決戦前の最終チェック
時は、カタリーナを倒しボス。というか主犯がいる世界に案内してもらい、その世界に降りたった直後。
やはり、ここは攻めの戦略の基礎知識。
相手は自分の行動を読み取り、そして大量の陣をスタンバイし、ターゲット。この場合自分が現れた瞬間一気に襲いかかる。
だが、それを真っ向から反撃するのも悪くはないが、それでは脳がない。
戦などの戦いの場では二の次三の次と色々な技が出て来て、結局は一方攻撃でこちらに反撃する隙も与えないだろう。それほど、相手はこちらの情報を仕入れている。もしかしたらもう僕たちがここにいるということが知られているのかもしれない。地に忍か空に忍か…
少々、作戦が必要のようだ。
と、あれから5分ほど考えた。
通常、というか当たり前なのだが、戦いというのは、相手。敵を自分の思い通りに動かしたもの勝ちだ。
だがそれが全てが全て、上手く行くなんて虫の良すぎる話だ。
この世界は、“カタリア”
城中の香
と呼ばれるところで、主に貴族達が住まう世界。
世界は小さいが位は『香』と、ものすごく高い。
どれだけ小さいかというと、地球にあるオーストラリア大陸4分の1程の大きさだ。この表し方だと分かりにくい。
まあ世界の端は、高い高い壁が合って(地球の場合世界の端を示すのは、宇宙の端)そこから、地域ごとに色々な高さの壁で囲まれている。
その全体像は、まるで、大きな城のよう。その城の頂上には、白の十字架が目立つ教会が建てられている。
「立派だ…」
大小様々な高さや大きさの壁に囲まれたカタリアの小さな広場。
そこにいた優多は、城の頂上にそびえ立ち。陽の光に反射してキラキラと宝石の如く反射している教会に対し、つい声が漏れてしまった。
カタリーナから、
『ボスこと主犯である入山導 再古真っていう神人類は教会辺りにいる。
だけど先に手を組んでいる天正之一 悲雄残を倒しておいた方が良い。先に主犯である入様…いや、再古真を倒しに行くと、絶対に加戦してくるから』
とのこと。
何だかゲームの攻略文みたいである。
仲間ではないという認識から色々と、一部だけど戦闘において大切なことを教えてもらった気がする。
『それと、再古真の能力は“在るを無にする能力”で、自分の在。いわゆる、いることやある事が、無と化する。
天正之一の能力は“一にする能力”いわば、1番最初にすることだね。戻すとは違って、自由にコントロールできない。
まあ二つの能力は物理的なもんじゃないから効果回避するとしたら、まず再古真の方は心理的能力を回避する策でメジャーだけど、過去や自分の中身を読まれないように常時無の心を持つこと。
天正之一の方は能力を発揮する時は、必ず力を発揮する時の直前直後、能力を使う対象の者の前に立つから、前に立たれたら能力を使うという認識で回避し続けて、
では健闘を祈るよ』
やはり、ゲームの攻略文みたいだった。
なお、まず始めに倒す天正之一 悲雄残(一にする能力だけに)は探す手間が省けたみたいだ。自分から来てくれた。
ガシャガシャと重装備のローブの音を立てながらこちらに歩み寄ってきた。
身長は相手の方が高いみたいだ。ぱっと見170。優多は、165センチ。5センチの差だ。
「君が陣之内 優多か…全く…カタリーナを口説くとは…」
「口説いてはいませんよ?ただ…強引に納得させました。何か問題でも?」
「ああ…問題はたくさんある。この場で戦いを勃発させられると仙人の身、再古真の友。そしてこの世界の住民の身として色々とこちらに被害が…」
「悪いですが僕はあなたや、再古真さんを殺しそして、この世界を壊そうとしているのではありません。戦闘をするのはこの事件を解決する為です。わざわざ僕があなたたちを半殺しにする必要はないんですよ…。ただ、あなた達は言ってもきかないでしょう?だから僕は『戦闘』をするんです」
「なるほど…言っていることに対して理解できた。ならば」
すっと手を前に出し、構えた。
「いいじゃあないですか。その戦闘を受け入れよう」
台詞を言い終わった途端、悲雄残は優多の背後に瞬間移動し、優多が気付く前に勢いよく拳で叩き飛ばした。
すごい力だ、いくら再生能力は速くても。大体の身体の臓器や筋肉、血管、骨は粉々に砕け破けの大惨事だった。またもや大きな力を受けて、原型が保てていない。まるでスライムのような気分だ。
滑りながら地面に着地したのと同時に、体が完全に治った。
と、次の瞬間。たった砂煙を割いて飛び込んできた悲雄残の拳を、優多は即座に名刀香花刀で受け返し、反撃に出た次の瞬間、ドプッと
また殴られ、吹っとばれた。
いくら、再生が速く痛みに慣れていても、きついものはきつい。痛みに慣れたというのは、“ある程度の痛みまで痛みを全く感じない”ということではなく、
