四日後
ウェールズはグヴィネズ。草木も眠る丑三つ時に。
「はあっ、ううっ……」ジェイク・ヘッド。留守中に殺害された息子の死を、自分のせいだと、自責の念に駆られ続け。そうでなくても妻子を両方喪って絶望していた彼は、息子の死から程なくして倒れた。寝たきりの生活によって身体は日々衰弱していき、今はもう虫の息。いつ死んでもおかしくない身体は、実年齢より二回りほど老けて見える。しわくちゃになって血管の浮き出たその手を、誰かが、握っていた。「あ……?」
老眼、近眼、乱視、加えて朦朧とした意識のせいで、視界はぼんやりとしていて。自分の手を握り、こちらを見つめている者の姿も判然としない。陽炎のようにぼやけている。ただ何故か、手から伝わってくる温もりがとても優しいものであることを感じて。なお且つ懐かしさも覚えていた。自然、涙が流れるような。
ジェイクは今まで、夢の中ですら、一度も息子と再会できなかった。それは自分に課せられた罰でもあると感じていた。仕方がないと思っていた。だが本音を言えば『もし今一度息子と再会することが叶うなら、今際の際の妄想であっても構わない』というほどの想いを感じてもいた。ジェイクは文字通り死力を尽くして手を握り返す。言いたいこと、言わなければならないことは山のようにあるはずだったが、とても言葉にはならない。結局、彼はただ黙ったまま手を握り返すしか出来なかった。
――――//――――//――――
「あ……っ」
握り返してきていたジェイクの手から、不意に力が抜けるのを感じたカレンは、彼の死を悟った。ほんの数秒前まで、あらゆる苦痛と苦悶を湛えていたジェイクであったが、今は穏やかな死に顔を浮かべていた。
そっと手を放したカレンは、静かに彼の家を去る。扉を開く直前に一度だけ振り返り、
「さようなら、お父さん」
と告げて。
扉の外では、キリとカブが、カレンを待っていた。
――――同じ頃、????。
ゼファロは一人で、霧深い妖精たちの森を再び訪れていた。〝一人の妖精たち〟とゼファロが、立ったまま向かい合っている。先に口火を切ったのは、妖精たちの方であった。
「ワイズネルラはもういなくなったのに、まだここで鍛錬を積むつもりなの?」
「いいや。礼を言いに来たんだ。遅くなって悪かったな」
「構わないわよ。事後処理なんかで忙しかったでしょうし」
――わざわざお礼なんて言いに来てくれただけでもびっくりしてるぐらいよ。
「でもまあ、それはそうと。折角来てくれたんだから、これをあなたに預けておこうかしら。出来れば、あなたたちの所で囲っている人間の女の子に渡してちょうだい」
そう言いながら、妖精たちは裾に手を突っ込んだ。彼女たちが取り出した物は――。




