契約⑦
「情け無い所を見せてしまったな」
ミヤルザがリナを誘拐した者が残した地図の場所に向かっている時に霆へ言ったのだった。
『情け無い所』というのは、学園の生徒が誰もリナ救出作戦に参加すると手を挙げなかった事になる。ミヤルザは苦々しい表情をしている。リナの救出作戦に誰も参加しないなんてありえないと思っていたのだろう。
(『情け無い所』というより、本当になんで誰も助けに行こうとしないんだよ!)
霆は、誰もリナを救出する作戦に参加しようとしなかったので怒りを覚える。
リナが誘拐されて困っているのに助けに行かないなんて、貴族とかいう前に人としてどうかと思う。魔法が使えない者を貴族として扱われないのであれば、魔法を使う時に魔法を使わない者も貴族とは言えないのではないか。
だが、今そんな事で腹を立てていても仕方がない。
「いえ、それよりも、早くリナがいる場所に着いて、なんとしてもリナを救出しましょう!」
霆は強く言う。
今は、早くリナがいる場所に着いて、状況を確認し、作戦を立てて、なんとかして救出しなければいけない。
リナが誘拐される時に一緒にいたユキミルが言うには、突然近くに現れたアキミナが普通ではない雰囲気でリナを土魔法で拘束し、連れ去ったのだという。
リナを誘拐する時にアキミナが使った魔法は、普段アキミナが使える魔法よりもレベルが高い。
アキミナの《神具》は無名の精霊から与えられた槍で土属性の魔法を得意としているが、人を拘束するほど強い魔法を使う事ができないらしい。
しかも、アキミナと親しい友人は、アキミナの性格がおとなしく、なぜリナを誘拐したのか検討つかない、という話だった。
アキミナに何か異変があったとしか考えられない。
アキミナが何かの事件に巻き込まれてリナを誘拐したと考える方が自然な流れになる。当然、地図の場所には誰かがいる可能性が高いので慎重に行動をしなければならないーー
ーーと、霆が考えていると、繁みの中でミヤルザが立ち止まる。
「地図の場所はあそこだな」
声を潜めて霆にミヤルザが言う。
ミヤルザの視線の先には開けた平地があり、リナと少女がいる。
少女は髪の長さが肩ぐらいで、赤い色をしている。
霆は少女がアキミナと話した事もなく顔を当然知らないが、状況からしてアキミナであろう。
だが、霆は念の為にミヤルザに確認する。
「あそこに居るのがアキミナですか?」
「そうだ。あそこには、リナとアキミナ以外はいなさそうだな」
ミヤルザは鋭い目で注意深く周りを見ている。
こういった事に慣れているのだろう。落ち着いているし、頼りがいがある。
「じゃあ、作戦はどうしますか?」
「作戦はだなぁ、ーー」
ミヤルザは言いかけて、霆とミヤルザが来た方を見る。
霆はミヤルザが見ている方を見るが何を見ようとしているのかわからなかった。