“その痛みがどれくらいなのかを知っており、それを我慢できるということ”すなわち、僕は
『やせ我慢』
をしているということなのだ。
「優多。君がさっき言っていたように、僕は半殺しにするつもりだ。正義だけを貫こうとしたら、間違いであり、それをしようとしても何もできやしない。不可だ」
秒の速さで後ろに吹っ飛ばされている僕の背後に立ち、彼は優多の後頭部を鷲掴みして思い切り顔面を地面に叩きつけこう言った。
「優多。君がしていることは、正義でも善でもなんでもない。ただただ存在しない目標を存在しないまま達成しているようなものだ」
地にめり込んだ優多がぎこちなく立ち上がった。まるで生まれたての小鹿のようだが…
『何を言い出すこと思ったら…』
まだ修復は完了していなかったみたいだ。顔面から喉にかけて、血管やら筋肉やらが切れ、ウヨウヨと動いている。そのせいか、声が合成音になっている。
スーッと元の肌色に戻ったのと同時に、穏やかで丸みのある目から鋭く、相手を殺すような目になり言った。
「存在しない事をまるで本当に存在するかのように口に発するのは、仙人の柄としてあまりよくないことだと思うのですが…ね?」
優多は話終わったのと同時に、悲雄残を睨んだ。
そして、次の瞬間
悲雄残はなんらかの危険を察知し、咄嗟にある程度の距離を取ったが、
「僕から逃げられるとでも?今度はこちらからです。
能技、重力方向変換・全面」
悲雄残の体はグワンと優多の方向に引きずられ、吸い込まれるように優多の方向に向かって吹っ飛ばされた。
「いくら長距離を取っていても、重力に逆らうことはほぼ不可能なんです」
「ぼくの身体能力の強さを見劣ってくれちゃ困るな…
身体技、ラル・アリア」
ブオンと、身体中を光らせ優多の方向に突っ込んだ。
優多は、突っ込んできた悲雄残に対し抜刀で刃向かって出たのだが、驚いた事に攻撃が当たっておらず、気づいたときには、背後に立たれていた
振り向こうとした瞬間、
グシュ
という音と同時に腹が変な感じだった。
腹が熱い…
恐る恐る、視線を悲雄残から
自分の腹におとした。
「あ、ああ…あ」
上手く声が出せなかった。だって、
悲雄残の炎を纏った拳が自分の腹から突き抜けていたのだから、
目が覚めた。
どうりで尋常ではない痛みが走るわけだ。
復活しようと肉が悲雄残の腕にまとわりつくが、悲雄残の腕から拳にかけ、炎がまとわれており、再生しようとした肉は、焦げて炭になり、消えていく。
復活と消耗の繰り返しだった。
「あぁ、あ…ああ」
「驚くのも無理はないだろう。まあ死なないから大丈夫だろう?心臓を壊さない限り、動いていられるんだ。まったく…大した能力《力》だよ」
ズリュッ
と、腕を抜き、徐々に炎が消えていく。
どさっと優多は膝を着きただただその痛みに耐えていた。
「やせ我慢もほどほどにしないと。能力《力》もいつかは切れる。無限じゃないんだ。
消耗された肉は爆発的に再生し、また消耗する。そしてまた再生する…その繰り返し」
「また…何が言いたいんですか…」
「何も言うつもりは無いよ。ただ言いたいことを言ってるだけ」
「そうですか…なら」
その場からスッと立ち上がり、悲雄残の方に振り返りながら香花刀を中段に構え、
「今度こそは大丈夫そうです。さあ」
刀を一振りし、優多は勢いよく言った。
「どこからでもかかってきてください!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねえ」
「何?」
「優多大丈夫かな?」
「さ〜ね」
「随分と、適当だね?」
少年二人、
古く年季の入った椅子に座って机に置いてある、資料を書き込みながら話しているのは、香花館主の開智 無限。
その机の上に座って無限と話しているもう一人は、古山 結城。
「君には、色々な事を嫌でも任された記憶しかないよ」
「ほう…例えば?」
「優多をこちらに連れてくるように仕向けたこととか」
「あー、そうだね。他には」
「少しは考えようよ、他には、黒隊達をこちらに連れてきたり、優多を見守ってくれだったり色々」
「よくよく考えれば結城には色々とお世話になってたりするんだね」
「いや、なんだよその“よくよく考えれば”って常に頭に入れておけ」
「なんでさ」
「なんでって…」
「よし、これで今日の作業完了だな。久しぶりに自分で部屋でも掃除するかな?」
「へー掃除なんかできるんだ」
「まあ元々独り身だったからね。あ、もう26時か…結城泊まってく?」
「そうさせてもらおうかな?」
と、無限は立ち上がりドアに向かって歩きながら、考えていた。優多の今の事を…
本当は助けに行けるのだ。能力で今の優多の現状がわかる。もう分かっているのだが、それでも無限は、絶対に何があっても助けないと、心に決めたのだ。




