その1
「やり過ぎだ」
ハワイ諸島からずっと南方に下った位置のとある諸島、その一つにて。ハトからの伝書を受け取った見目三十歳ほどの男が言った。
名はバリアー・マクベイン。
この錬金術師は、十七年前と何一つ容貌が変わっていなかった。
「戦艦一つ沈めるとは、今までにない大胆さだ。十七年もの間海に沈められていたストレスによるものか? だとしたら『降魔衆』も飛んだ余計なことをしてくれたことになるな」
「そうですね」バリアーが振り向いた先には、別の男――見目四十歳そこそこの東洋人が立っていた。「まあ、あの人たちも、なにも最高の手段を選んだつもりなんてなかったでしょうから」
「まるで他人事だな。君もかつてそこにいたじゃないか」
「ええ、かつて。だから〝他人事〟でいいんです」
言い捨てた、かつての『降魔衆』の一員。
まだどこか少年らしさを残していた十七年前とは比較にならないほど精悍な顔つき。精神的にも肉体的にも年輪すら感じさせる成長を遂げた真壁幸守は、
――やっと来たか、この時が。
水平線の彼方を眺めて感慨に耽っている。そんな彼に、
「水を差すようで悪いが、君ではまだまだワイズの足元にすら及んでいないぞ」
バリアーが忠告する。
「強くなったのは確かだ。しかしまだ十七年前の青木春にも届いていない。ずっと戦闘を専門にやって来た彼と比べるのも酷だがな。何にせよ今の君では〝やりようによっては戦闘になり得るレベル〟だということを肝に銘じておけ」
「わかってます。何度も言ってきたでしょう。俺がこの手であいつを倒すことまでは望んでいない。戦う気すらない。俺はあくまで」
「……そうだったな。思えば君のこの十七年間はすべてそのためだけにあった。まったく。ワイズへのその執着を魔術師の本分に向けていれば、今頃は『第三の壁』も突破出来ていただろうに」
「仕方ありません。あの日から、優先順位が変わったんだから」
幸守の声には毛ほどの迷いもない。もはや達観している。
「……本当にいいのか。『壁』云々はさて置いても。死ぬんだぞ?」
「当たり前です。あの時からずっと、その為の命ですから」
「それでも一応、警告だけしておく」
一呼吸置いて、バリアーは続けた。
「アレは一秒以上使うなよ」




