宴会です
「うは〜♪凄い凄い!」
メイドなどのお手伝いさんが準備でバタバタと周りが忙しい中、無限は自分で作った和室を自画自賛していた。
「良いね〜良いね〜特にこの畳の香りとか障子とか!あと障子の前にあるベランダみたいのも!」
無限は裸足で庭に下り、縁側に頬ずりしていた。
と、そんな無限を見下ろして優多は言った。
「ベランダみたいなものではなくて縁側ですよ」
「それそれ!縁側だ縁側!そういえば、ご飯の用意は?」
「その前に…」
優多は困った顔をして無限に言った。
「縁側のすぐ下にサンダルが置かれてあるのになぜ裸足で降りたんですか?今タオル持ってくるので、そのまま上がらないでくださいね。それと料理はもう出来ていますが、それを置くための台を今作ってくれているので完成したら料理を置きます。今日はビュッフェですよ」
約一時間後…
風と山や森林の中の木々の音以外なにも聞こえない静かな夜。無限が造った和室の中に香花館のメイドやお手伝いさん、門番などを含めた50人の住居人が3つの大きなテーブルを囲い全員、前に出ている優多の方向を向いている。
「えー、本日は我が香花館の主であり、この多世界の中の要とも言われる無限様の考案で『月見』を…」
「違うよ!『お月見だよ!』」
「あ、失礼致しました『お月見』をすることになりました。それでは、長らくお待たせしました。グラスをお持ちください」
全員がグラスを持ち、前を向いたところで、優多は言った
『乾杯』
途端に周りが騒がしくなり、いきなり酔って赤くなる人も出てきた。
「今回はビュッフェで、料理は7種類ご用意しました。今季は『秋』ということで一部ではありますが旬の物を使用しています」
まるで宴会のようだ。
「おーい優多〜」
無限だったが、酒を差し出してきた
「なんですか?僕はまだ未成年ですので飲めませんし、飲みもしませんよ?」
「分かってるって、でもこれノンアルコールだから!全然僕でも酔わないよ」
酒のラベルを見た
『アルコール度数 78%』
「死ぬわ!どこが、ノンアルコールなんですか!」
「え〜でも、優多は超人なんだから大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないに決まってるでしょう…それに無限さんは物凄く強い方なんですから同じにしないでください」
本当に、そうだ。前の宴会でアルコール度数300%というありえない数字の物を目に焼き付けてしまった。無水エタノールの3倍だ。それで無限が瀕死状態になったのを自分は今でも覚えている。尚、本人は覚えていない模様。
そりゃそうだ、「大丈夫だ」と、一言言って一口飲んだ時、手が震えグラスを落とし、半目状態になって口が閉じず、何も言えないまま白目になって倒れたんだもの。そりゃなんも覚えていない。
翌日、なにもなかった様に起きて、昨日のことを丸々存在自体忘れていた事には、こちらも流石に震え上がった。
「とにかく僕は飲みません」
「そんな〜いつになったら飲めるんだよ〜」
「5年後ぐらいですかね。まあ20歳になっても飲むかは分かりませんが」
「…」
優多は立ち、
「少し、風にあたってきます。酒の匂いで酔いそうなので」
「分かったじゃあね〜」
無限は出入り口に向かう優多に大きく手を振り見送った。やがて、出入り口の戸が閉まり完全に見送りが終わり、場に何か物足りない感が漂いながらも、無限はその場で仁王立ちし大きなビールジョッキ片手にこう言った。
「いよっしゃ!優多が行ったから、酒を止められることはない!ガンガン飲むぞー!」
それを言った途端、歓声が上がった。
尚、その声はちゃんと閉めた戸から漏れているので後で無限を叱るつもりでいる。
和室から出ると前には、渡り廊下がある。
実はこの和室。館と離れており、渡り廊下でつながっている。柵は無いが柱はある。この渡り廊下も和風に作ろうとしたのか分からないが落ち着いた色でできている。
今日は、珍しく月が明るい。だから明かりが灯ってないのかな?でも、いくら月が明るくても月が照るところと影になるところがあるし、今比較的3:7で影の方が大きいから色々と危ないんじゃないかな?
