幸せの中にある願い
その時僕は、
桃香に連れられある場所へと向かった。桃香の手で目隠しされながら。
「絶対手を無理矢理どけちゃダメですよ?」
そんな事を僕に言い聞かせながら歩いていた、
そして、あるところを越えてからは何の音も聞こえなかった。
温度は室内の時と全く変わらないが、音は風の音も何も聞こえなかった。
「あの…桃香さん?」
「はい?」
「その手をどかしてくれませんか?」
「ダメです。絶対に」
「なんか?静かすぎません?まさか僕を落とし穴に…」
「そんなことはしないから大丈夫です。さてここで止まってくださいね。私は離れますが…」
「もう目開けて大丈夫ですか?」
「まだダメです!」
桃香の表情は目をつむっていて分からないが、声からして微笑んでいた。
「もう開けていいですよ優多さん!」
優多はゆっくりと目を開ける。
ずっと目をつむっていたので目の前が明るすぎて目が開けていられなかったが、だいぶ落ち着いてきた。
まず最初に目に入ったのは、白い段幕だった。
優多はそれを見て目を丸くした。
『優多の16歳の誕生会』
優多は口を開けたままそこから動かなかった。
いや、動けなかった。
「あ…あ、あ、あれ!あれ!あれれれ!あれは?」
優多はあまりの驚きに段幕を指す手が震えていた。
「!!え、え、え!」
先ほどは無限だけが、段幕の下に立っていたが気付いたら段幕の下には香花館の門番やメイドや住人がそこに集まっていた。
「驚かせてごめんね!」
「アレ!ああッ!、の!こ、こで、コル、コルァここここ!」
「どうやら心の整理がついていないみたいだね…優多本当にごめんね?」
「へ?」
優多は、はてなの表情を浮かべ無限に首を傾げた。
「本当は昨日中にできたんだけどさ、優多がちょうど事件を解決しに行っちゃったから…」
無限は申し訳なさそうな顔で優多に近づいて頭を下げた。
「本当にごめん!優多!」
「…大丈夫です。無限さん達が僕の誕生会を開いてくれるってことは、本来は僕が頭を下げるべきです。
無限さん。頭を上げてください?」
「え?」
そう言いながら、無限は頭を上げた。
「さて!せっかく、用意してくれたんです!
みんなで盛り上がりましょう!」
『おー!!』
場に物凄い歓声が上がった。
「では、この場を代表して香花館主、開智 無限が乾杯の挨拶をさせていただきます!乾杯!」
『乾杯!』
一斉にグラスがなり、その音が始まりの合図かのように周りの人たちはみんな、優多の方に駆け寄った。
1人の少女は彼を見ていた。
尊敬する先輩を。かっこいい先輩を。
端っこの方で一人紅茶の用意を、しながらあの人の楽しんでいる顔を見て、私も笑う。
もらい笑って言うのかな?こういうの…
とにかく、私の今まで会った中で彼、優多さんはかっこよくて、頭もよくて、優しくて、決して仲間を裏切らないで…どれをとっても完璧な人間…
私があの人に最初に会ったのは、
まだ、新人メイドとして働き始めた時、仕事で失敗し、先輩に物凄く怒られていた時、
「ったく…あんた使えないわね。見損なったわ。遊んでいるだけなら帰ってくれない?邪魔なだけ!あんたもしかして、
『私はみんなから期待されるような仕事を、持たせられる』
とでも思ってるの?そもそも今更新人だなんて遅いし、いつまでたっても下のまんまなんだから早くやめといたほうがいいわよ?」
「で、でも…」
桃香は、泣きそうだった。
「いちいち、すぐに泣くのやめてくれない?イライラするんだけど」
「泣いてません…」
「泣いてるだろ!じゃあ目から出てるのは何?情熱の汗?それとも努力の結晶?何を言ってんだが、馬鹿馬鹿しい。どう見たって涙だろうよ!おい!」
先輩は胸ぐらを勢いよく掴み睨んだ
「違います…」
「はあ?お前口答…」
「ちょっとちょっと!いくらなんでも酷すぎますよ!この子は初めて入ってまだ少しか知らないんですよ?ちょっとは優しくできないんですか?」
と、執事さんが慌てて止めに来てくれた。
「やっときたよ。いい子ぶり。チートさんがかわいそうなシンデレラを助けにきた王子様ってか?」
先輩は私を投げ捨て、執事さんに向かっていった
「あなたには少し立場をわきまえたほうがいいと言う事を忠告しておきます」
「はい?忠告がどうしたの?私はやる事をやって、言いたい事を言っているだけ!そもそも私のやり方を否定しないでくれる?あんたには関係ないでしょ?」
「はい、確かに関係ありませんが、この方が迷惑しています。自己満足でしたら、人1人として迷惑かけないようにしてください」
「あの、執事さん!いいんです!わたしが悪いんですから」
「いいえ、たとえあなたが悪くとも、悪くなくとも、あちらのお方の態度が明らかによろしくないものなので、見逃すことはできませんし、あんまり酷いと無限さんに報告せねばなりません」
「もういい!ここにいるだけでわたしの精神が持たないわ、じゃあね」
そう言って先輩は、スタスタと去ってしまった。
「ふう、いきましたか。大丈夫ですか?」
「はい…お皿を割ってしまったり、バケツの水をこぼしてしまったり…」
「それで怒られたんですね?あ、確認しときますが、謝りましたか?」
「はい!謝りました!ちゃんと言いました」
「なら大丈夫です。これは、僕が処分しておきますので、それとあなたの筋肉ではバケツ一杯分の水を運ぶのは困難でしょうから、今度からは半分の量でもって言ったほうがいいですよ」
「は、はい…」
「さて!雑巾ありますか?」
「ありますけど…」
「じゃあやりましょう!自分でやらかしてしまった事は本来自分で片を付けることですが、僕も手伝いますんで早くやっちゃいましょう」
それから彼のことが知りたくなって主さまに聞いたところ、優多って名前だという事を知り、それ以来あの人、優多さんを探すも、仕事が忙しく見かけるのは最高でも週に一度しかいなくて、ゆっくりと話せない。
常に仕事熱心な人だった。でも、そんなところも素敵だった。
そして、
気付いたら優多さんのことが、
ー好きになっていたー
いや、自分から望んでいたのかもしれない。
「私、気霊花 桃香は陣之内 優多さんのことが好きです」
いつかこの言葉を、優多さんに伝えたい。
これが、小さいけど私にとって大きな夢。




