三日後
「聞いたわよ! 人間なんか贔屓しちゃってえ! ずるい!」何年か前にもあったような光景が、繰り広げられていた。〈竜巣域〉に住まう精霊の一種族スプライト。その娘である少女が、激しい剣幕でカオスに迫っている。「今度こそ私のお願いを聞いてよ。またドリーが喧嘩でボロボロになって帰って来たの。この前から〈竜巣域〉に居付いてる、あの坊主頭のヴァンパイアと! 仕返ししてよ!」
「喧嘩に仕返しも何もあるかよ」心底から呆れ返り、憐れみさえ感じさせる目でスプライトの少女を見るカオス。「というか。お前の恋人とやらはなんだってそんな頻繁に喧嘩しに行ってるんだ。むしろそっちを咎めるべきだろう」
「だって、喧嘩に明け暮れてる男って素敵じゃない? アウトローって感じで」
うっとりとした瞳で言う少女。カオスは開いた口を塞げない。
「……お前、もしかして恋人にも同じこと言ったのか」
「言ったけど?」
「よし、お前の里に案内しろ」
「え! もしかして、やっとその気になってくれたの?」
「たわけが! 恋人の前でお前に説教してやるんだよ!」
「えええ!?」
「まあ、観念することだね」
実はずっとカオスの隣りにいたクローヴが、愉快そうに笑った。