一番の幸せ
これは、
全天とその仲間が起こしたあの事件の後の話である。
あの時、全天を徹底的に叱りつけ、
もう二度とこのような行為はしないようにと、
誓わせ、雷娘や真雲、晴海、雨天の4人をどうするかすると、「香花界に保護させよう」という案が思い浮かんだが、一度立ち止まって優多は考えた。
全天を裁判に出すのが先かそれともこの4人を安全地帯に避難させてあげるのが先か…
でも全天を本当に裁判に出していいのか?
不意にそう思ってしまった。
優多の悪い癖だ。もう十二分に説教とお仕置きをした
だからもう許してやってもいいんじゃないか?
そんな思いが脳内を過ぎった。
ジー
「え、え、え?」
優多は全天を見つめる。
本当に出すべきか出さないべきか…
「よし!」
「え?」
無限さんに決めてもらおう!
そう思って全天に軽く微笑むと何を勘違いしたのか、全天は顔を赤らめて下を向いた。本当に何を勘違いしたんだ?
そして、優多は全天やその仲間と思い空気を和ませるため、話しながら香花界に向かった。
まあ、香花の世界は、界、道、集、中、香、海、里、国のどの地位でもない。
香花界は多世界の配置の真ん中の中のど真ん中に位置する。
それに多世界の通過点で『最高峰の世界』なのだ。
だからなのだろう。
あんまり、年の差はないのにおどおどしている。
最初の度胸はどこに行ったのか…
僕が話すたびに姿勢を正している。
なんなんだろう…変な宗教みたいだ。
だが、所々反応が新鮮だった。
話すたびに、
「へえ〜」や「そうだったんだ!」
などと言った反応をしてくれる。
やはり、香花の者は色々と複雑なのだろう。
なめられていたり、変な勘違いをしていたり…
それなりの関係を他の世界と築いていたのだろう。
何をやるにも、香花がトップに立っている。
多世界の管理だって香花界が一番だし、能力や知能的な強さや力も他の世界と比べて香花界がほとんどだ。
「ここが…」
「世界の通過点…」
「香花…界…」
5人は、口を開け香花界の空気に触れた。
「これが…香花界の空気…」
「うむ、余計な匂いもせずスッキリとした純粋な空気じゃ!」
優多は五人の反応に、よほど香花界は凄いことを再確認した。
「さて、香花館に向かいましょう」
会って1時間ほど経てばその場の雰囲気に慣れるのか?
一斉に歓声が沸いた。
まあ1時間ほど一緒にいれば、慣れるかも。
そう思いながら、香花館へ向かった。
道中いろいろな説明をしたが、その話に一番興味をわかせて聞いていたのは雨天であった。
そんなこんな雑談をして、着いたのが香花館。
白と紺を主に使った和と洋が混ざり合った、
明治風な建築式だ。
結構僕はこの建築式が好きだ。
そして館内だが、これは中世ヨーロッパの邸宅のように、大理石が壁や天井や床に使われていて、ものすごく豪華だ。
それに大きい。
そして、僕は家に帰るつもりで入ったが、彼らはそういかなかった。
玄関で止まったまんまだった。
「どうしたんですか?」
「入ってもよろしいですか?」
許可を得ないと入れないのかな?
まあ、礼儀だし重んじることか。
この後もたくさん行き詰まって無限。
我が主人に会うまでに約2時間ほどかかった。
「ただいま帰りました。今日はお客様がいらっしゃっているので、仕事を一旦休めてこちらに来てもらいたいのですが。」
彼らには応接室で待ってもらい優多は1人で無限の書斎に行き、扉の前で無限を呼びかけた。
すると、ガチャリと音が聞こえた次の瞬間
ガシャン!
