勇しさと愚かさと儚さの釣り合い
「最初に言った通り、僕は、手加減なしに行きます」
優多は、音速の速さで佐久夜達を斬りにかかった。
ようは、
簡単な力任せすぎる“瞬間移動”だ。
自分のもう一つの能力(生物の域を超えた知能、力、生命力を持っている能力)は、目には目を刃には刃を。超人には超人そのものの能力だ。
だが瞬間的な速さで佐久夜の“真正面”に向かったのは、良かった。考慮じていた作戦進行としては、良い切り出し方だったが、
それなのにである。“失敗”してしまったのだ。
優多が瞬間的に音速の速さで、佐久夜の真正面に行ったのにもかかわらず、もう1人を“見ていなかった”所為で、後に繰り出そうとしていた連続技の所有権が相手に渡ってしまった。
大きく宙回転斬りをして、佐久夜と真を弱らせ、無斬で仕留めよう(命まで奪うつもりはない)としたが、
今まで受けたことのない強風を受けた為、体のバランスを崩し、大胆にすっ転んで勢いよく佐久夜の方へ跳ねたところを勢いよく殴られた。
ドフンッ
と、実際に、中の内臓が混じってジュースになるのを実感した。痛さよりも気持ち悪さが優先された。
実際に思いっきりパンチされた腹を見てみれば、水面の波紋の如く統一された波が打たれ、
時間差でミサイルを思わせるかのような速さで上空に吹き飛ばされた。
風圧が凄いのが実感できる。
流石にあのパンチは力だけのようだ、神経が崩れないことでよりよくわかる。
普通、思考系の強い人、つまり僕?や無限などは、『ここ』を思い切り殴る、叩くとどうなるか知っている。
だが、ゴリ押しで強い人、つまりカイトや、勝などはありったけの力を使って相手を弾き返し、ぶっ潰す。
と、考えているとすっかり身体の方はしっかりと治っていた。水爆にも、またそれ以上の攻撃にも耐えられる体だ。ただし心臓が、破壊されたり相応しいダメージを負った場合、自分の超人そのものの能力の耐性が低下する。
それと同時に、『前から』というか、
自分の態勢的に、思い切り打たれた腹を屈折点として身体は、くの字に曲がっている。
だから方向性で見る『後ろ』という表記が正しいのか、視点からで見る『前』という表記が正しいのか。どちらが良いのだろうか…
そう考えているうちに視点の方からの前方、方向性の方からの後方から“二つの何か”が近づいてきた。
間違いない。
あの姿から見て、あれは佐久夜と真だ
まだ吹っ飛ばされて速さが緩まないどころか加速し続ける優多を追いかけてきたのは、佐久夜と真であった。
そして、佐久夜が両手を広げた途端、
目の前にありえない量の砂がまるで、高波の如く高い壁を作り、優多を追いかける。
そこで優多は思い出した。やべえ…そういやこいつ砂操れるんだった…
優多は今上空を。この砂漠の大空をありえないスピードで“吹っ飛ばされている”
そんな僕についてきているとすれば、と言うか僕に追いつこうとしているとなるとその砂の壁のような高波は、ものすごいスピードを出しているということになる。だめだ…例えが思いつかない。
「あれ?真さんはどこへ…」
いつの間にか砂の波を操る佐久夜だけで真はどこにも…
優多は、後ろを振り向いた途端見つけてしまった。
『ここに…いるよ』
気づいた時にはもう殴る寸前の態勢をした真が恐ろしい顔で続けて、表情が余裕から焦りに変わった僕に告げた。
『お前つまんないよ』
それが、
この時一番最後の、もっともらしく僕も納得できる言葉だった。
そうだよ…僕はつまらないよ…
絶句の表情を浮かべる優多に対して最後に一言放った。
『お前。陣之内 優多の弱点は心臓。死ね』
とっさの判断で、気力刀を出し正解だった。
『力技…ラッシュ』
殴り、殴り殴り、殴り殴り殴り、殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴った!
