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Five Knives  作者: 直弥
第五章「後生」
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その7

 治癒を終えた魔術師たちが、ワイズネルラの消滅を伝えるために次々と去って行く中、戦いの中心にいた三人はまだ、戦場に留まっていた。ゼファロの上下半身、その断面が緑色の光を帯びている。両方から飛び出した血管が、触手のように蠢いて絡まり合い、やがてゼファロの身体は元通り一つにくっついた。


「繋がるもんなんやな。化物じみてる。さすが異界由来の生き物なだけあんなあ。ちゅうか、生き物なんすか? そもそも」

「『異界よりの種』やその血族が生物なのかどうか。ワシも大いに疑問に思うところだが、今回の件は〝コイツだからこそ〟だろう。そんじょそこいらのヴァンパイアじゃあ、こうはいかない。ワシの治癒術は再生でも蘇生でもないからな。まあ、化物だ」

「揃ってなんつう言い草だ」

 目を開けたゼファロの放った第一声がそれであった。彼は腰を擦りながら、ゆっくりと上体を起こす。

「ワイズネルラは、どうなった?」

「消えたよ。完全にな。もう二度と現れることはない」

「そうか……。どうせなら最期の瞬間をこの目で見たかったが、贅沢は言えんか。さあ、これからどうする?」

「ワシは帰るよ。他に用事なんてないからな」

「俺も。おじさんたちも待ってるだろうし、帰りますわ」

「なんだ、あっさりしたもんだなあ」ゼファロはそう言って嘆息をしつつも。「じゃ、俺も」尻についた砂を払いながら立ち上がり。「帰るとするかな。なあ、皆」

 自分を周り囲んでいた、同胞たちに声を掛けた。彼らは皆、うんうんと頷いている。

「折角地上まで運んでやったのに、回復早々すぐにまたここまで駆けつけるとは律儀な連中だな」

 呆れていいやら感心していいやらで肩を竦めているカオスに対して、ゼファロは「こういう奴らなんだよ」と笑っている。

「いいから早く帰ろうぜ。傷は治ってもくたくただ」

「そうよ、帰りましょう。久しぶりに眠りたい気分」

「ちょっと待ってよ、カレンも連れて帰らないと」 

 キリの放った言葉に、ゼファロ派の吸血鬼たち全員が「ああ」と手を打って頷いた。

「というわけでカオス、もうちょっと一緒みたいだな。俺たち」

「仕方ないな。じゃあ、一緒について来い。全員で〈竜巣域〉に向かおう。しかし、この人数を『座標置換』で飛ばすほど体力は残っていないから」と、カオスの手が空を切ると、そこに裂け目が生じた。向こう側に広がるは、幻想的な〈竜巣域〉の風景。「行くぞ」

「おおっ!」

「私、〈竜巣域〉って行くの初めて」

「あれ、お前行ったことなかったの? 俺もだけど」

「里帰りついでにお袋に挨拶していこうかしら」

 

 わいわいと。まるでピクニックにでも行こうかという賑やかさで次々と裂け目をすり抜けて行く吸血鬼たち。春竜が呆けた顔でそれを見送っていると、一人の女吸血鬼――キリ――が、思い出したかのように振り返り、春竜に走り寄って来た。そのまま彼に、何やらと耳打ちをする。

「……え? いや、構いませんけど、いつ?」

「さあねえ。ま、いつでもいいでしょ? じゃあ」

「ああっ、ちょっと!?」そんな春竜の声を振り切って駆け足で裂け目の向こう側へ飛び込んでいったキリの姿は、一瞬で見えなくなる。「はあっ」

 肩を竦め呆れていた春竜に向かって、ゼファロが告げる。

「今日は楽しかったな」

「そうっすね。終わりよければすべて良しって意味でやったら、そうかもしれませんね」

「まったくな。……機会があれば、また会おう」

 そう言いながら手を振って、ゼファロもまた〈竜巣域〉へと行ってしまう。残るはカオス一人であるが。彼は裂け目の前で立ち止まったまま、考え込むような表情を湛えていた。


 カオスのそんな様子に気付かず、春竜は首を傾げる。

「あれ? アンタはまだ行かないんですか?」

「いや、すぐにでも行くさ。ただ、人間としてのお前に一つ訊いておきたいことがあってな」

「何ですか?」

「……違うもの同士は、家族になれると思うか? ええっと、たとえばつまり、人間と吸血鬼だとか。精霊と妖怪だとか」

「当たり前やないすか」春竜は迷いなく、どころか、この人は何を馬鹿なことを言ってるのだろう、というまでの態度で即答して。更に付け足した。「俺を育ててくれたねえちゃんなんか、元々はただの紙切れやったんすよ?」

 加えて師匠は天狗である。

「………」カオスはまず目を満丸くして口をぽかんと開けて。「あはははっ! そいつは絶大な説得力だな!」大声で笑いながら、カオスは裂け目を抜けていった。その横顔はどこか子どもっぽく、とても朗らかなものであった。

 カオスが去った直後、〈竜巣域〉と〈物質域〉を直に繋いでいた裂け目も消え失せて。春竜は一人だけとなっていた。もうこの場することは残っていない。

「知らん間に、もう夜か」

 宵の明星が輝き出した薄暗い空を見つめながら呟いて。春竜は帰路へと着き始めた。

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