「優多!無事に帰ってこれたんだね!あれ?優多どこいったの?」
「こ…こです。扉を開けるときは、ゆっくり開けてと言ったじゃないですか…」
優多は赤くなった額を押さえながら無限に話しかける。
「あははは!ごめんごめん」
「まったく…どうするんですか!この扉!外れちゃっているじゃないですか!」
「え?あ、ごめんごめん」
見るとドアノブからドアの開閉する器具にかけて外れていた。
「あーあーどうしようねこれ」
「知りませんよ!もうまた買ってこなきゃじゃないですか〜(泣)」
「でもよかったよかった」
「いや!これのどこがいいんですか!?」
「無事に帰ってこれたでしょう?それだよ♪お疲れ様。よくできました!」
無限は、優多の頭を撫でた。
それに対して優多は嫌な顔せずに、受けた。
優多も今では、香花館の一員。家族の様な物だ。
「さて、お客さんはどこに?」
「応接室です」
「ほうほう…じゃあ応接室にレッツゴー!」
無限は、こんな真夜中なのに、結構騒いでいた。
ギイィィ…バタンッ!
大げさだが、本当にそんな音がする。
他の部屋もそうだが、古びていてシミのついた壁や天井、傷がついた床や机や椅子、傷んだカーペット。
どれを取っても綺麗とは言い難いが、ちゃんと掃除はしているので、ちゃんと生活感が出ている綺麗だ。汚したらそれがはっきり目立つほど。
「さて!皆さんこんばんは!こんな遅くまでよく起きてられるね〜僕はもう眠いや〜君たちはここに泊まってもいいからね〜それと、優多」
「はいなんでしょうか無限様」
「おっと口調が変わったね〜」
「もう流石に、忠誠心をつけなければならないのに気付いたので…それで、なんでしょうか?」
「この人達の客室を人数分用意して、着替えも準備してくださいな」
「承知いたしました。では、お客様」
「お客様!?」
変わった優多の口調に驚いてはいたものの、まさか自分がお客様と呼ばれるのは思ってもいなかったことらしく、4人はそれ以上に驚いていた。
「では、行きましょう」
そう言って優多はドアを開け4人を誘導させる。
「…」
「…」
「…あの…なんですか?先ほどとは全然違う顔つきですが」
「え…あっと!その!なんだ?あの…優多のギャップが凄いなあと思って…」
「仕事ですからね。軽い気持ちなどで仕事などやるものではありませんから。それに僕の場合、物に対してではなく、人に対して、それに自分より目上で偉い人なんだから立場をわきまえないとですから」
「なんだか…重いんじゃな…」
雷娘が言った。
確かに重いが、案外楽しいものだ。
「それに…辛そう…」
真雲が言った。
確かに辛いが、案外身のためになっている。
「あと、つまらなそう」
「発言していい言葉と悪い言葉を考えましょう」
雨天であった。
言ってはダメな言葉ではないし、言わなくてもいい言葉である。そんな中途半端な言葉を言われ腹立たしいとは思わなかったが、ここは言っとかなければいけないところだと思った。
「…あの…いつ着く予定ですか?」
「もう少しで…ってもう着きましたね。ここから五つの扉の向こうにはあなたたちの部屋があるのでご自由にお使いください」
その後、
優多達は眠りについた。
特に優多は今日丸一日寝ていなかったようで、ベットに入ったその直後に眠った。
それほど眠かったのだろう。
結局誰にも祝われずに誕生日を過ごした。とても静かで寂しい誕生日であった。いや、そもそも誕生日というのは、案外こんな風に過ごすのかもしれない。
ジリリリリリ...カチ、
無駄にうるさい目覚まし時計を止め、優多は上体を起こし体全体を伸ばして一呼吸おいた。
-結局、誕生日を祝ってくれなかった-
そんなことは前々から分かりきっていた事だった。
だけど...なんか、こう...実は期待してたみたいな、でもそうでないみたいな感じ。分かりやすい矛盾の仕方だ。
外はまだ暗い。当たり前だ今は朝の4:00だ
突然話は変わるが、僕、陣之内 優多の部屋は、二つ用意されている。
一つは、普通の部屋で10畳と、やや広め。ベットと机とクローゼットしか置かれていない、壁は白、床は木材といった、シンプルを越して寂しい部屋だ。