パンチの速度が速く、戻し打ち全ての拳が残像であった。
優多はそれ全てを気力刀で打ち返したのだが、やはり準備運動はしておくべきだった。
勝因になる、者の立場が逆転したり、二回も吹っ飛ばされたりこれからもっと酷い目に遭うのは火を見るよりも明らかだ。
ある意味敵に遊ばれた。
陣之内 優多は、深呼吸をして表情を変える。
焦りから余裕へ、
余裕から自信へと
そして、
自信から勝利に繋ぐようにと改めて、自分が元々戦う為の意思という者を思い出した。
“生物は皆、1度は可能と希望を見ない限りそれを諦めてしまい、不可、無可、未可にしてしまう。だからこそ希望を見ようと、少しでも可能を信じてみようと思うのが自分の意思だ”
『!?』
「ようやく目が覚めました。続きどうぞ」
優多は顔は余裕ぶった表情とは違い、自信に満ち溢れていた表情だった。
『怖を消したか…到底僕には理解できない…ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
真の雄叫びと共に、鉄拳のラッシュが始まった。
殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り殴り、殴り続けた。
ただ殴っているのではない、一回一回全力で殴っているのだ。
だが、優多の表情は変わらずその鉄拳一回一回を刀で払い打ちをし、優多と真の両者一歩も譲らない。凄いことになっている。
優多が刀を振りかぶっているのは一回だけに見えているが、実を言うと4、5回は瞬間的に振りかぶっている。
真の手が一瞬だけ止まって見えるのは残像だ。だが、残像だけれども、その一瞬だけ残像に残る手が優多の180度ほとんどの域にそれがある。
ガンガンガンガンガンガンガン
斜め、上、下、横、縦、右、左…
色んな方向から来る鉄拳を僕は、返し返し返し続ける。
が、急に真の鉄拳が止んだ。
そして、真は明らかにヤバイものを見る様な目で後ろを見ていた。
途端にどんどん辺りが暗くなってきた。
曇ってきたのかな?
そう思い、後ろを見て思わず目を疑う様な明らかにヤバイものが攻め入っているところを見てしまった。
「壁だ…」
そう、砂の壁が…ざっと地上から約300メートル近い高さだ。(僕たちの場合ざっと地上から120メートルほどだ)
『おっ!おい!佐久夜大きくしすぎだ!』
声が細くて届こうにも届きそうにない。
だって本人は、その砂の壁のてっぺんに座っているのだ。胡座をかき、堂々としている。
『さて…見せてあげよう。これぞ砂の力!
能技、砂の壁!!!!!!!!』
そして、それを言った途端。
砂の壁の突進速度が倍に速くなり、気がつけばもう5mほど。いや、それ以下だ。
『三久夜ァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
いきなり真が、僕の近くで叫びだした。それも、物凄い音量だ。僕の体どころか、地上の道路や砂漠も広範囲によって大胆にえぐれている。
真を見てみるが、さっきまで無表情だったのがまるで嘘だったかのようだ。
「ちょっと、真さん」
『うるせえ!話しかけるな!』
「いや、うるさいのはむしろ貴方の方でしょうが!ああ…もう見てられない…我が名刀なる気力刀。我が力に斬れぬものなど存在皆無の技!
刀技、無斬・真!!!」
左手は鞘を持つように右手は収められている刀の柄を持ち勢いよく刀を抜き青白く放たれる光を残しながら宙を斬った。
そして、数秒後。
ガッ
と、
砂の壁1面全て、綺麗に斜め真っ直ぐに亀裂が入り、
途端、
その亀裂が一気に爆発した。
バンバンバンバンと、一つ一つではなく、
バンッ!!!!で、一回きりだ。
そして、異常なほどの砂や砂煙撒き散らしながら
ズズズズズズズズズズズズズズズズ
と、遅いようで結構早い。
そんな速さで砂の壁の半分上は、斜めに勢いよく滑り落ちた。
その頃の三久夜の様子でも少しは中継しとこう。
『あれ?ちょっと待って。これ…なんか沈んでない?やばくないか?』
案の定、焦っていた。
『あれ、前の景色がなんか速く流れてきてる…やばい…加速してんじゃん!ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!』
三久夜は落ちるスピードがだんだんと速くなっているという事に気がついた途端に、上へと猛ダッシュをし始めた。