まあいいや、
そう思いながら、月明かりで照らされている柱に寄りかかった
林や森の木々の葉と葉、枝と枝が静かにざわめいき、
小川を流れる水のせせらぎが聞こえ、
時々優しく吹きかける少し冷たい風を感じ
夜の澄んだ空気で深呼吸をする。
目を閉じればそれまで気づかなかったことに、見えなかった物に出会える。
「あれ?優多さん?」
「はい?」
閉じていた目を開け、声がした方向に向いた。と言っても真ん前なのだが…
声がした方向。もとい真正面にいたのは、和服を着て眼鏡をかけ、三つ編みを2つおろした少女であった
「こんなところで何しているんですか?」
「え…?」
いきなり声をかけられたが僕はこの者を知らない。
「え?じゃなくて、私ですよ私!」
「えっと…」
だんだん相手の表情が不満っぽくなってきている…
やばい…早く答えないと怒られる。だけど、誰だか分からない…
「す、すいません…」
「気霊花 桃香です!気を操る程度の桃香です!」
「…え?」
「そんなに違って見えるんですか?」
ほんのり頬を赤らめながらも桃香は聞いてきたが、優多は変に動揺したまま、動かなかった。
「え…?ちょっとすみません」
優多は、額に人差し指と中指を押し付け、考えた。
あれは桃香でいいのか?でも、よくよく見たら桃香なのかもしれない。そもそも桃香だと言われてから見ると桃香としか見えない…
つまり、この美少女は桃香なのか?
「あの…」
「…え、えっと…」
優多は深々と頭を下げ、言った。
「すいませんでした!」
顔を上げ、物凄く戸惑っている、焦っているような顔で言った。
「あの…その…とにかく元の桃香さんらしさを感じさせないような格好だったので、なんというか、本当すいませんでした」
「もう大丈夫ですよ」
と、微笑みながら桃香は言った。
「確かに友達にも言われたんですよ。全然似合って無いってやっぱり私って和服似合わないのかな…」
桃香は三つ編みを下ろして、眼鏡も取りいつもの桃香に戻った。少し落ち込んで下を向いた。
「眼鏡…と三つ編みやめた今の方が断然可愛いと思いますよ」
と、優多は微笑みかけ
「今夜は月が綺麗ですね」
と言われ、渡り廊下から夜空を見上げると、そこには、満天の星空で空いっぱいに星が散りばめられていた大中小形や大きさはそれぞれ違うが、1つ1つ輝いている、ふと、星空の中央に一際目立つ大きな星が見えた。
黄色に光る惑星月だ。
「…綺麗」
桃香が声にすると優多はまた話し始めた
「月って凄く綺麗ですよね、何か心が落ち着かない時。見たら心を穏やかにさせてくれますよね。でも、驚くことに月ってただ地球の周りをぐるぐる回っているだけ。何もしてないんです」
「…」
桃香が首を傾げたままこちらを見ている
「だから、僕が言いたい事は…」
優多は桃香の目を見て微笑みながら言った。
「月のように桃香さんは桃香さんらしく。ありのままが一番可愛いです。
優しく誰かを照らし、心を穏やかにさせてくれる月はやっぱり、ありのままが一番良いと思いますよ」
「優…多さ」
「なんか、すいません。やっぱ不器用ですね。カッコつけようとしたのになんかちょっとよく分からない感じになっちゃいましたね」
あはははと、少し不器用な笑い方をする優多に桃香は言った。
『全然、不器用じゃないです』
「…え?」
首を振りながら、
「全然かっこよくなくないです、ちゃんと伝わりました、今の優多さんの言葉は本当に嬉しかったです!」
涙を浮かべ桃香は笑っていた。心から喜んでいた。そして言った
「ありがとうございます」
涙混じりに桃香はそう言った。
「喜んでくれて嬉しいです」
優多は優しく微笑んだ。
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静かな夜。さっきまで騒がしかったのとは違い今は和室に灯りも灯っていなくて静かで暗い。でも、月の光が照らして明るい。夜に似合った明るさだ、全然眩しくない。
月見が終わりお祭り会場だった和室には、優多と無限の2人しかいなかった。
2人は縁側に座り話していた。
「それで、その後どうなったの?」
無限はその話を微笑ましく聞いていた。話の区切りとしてぐい呑みに焼酎を注いで一口、
「良いな…僕にもそんな風な言葉を言える人が来ないかな〜」
「そういう類の物なんて、強く願っている内は来ませんよ」
2人を挟むようにして、盛られている団子を優多は、1つ食べ、お茶を一口すすった。
すると無限は、9本の空になった徳利を見ていった
「残った焼酎も今持ってるのが最後か…」
「もう今日の分はおしまいですから大事に飲んでくださいね」
