《神具》召喚②
「ええええええぇーーー、なんで人間が出てきちゃったの?」
三度目の《神具》の召喚儀式に気合を入れて行ったリナのだが、神々や精霊などの槍や剣、盾などの武具が出てくるはずにもかかわらず、人間が出てきてしまったので、驚きの声をあげたのだった。
リナの目の前にいるのは、黒い学ランを着ている少年、霆だった。
霆は状況を確認するように周りを見る。雷に撃たれた後、いきなり見たことのない場所に変わり、日本人とはかけ離れた容姿をしている白銀の長い髪で、ルビー色の目をして身長の低いリナを見て、死んでしまっていわゆるあの世に来てしまったのだと霆は思った。霆は状況がいきなり変わり過ぎていたので、頭が付いて行く事ができていなかったが、状況が急に変わった時こそ、急に大きな声をあげ騒いだりするような事をせずに、冷静に状況を分析すべきだと思った。
だから、霆は目の前にいるリナに状況を訊こうと思い尋ねる。
「……ここは……、あの世なのか?」
「……うっ……、ううぅぅっ……」
一方、リナは正気ではない。今回こそ成功させると望んだ《神具》召喚の儀式だったにもかかわらず、出てくるはずのない人間が出て来てしまったので、失敗したのだとリナは思った。しかも、出て来た人間は男だ。リナのいる世界では《神具》を召喚される事の出来ない男は弱いとされ、女性よりも社会的身分が低い。召喚した《神具》によって残りの人生が大きく左右されるリナの世界で、魔法が使えないリナは今後の人生を《神具》の召喚にかけていたにもかかわらず、失敗してしまったので人生が終わったと思い、力が抜け、座り込んでしまった。
霆はリナがどうして座り込んでしまったのかを知らないので、いきなり体調が悪くなったのかと思い、近づき、
「おっ、おい! 大丈夫か?」
と、優しく言う。
リナの心の中は《神具》の召喚を失敗して、悔しい気持ちや悲しい気持ちでいっぱいになっている。そんな気持ちにさせた元凶とも言える霆から声をかけられ、余計につらくなり、
「……うぅぅぅぅーーーー、もう、私の人生は終わりよ……」
と、言いながら、泣き出してしまうリナ。
そんな時に、《神具》の召喚を行う部屋が騒がしくなり、泣き声が聞こえてきたので、学園の先生が中に入って来た。
「どうしたんだ、リナ。
また、失敗してしまったので、泣いているのか?
って、なんでここに男がいるんだ?」
「……ひっぐっ……、ひっぐっ……」
失敗たショックで泣いてしまっていて、 声を出せないリナ。
今入って来た女性は20代前半で、髪が短くハキハキとしてしっかりとしているように見える。霆は知らない人がいるよくわからない場所にいきなり来てしまったので困っているので、泣いているリナに状況を確認する事をやめ、女性に状況を確認しようと思った。
「……ここは、いったいどこなんだ?」
「ここは、ヘーパイストス学園だ。
私は学園で教授をしているミヤルザになる」
「……へ……、ヘーパすす……学園……?
学校なのか……? 俺は、死んだんじゃないのか?」
「学校だな。
ここはあの世ではない。
ところで、君の名前は?」
「俺は、葛城 霆だ」
「聞きなれない名前だな……。
霆の様子からして、よくわからないがここにいる、という事でいいんだな?」
「そうなる」
「確かに、《神具》を召喚する儀式を行う前にこの部屋は誰もいない事を確認したし、扉にはずっと私がいたから途中でいきなり誰かが入るって事はできないはずだからな。
信じられない事だが……、霆はリナに召喚された、と考えるのが妥当なのだろう……。
だが、過去、人間を召喚しただなんて聞いた事はない。
ちなみに、霆は魔法を使えるのか?」
「魔法? 魔法なんて使えるわけないだろ⁉︎ 漫画や小説じゃあるまいし」
いったいこいつは何を言ってんだ。魔法なんておとぎ話の世界の話だろ、と思いながら回答する霆。
だが、ミヤルザからふざけている様子はない。むしろ真剣に考えている印象を受ける。
「……、魔法が使えないのか……。
よくわからないな……、もしかしたら、神々が《神具》という形で祝福を与えたのではなく、神々など自身が召喚されたという可能性も考えたのだが、魔法が使えないんじゃ、それはないだろう」
ミヤルザは考えるようにうつむきながらつぶやいていたが、考えるのをやめ顔を上げ霆の方を見て、
「霆は私達と一緒に来てくれるか?
私ではどうにもならないから学園長に判断を仰ぎたい」
「……はい」
ここにいてもまったく状況がどうなっているのかわからないし、この場所にとどまっていても仕方がない、リナもミヤルザも悪い人ではなさそうなので学園長の所について行くことに霆はしたのだった。
ミヤルザは霆の回答に、うん、とうなづいた後、
「リナ、霆を召喚した事は事情がよくわかるまで、絶対に誰にも言うなよ」
「……ひぐっ…………、わかりました」(そもそも、今回も失敗したなんて誰にも言えっこない)
「じゃあ、これから、3人で学園長の所に行くぞ」
ミヤルザはそう言って、泣いているリナの気持ちを落ち着かそうと背中を優しくさすったのだった。