っすらと消えた。先に行ったのだろうか…
優多は、仕事着に着替えて刀をさげ。中庭に向かった。
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中庭に降りようと、石の階段に足を運んだその時、
真上から、何者かが落ちてきた。
幸い、咄嗟の判断で避けたおかげで、潰されることはなかった。
「待ちくたびれた、じゃあ始めようか」
そう言って、
その場に発生した砂煙りから出てきたのは3枚並んだ刃がついた槍を手に持ったカイトであった。
「逃げられると思ってやったけど的中したね。ビンゴビンゴ」
「…」
優多は、驚いた表情でカイトを見つめていた。
「言ったよね?容赦はしないって。僕は上級者以上を木っ端微塵に倒す勢いで行くから覚悟しといてね」
そして次の瞬間、カイトが槍を突き出し吹っ飛ばした。
一瞬何が起きたのかさっぱりわからなかった。が、吹っ飛ばされる感覚ももう慣れた。
すぐに状態を立て直し、刀を抜き。言った
「刀技、無斬」
刀を思いっきり横に振った。が、
「能技、能力効果解除」
カイトが片手を前に出し、思いっきり握りしめ、クイッと回すようにして、捻ると同時に、
カイトの真後ろが大爆発を起こした。
「僕の能力は無を操る能力。当然、どんなものでも無にできるし無を調整できる。説明しなくてもわかると思うけど、今君の技から発生する効果を消した」
優多は、この時思った。
『つ、詰んだ…』
「だけど優多も知ってるだろ?能力にはいずれ、
なんらかの弱点がある。だからそこを徹底的に見抜かないと…」
気づくと目の前には、カイトが自分の額にデコピンの構えた時の状態の、物があった。
「ダメ」
と、指を弾き、デコピンが放たれた次の瞬間、バチン!と大きな音を立て、優多は吹っ飛んだ。
物凄い速さで宙を軽く1回転し、2回転目に掛かろうとした時、顔を打ちゴロンゴロンと無事ではないが着地し、勢いが止まった。
「驚いただろ?」
むくりと、立ち上がった優多に対してカイトが変わらずの無表情で言った。
「僕が扱う専門戦闘術は槍と鍵と能力。だが、このデコピン技そのどれにも入らない、つまり」
デコピンにより吹っ飛ばされ何メートルか開いた距離を詰めながらカイトは言う
「ん?」
カイトは足を止め、優多を見た。うつむいた状態の優多を…気付いたら喉に剣を突きつけられたからだ。
なんの構えもなしに、ただ刀をのどに伸ばしているだけ。
「そ、」
一言しか…一言しかはっきりとした言葉を、言えなかった。
優多は、カイトが話しかけ一言目を言い終わった瞬間、刀を上に上げた。その瞬間エグい音と共に血が周りに飛び散った。
この時、ただ刀を突きつけているのではない。刃を上に向けていたのである。だから切れた。だから察されなかった。
が、
「僕を倒すのはほぼ不可能なこと」
そう言ってさっきまで血が飛び散って切れたはずの首から顎にかける大傷はまるで何もされていなかった様に綺麗に治っていた。
「僕は無を操る能力。当然死ぬことも生きることも無にした。その結果どんな怪我を負っても感じるのはその感触だけ。痛みなんて一切感じない」
グシュッ!とカイトは優多を刺す。
すると、優多は痛みのあまり苦痛の声を上げた。
そしてカイトが無表情のまま言う、
「君と同じ不死身だ」
血がだらだらと出てくるが、カイトは遠慮なしに槍をねじ込む。
優多は、歯を食いしばり槍を掴んだ。
「不死身は不死身でも違うところがいくつかありますよ。僕は痛みを感じますし、心臓が討たれれば死にます」
優多は槍を引き抜き言った
『僕は生きている不死身です』
それを聞きカイトは、
「それってつまり、不死身じゃないんじゃないかな…まあ世界には色々な思想や思考があるから否定はしないけどこれは言わせてくれないかな?」
持っていた槍を落とし、その持っていた左手ですぐさま優多の胸ぐらを掴み、同時に右拳を引き、
間を空ける事もないまま、左手を手前に引き寄せながら、優多の顔面めがけて殴った。
半分無くなるくらいに…
この一瞬、何が起きたのかさっぱりわからなかった。
顔面を殴られ、半分えぐられたと脳で理解したのは、この一瞬。痛みを感じるこの一瞬の中で結構時間がかかった。
やがて、0.01秒だか、0.001秒だか大差あるがそんな時、ジリジリと、日に炙られ焼かれる時のようにだんだんと痛みが来た。
言葉にしようもない痛みが顔面全体に殴りかかってきて、中に激痛が走る。
痛すぎて声は出せず外の音は何も聞こえない。中の痛みの音が擬音化した音だけだ。
ー痛いじゃない。辛い。でもそれでもない。痛みでもない何かが自分を襲ってくるー
蒸気を発生させながら、顔半分を修復した。
カイトはそれを確認し、言った。
「大分、修復に時間がかかったね」
「はい…前まで何も考えず痛みを負ったらできていたのに…やはり戦闘面が衰えているからですかね、鍛え直さないと」
すると、カイトがほほ笑みながら言った。
「やはり、無限も言っていた。『戦闘面では色々と衰えているから一番大事な修復力を発揮させて』と。色々と見透せているんだな」
「まあ、無限さんは『流』を操れますし、それぐらいわかるんじゃないですかね?」
「さて、今回はもう終わりにするとして何か食べに行こう。朝も昼も食べてないし」
カイトの言う通り、香花時間は27時。全世界共通時間は13時を過ぎていた。
それに、朝から何も食べてない….