が、これも案の定、スピードに足を合わせられる事もなく、最終的に転けて滑り落ち、砂煙と瓦礫の中に姿を消したのだった。
そして、上半分が滑り落ちると同時に下半分が擦れ合うため、下半分は細かくヒビが入り下半分も上半分が滑りながら破壊された。
それに、勢いよく進みながらだったので、前から崩れるように砂の壁は破壊された。
よって、
砂の壁は始め壮大、終わり地味のしょうもなさすぎる結果となった。
ガチバトルは急遽終了し、
瓦礫に埋まった三久夜を捜す事になった。
「ったく、何で優多はあんな技を振るっちゃったんだよ。人の域を超えた知能を持っているんだからわかるでしょ?」
この時真は、例の獣人の姿ではなく人の姿に戻っていた。どうやら時間切れらしい…
「いやあ…すいません。やっぱりあのままじゃ僕たちが危なかったので…それにしも見つかりませんね…大丈夫でしょうか三久夜さん…死んでないでしょうか…」
「人を事故に巻き込ませといて、心配だけは人一倍なんだな…ってか神に向かって演技でもないことを言うなよ…」
僕はあっちを探してくるとだけ言い残し、広範囲に散らかった壁の瓦礫の山に消えていった。
そう言えばアニメや漫画で見る主人公能力者の多くは、強くて、勇ましくて…でも少々愚かさもあって同時に儚さもオマケに付いていて…
それが原因で仲間との裏切りがあったり絆が芽生えたり…色々な人間関係が生まれる。
そしてプラスα、中途半端に強い。
あれから捜すこと約15分。
瓦礫の山を根っから探してようやく三久夜を見つけた。
呼吸、脈を確認し無事異常が無い事を確認したので今度は離れ離れになった真を探した。
こちらは、三久夜ほど時間はかからなかったので全然苦労しなかった。因みに、三久夜をどう運ぼうか考えたのだが、やはりここはおんぶだろうとおぶったのだが、そこで僕は後悔した。
腰がひん曲がった。すぐに回復はするものの痛みは普通に神経を通じて伝わるのだ。(神経を壊されていたら別の話)
まあ不幸中の幸いでは、痛みに耐えその状態を維持できたという点と
後ろに倒れて気絶三久夜の頭を打ち、もっと状態を悪化させると言うことは防げたという点だ。
真と再会した時は、一応三久夜も神なんだからそれなりの対応を見せてくれなり、友達である僕だから見逃すんだからねなり、色々と言われた。
「ん?というか一応神ってかわいそすぎませんか?」
「うむ、確かに優多の言う通りだな」
こいつ…すんなり受け入れやがった。
「それに友達って…上下関係で言えば三久夜さんの方が貴方より上なんでしょう?」
「それもそうだね」
まただ…またすんなり受け入れやがった。こいつ神が神でいいのだろうか?少しは、自分の言ってる事に責任を持てないのかな?
「よし、ということで後は、僕が天界に連れて行くから、後は任せてくれ!」
と、胸に手を当て自信満々に振舞っていた。
「あれ?もう貴方が言う遊び、いわゆる殺し合いはもうやらないんですか?」
優多は三久夜を真に渡しながら言う。
「うん?いやまあ天界は普通暇だけど、三久夜を看病するっていうのも結構楽しいからもう遊びはいいかな?それじゃまたね〜」
と、金色の羽根を数枚散らしながら大空高く舞い上がった。
この空間。
今もなお、なぜか1人にされたという。
『孤独』
という感情を陣之内 優多はただただ味わっていた。
騒がしかったのが急にいなくなると、なんだか寂しくなる。
「準備運動も済んだことだし…そ、そろそろ事件解決に向かいますかね…」
陣之内 優多は、ダメージを受けていた。
優多はあの砂漠の地から分かれ道も無ければそもそも曲がり道がない一本道の真上を飛んでいた。
この世界、実はまだ未開の地で似たような世界で
『失くなりの地』で知られる孤の界だ。砂漠と道路以外目立つものはない。
それにしても青空が綺麗だ。
訳あってこの世界の時間は、時の戦という歴史的大戦争で被害を受けたため、この世界のある程度の時間。成長や、時間など、この他にも色々なものが止まっている。
もうそろそろ世界共通時間が5時を回ったところでようやく、目的地に着いた。
世界を行き来する為に欠かせない白い扉。
『世界移動の扉』
優多は宙に浮いた白いドアを開け、世界と世界が個々で存在する空間。“多世界”へと、姿を消した。