次にもう一つは、部屋と言ったら大きすぎるかもしれないが、
別館の2/3程の割合の大きさの部屋だ。
例えるなら、学校の体育館程の大きさ。
当たり前だが、そこはただ単に空の空間ではなく。物が設置されている。
だが、椅子とか机だけではない。
大中小の様々な大きさの天体望遠鏡や、部屋の中央には、巨大な立体多世界配置図そしてそのまわりには、会議や集会のような大人数で使う大きな机が6つほど規則正しく縦2個、横3個で並べられている。
そしてこの部屋で最も特徴的なもの、それは、
『三階に分けられた本棚』だ。
これらを聞くと、全然見当がつかないだろう。
まず、部屋の中央部に円状の約3m程の高さの台がある。そこのふちに様々な大きさの天体望遠鏡が、5種類並べてある。
そして、その台の真上に立体多世界配置図(様々な大きさの球体が独特な動きをしていて、ある程度の範囲まで動く、多世界の配置や、その世界で何が起こっているのか分かる物。かなり大きい)が浮いている
その台の後ろに机が置いてある。
それで、3階といっても、吹抜けだ。元々本を取るために作ったもので、手すりも何もついていない。だから、本当に、巨大な本棚なのだ。
ざっと説明したが、なぜこのようなことを説明したかというと、僕は今ここにいるからだ。
説明し忘れていたが、ベットやクローゼットもちゃんとある。
周りを見渡せばそこらじゅうに観察道具や実験道具が転がっている。
普段この部屋は、多世界の天気や面積を測るためにある。
だから、本棚にはびっしりと資料や解析図など、そういった部類の本がたくさんあるのだ。
「さて、今日もがんばりますか…ん?」
優多は足元に落ちていたカードを拾い上げ読み返した。
『ベルガン、スワーモト…ラッペ?ウェルガンスパーラド、ウィッチェ…』
これは、士御倉の旧字だから…
『事件解決おめでとう。実は、言い残していたが…』
あれ?ここで切れている?なんなんだろうこれ?
優多はカードを何度も裏と表を見返したり、何度も読み返したりした。
最初の方は、何かの謎解きかと思って色々推理してみたが、どれもあてはまらなかった。
元々なぞなぞとかが苦手だったが、そのせいかもしれない。
いや、自分の性格のせいにするには、どうかと思う。
まあ、いいや。無限さんにでも聞いてみよう。
ちょうど、日が出てきたので部屋に夜らしい月の光ではなく、太陽のしかも朝方の日の光が入ってきた。個人的に朝の太陽はすきだ。
まあ、そんなことよりも『部屋から出る』という行動が先だと脳が教えてくれた。
ギィ…ギィ…ギィ
歩くたび、床がきしむ。もうそろそろ修理時だろうか?
そんなことを考えつつも、部屋の端から端まで少々長い距離を歩き、
ドアを開けた。
そして、何かが僕に向かって突っ込んだ。
メイドさんであった。
いや、突っ込んだというよりも、バランスを崩して前の方に重心がかかりすぎて転んだといった方が正しいかもしれない。
「キャア!」
「ウワッ!」
ドサッ!
接触の三重奏だ。
あと、この態勢を、…僕の上にメイドさんが、しかも抱き合っているような形。こんなのを誰かに見られていたら100%誤解以上の考えをするだろう。
「いててて…すいませんこけてしまって…お怪我はございませんか?」
「あ…いや、大丈夫ですが…ってあなたは!」
優多はそのメイドに驚いた。
「…って優多さんではありませんか!…え?」
今さっき笑顔だったのに、僕との態勢に気づき彼女は赤面しながら起き上がった。同時に僕も起き上がった。
沈黙の五分間。
それが過ぎた時、優多から話し出した。
「えーと…本当にすいませんでした。わざとじゃないんです」
「いえ、悪かったのは私です。いきなりこけてとびついてしまったんですから…
それと、私は優多さんとは一回、面識がありますし」
そう彼女は微笑んだ。
「そう言えば私の名前は、桃香と言いますなのでよろしくお願いしますね?優多さん」
彼女と会ったのは、一昨日のキッチンでの出来事だった。
「あ、あと一つ」
「?」
彼女、桃香はもう一度微笑み、優多に告げた
「お誕生日おめでとうございます」
その日、
その瞬間が僕にとって、多分最も幸せな時だったのかもしれない。