「でしたら、無限さんもご一緒に外食はどうでしょうか?多分無限さんも僕が作ってないから食べてないと思うんで」
「わかった」
カイトと2人で館に戻った。
が、カイトが一旦止まり優多に服を見て言った。
「やった僕が言うのもなんだけど、そのボロボロになった服どうにかしないとね」
優多は服を見下ろした。
ベストはボロボロになり、ワイシャツも所々破け。損傷で一番酷かったのは腹部だった。血痕も残り、布の広がりが大きい。
「そうですね…でも、これじゃあもう治せないですよ…」
落ち込んだ素振りで言った。
「うーむ…でも、そんなここの経済状況は悪くないから、また無限が何十着かセットで買ってくると思うよ」
ありそうで反応しずらかった。
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無限書斎、ドア前
トントントンと、軽くノックし、
「入ります」
と一声置いてドアを開けた。
すると、カサカサカサと何か乾いた音がした。
見ると、そこには、足の踏み場のないくらいあたりは、資料書の海だった。所々に積み重なった本の山があり、無限は、優多達にまるで気づいてなかった。
「無限さん…」
「ん?きてたんだ〜何〜」
「その話の前に言わせてください…」
「?」
無限が優多を見て首を傾げた
「どんだけ散らかしてるんですか!足の踏み場がもうないじゃないですか…資料は大切にと、いつも言ってるのに!コレが傷ついたりして文字が消えたり読みにくくなったりしたらどうするんですか!…ってこの資料…」
足元にあった2枚の紙を持って優多は言った。
「物凄く大事な物なんですが…一体どういうことなんですか…?」
優多の手が震え、そして、また足元にあったファイルを拾い上げ言った
「無限さん…ファイルに常時挟んでおくと約束しましたよね…?」
優多の顔がいつもより怖くなってきている。
「あ〜ごめんごめん、直ぐ片付けるからちょっと待ってて」
そう言って、無限はパチンッと指を鳴らした。
その瞬間、資料が勝手に動き出し。次第にその動きは渦を巻く形になり色んな世界ごとに資料書や調査書が各ファイルに閉じられていき、資料本は色々な部類に何種類か仕分けられ高く積まれ、そして数分後、
優多が強く握っていた大事な書類二枚を抜いて全て片し終わった。尚、優多の持っているプリントは、パタパタと未だに動いている。
「はい、片付け完了。それでなんの話」
「無限…その前に優多に謝なきゃいけないんじゃないか?」
無限は優多の顔を見た。
めっちゃ怖い顔で自分を睨んでいた。
「ゴゴゴゴ、ゴメン…」
「物凄くカタコトじゃないですか…というか、そもそも能力で元に戻せるかと言ったらそうではないでしょう?」
「はい…」
優多は、怖い顔から普通の顔に戻り、パタパタと自ら動くプリントを離して言った
「言い訳を作るための能力じゃないでしょう?人の役に立つための物なんですから…それに、全てにおいて結果オーライじゃダメなんですからね」
「はい…深く反省します…」
申し訳なさそうな顔をしながら、頭を下げた。
今更だが、主に頭を下げさせる従者ってなんだろう…主従関係がものすごい勢いで脱線しているような気がする。
「そう言えば…」
無限が顔を上げ言った。
「んで、何の用?」
と、さっきまで怯えていたのに何もなかったかのような態度だった。実はこう見えて彼はちゃんと反省している。
そんな無限に対し優多は、
「もうお昼時ですし、ご一緒に外食どうかと、」
「いいね♪どこ行こうか?」
ノリノリだった。
すると、カイトはいつもの情のない、つまらなそうな声で
「洋食が良い」
と、それに無限も静かな声で同意し
「そうだね、僕も洋食が食べたいな〜」
「では、お昼は多世界のどこかのファミレスにでもします?」
「どこにしようか〜」
するとカイトが調べておいてくれたのか、スマートフォン。機種はみたことのないものだったがその画面を見せて言った。
「ここの世界はグルメの世界。色んなチェーン店から高級なレストランまである小さいけど大きな所。ここは?」
カイトが差し出したスマホの画面を見ると、多世界配置図が表示されており、その一つと旗がなびいておりスマホの一番上。長細い小さな枠の中に