「うう…もう見た感じ後少ししかないよ…」
徳利を覗き、軽く揺らしていた。
「分かるんですか?」
「分かる」
と、さっきからしているがもう限界というか、耐えられなくもないが、いい加減鼻をつまらなければいけないくらいになってきたので言う
「無限さん」
「ん?何?」
「酒臭いです」
「ごめん飲みすぎた」
「今日寝ておるときに来ないでくださいね」
「え!!」
夏休み。そんな時期にやるテレビとかでよくやる怖い番組をたまたま無限がチャンネル変える際に見てしまって、それからというものの脳に焼き付けられていて夜、寝る時間になると必ず僕の部屋にやってくる。
別に容姿がおっさんや気持ち悪くないのもあり、眠りに来るのにそんな抵抗は無いのだが、寝相が半端なく悪いのもあり昨日は、僕の頭に足を絡ませ、上半身がベットから落ちていた。
何の夢見てたんだよ。
「とにかく、無限さんの気持ちも分かりますが、今夜ばかりは我慢してください。酒臭いのを我慢して寝るのは絶対嫌なので」
「そんなぁぁぁぁぁぁ!いや待って!流れで口臭の原因となる胃の流れを早くすれば!」
ぱあ!と明るくなった
「いや、それでも今考えれば寝相が半端なく悪いので今日だけでも、ゆっくりと寝かせていただけませんか?」
「待って!何か策があるはずだから!」
「…」
秋の夜の縁側。月明かりが照らされ、静かだった和室が物凄く騒がしくなるのだった。
さっきまでのちょっとしたやりとりも含め、1時間ちょっとすぎた頃。前からいきなり風が吹き荒れた。
恐ろしいほどに冷たく、現に顔の前に構えていた腕が凍り始めている。
そして、その驚くほどに冷たい風はすぐ止んだものの、辺りの気温が今まで以上に低く。身体の震えが止まらなかった。
「む、無限さん…」
するとそれまで警戒心強目の強ばった表情だった無限も柔らかい表情で、
「大丈夫」
そう言った。
「敵じゃない。恐らく死の世界からの客人かマイナスの方の温度系能力を持ったものだろう。敵だったらまずこんな襲撃の仕方をしないよ。それにこんなに短く切り上げる訳が無い。
すると、後ろの戸を開き誰かが入って言った。
「その通り。こんな時間に申し訳ないが、話があるから上がらせてもらう」
そう言って靴を脱いで、和室の畳に足を踏み入れた。彼は、深く黒いマントを被っており、手には大きな釜を持っていた。横には、青白い炎で燃える頭蓋骨が浮かんでいた。大きさは、普通の人の頭蓋骨と同じくらい。
「えーと君は…」
無限が座った彼に問いかける。すると彼ではなく優多が、
「無限さん、彼は多玉 海さん死神で死を操る能力を持っています」
すると、彼は顔を上げ言った。
「優多が言ってる事に間違いは無いが、多玉 海という名は、あだ名であって本名は別にある。死神と言う点では、少々違っているのかもしれないから言うけど僕は死んだ。だから『魂』と思ってくれ、尚。僕の顔半分を覆ったオペラ座のファントムの仮面みたいにつけている頭蓋骨の半分は、生きていた頃の物だからこれで現映、実口…色々と制御ができている」
海は被っていたマントのフードをめくり、話した。すると、優多が、
「海さんにはいつもお世話になっているんです。死界の情報とかもきっちりと分かりやすく報告してくれるので助かっているんです」
「ふーん…結構勤勉なんだね♪それで、ここにきたにはただ話をしに来たわけじゃ無いよね?」
無限は早々と本題を話すように言った。
と、海も色々と察したので、早々と本題に入った。
「実は、死界の様子が近頃変なんだ…ここ2日3日続いた出来事だし、はっきりとした証拠や情報とかもまだ全然取れていないからまだなんとも言えないけど…」
海の前方に優多と無限は座り、詳しいことを聞く事にした。
「では、海くん♪まず死界の様子が違うと言ってるけどその事件内容を聞こうかな〜」
すると、海は全身のあらゆる場所のポケットを探り、胸のポケットから何かを取り出した。
「あったあった。これだ」
「写真?」
見ると20枚ほど死界だろうか?それらしき写真が写っていた。が、気になることは写真に写る景色ではなく写真に入った『ひび』である。
「実際には、見えないし感じ取れないのだが、写真にはこう写っていた。つまり」
無限は納得した顔で言った。
「うん、これは“世界崩壊”だね。早くなんとかしないとそれにここは死界。崩壊したらえらいこっちゃになるね」
「そこでだが…」
無限は優多の方向を向き、言った。
「優多の力を借りたい」
はっきりと、変わらない表情で言った。
「今まで今回ほど大きなものでは無いが、色々な事件を解決してくれたんだから優多に頼みたい」
海はそう言って頭を下げ、願った。




