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Five Knives  作者: 直弥
序章「狂い鬼の冷笑」
1/47

その0

 ――――1888.12.02

「JACK THE RIPPER DIED ?」

 という見出しの号外新聞が霧の街を舞っていた。一年近くに渡ってロンドンを恐怖に陥れていた連続殺人鬼、切り裂きジャック。熟年の娼婦ばかりを標的に殺人を重ねた彼の遺体が、テムズ川の縁で発見されたという記事。衣服は身に着けておらず、全裸の状態で発見された、長身痩せ身の遺体。検死の結果、自らの喉を短刀で切り裂いて死亡したものと推測された男の身元は、一連の事件の犯人と目されていた被疑者の一人であった。だが。無論、こんな新聞が出回ったところで、人々はすぐさま信用しなかった。本物の切り裂きジャックが自殺に見せかけて彼を殺害したのではないかという推測は、十歳そこそこの少年少女たちだってしていたし、また、本当に自殺であったのだとしても、無実の殺人に対する度重なる警察の尋問に精神を病んでのことだったのではと、単純にして最も尤もらしい仮説を唱える者も少なくなかった。いずれにせよ。恐怖と狂気の殺人鬼があっさりと自分を殺し、事件に終止符が打たれるなど、当初においては誰も信じなかったのである。そもそも遺体の男はあくまでも被疑者の一人であり、彼が切り裂きジャックであるという確たる証拠は、警察も遂に見つけられなかったのだから。しかし。彼の死から数日、数週間、一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月、半年、一年と経っても、新たな切り裂きジャック事件は起こらなかった。ジャックを模倣した事件は何件もあったが、お粗末な犯人たちは皆すぐに逮捕された。他にも殺人事件や暴行事件は幾らかあったが、それらはいずれも、ジャックが現れる以前から、その地域では日常茶飯事程度に見られるもの、純粋なる強盗目的での事件ばかりであった。

 イーストエンド。切り裂きジャック事件の舞台であり、ロンドンでも最下層に属する貧困層が集まるこの地域は、産業革命以来、殊に荒み切っていた。「切り裂きジャックという殺人鬼が消えても、このイーストエンドの狂気は消えない」と、誰もが思っていた。しかしまさか。常軌を遥かに逸する狂気を孕んだほんものの〝鬼〟が二百年振りの活動を再開しようとしていたことなど、誰一人想像もしていなかった。

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