『イルバの香』
と書かれてあった。
そして、勝手に了承も取らずにだが、その下にある説明文的な文章をスライドして読んだ。
驚くことにこちらが調査した物がほとんど使われている。
「無限さん!」
「ああ、前から言おうと思ってたけど僕たちの仕事の一部はこれに記載するためのものでもあるんだ。時代が進むにつれて便利になる世の中、やっぱり地味な事は進んでやらないといけなくなったもんだよ。まあ文通や新聞のように僕は機械よりもアナログ派だけど…」
なるほど、そんなことにも僕たちのやる事って役に立っているんだな…
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行くべき世界に着き、街中を歩いているのだがさて、どうしたことだろうか。異常なほどに自分らの周りにはスマホや、携帯電話で写真を撮る人で集まった。
やはり、有名人ってのは大変なもんなんだな…
というか、有名人と言っても大形俳優や映画女優の域ではない。王だ。
王様や大統領の域だ。
それなのにガードマンがいない…なるほど。僕がガードマン代わりか。
一瞬にして自分の立場が分かった。
どうりで、無限との距離が近いのか。毎回のように腕と腕がぶつかるほどに。
それにしても、和服のように袖が緩く、縦幅が大きい服だったりスカートのようなズボンだったり、剣や盾などの装備していたり。猫耳だったり、犬耳だったり、兎耳だったり…
思い返せば、あの時感じた新鮮な気持ちが今になっては、見慣れた風景で空気の様に感じていた。
ふと、周りの集まりの間から見える。仲よさそうに笑い会う3人。
見た感じ、僕より一つ下ぐらいだ、それを見ながら微笑みながらも少し寂しさを感じた。
故郷のこと。
やはり、忘れずにはいられない。友や、身内のこと。
あの日、能力を持ったせいで友や家族といった大切な物を失った。望んでいたことなのに、望んでないことが起きた。思えば、あの時以来親とは、再開してない
…まあ、再開したとしても誰だ?と思われるのがオチだろう。
「ねえ優多」
マイナス的な感情でいっぱいになり、耳と目が機能してなかったが、この声で何も聞こえなかった耳と周りが白くて何も見えなかった目が再起動した。
「大丈夫?目が死んでたよ?」
「大丈夫です。さて、どこ行きましょうか?」
他人から見るとさっきまでの自分は目が死んでたらしい。なんか変な気持ち…もっと他にいい例えなかったのかな、
「ところでどこにするんですか?」
世界をどこにするかは決めたものの、肝心の店がまだ決まっていなかった。
ふと、横から視線を感じ、優多は一度止まってその方向に振り向いた。
…だが、誰もいなかった。
おかしい…誰かいたはずなのに…
ー隙は増やすもんじゃないよー
若い男の囁く声。聞いたことのない綺麗で純粋な、まだ幼く高い声だった。
大衆に囲まれる中、優多は囁き声に戸惑い、周りをキョロキョロと見渡し少し混乱していた。
ふと、人とすれ違った。超有名人を囲む大衆の中。
堂々と真ん中を、優多たちの横を通った。
だが、おかしかった。通った人は、普通だったのに何だか普通じゃない。
オーラというか、気というか、常人にはありえないものだった。
「優多何見てんの?」
「あ、いえ。何もないです」
ガッと胸元を掴まれ、無限が自分の目線に合わし、小さな声で言った。
「ぼくも感じた。あの者に今は近づくべきではない気がする。今回の事件にも関わってくるかもしれない。ここにいる人らに色々と警戒されぬ様自然にしよう。万が一の事も考えて、いつでも戦闘開始できる様に、備えておいてね一応その者から発される気やオーラの流れを消していし、今のこの状態も都合よく誤魔化してくれる。だから、ここにいる人たちには、気づかれてないし、怪しまれてもない」
静かに、落ち着きのある声で言った。
優多は、『分かりました』と首を小さく縦に振り、
無限は、優多の状態を起こして言った。
「死界の破壊状況も、進行を遅くするのが精一杯。何か術が張られている。そこで優多には、元々素質のある『様々な術を使いこなす能力』の覚醒をする」
帰ったらね、とだけ言い残し、歩を進めた。
ああ、酷い時とそうでない時ではっきりしてんな…
そう心で思った。




