契約⑤
「リナがさらわられた!
至急、救援に向かう。誰か私と一緒に来てくれるものはいないか?」
髪が短く運動神経のいいお姉さんといった印象を受けるミヤルザが、深刻な表情で言ったのだった。
ミヤルザの前には昼食中に湖に来ていた《姫巫女》達が集まっている。リナの悲鳴が聞こえた後、リナ以外に攫われた者がいないか確認する為にミヤルザが集めたのだった。
生徒の人数を確認した所、アキミナという少女が一人いなくなっていた。リナが攫われた所を見ていたユキミル言うには、アキミナがリナを攫ったらしい。
ミヤルザの言葉を聞いた生徒達は、迷惑そうな表情を浮かべ、「えー、リナなんてほっとけばいいのに、」とか、「リナって言えば……、自称貴族だっけ?」とか、「あの胸の小さい生意気な娘だよね? 私は行きたくないな」とか、「リナって、あのちっこくて可愛いくて、唇がさくらんぼの色の子よね。私が食べようと思ってたのに、誰かに食べられちゃったの?」とう様に内容を囁いている。どれも緊張感がない。特に、一番最後のはレズが混じっていておかしい。
ある学園の生徒が手を上げて、ミヤルザに、
「あの……、教授、なぜ救援をお求めにならないのですか?」
と、嘆息をしながら言う。とっても面倒くさそうだ。
「救援を求めている時間はない。
リナが攫われた場所に手紙が置いてあった。
そこには、あと30分以内に地図の場所に来いと書いてあった。
すぐに行ってリナを救出し、アキミナも連れ戻す。
アキミナの他にも犯人が複数いる事を想定して、誰か一緒に来て欲しいのだ!」
ミヤルザは生徒を見渡しながら言う。
生徒はみんな貴族になり、誇りがある。リナを助けに行く有志がすぐに集まるだろうとミヤルザは思っていた。そもそも、学園で魔法の訓練をしているのは、神々から与えられた特別な力を弱い者の為に使うためだ。
だが、実際にはそうならず、誰も救出に行こうとする者はいなかった。
それどころか、不満を言う声が聞こえてくる。「リナなんかの為に、行きたくはないわね」とか、「リナって魔法が使えないんだから、学園にいらなくない?」とか、「もう攫われて数分経ってるから、リナはもう……、めちゃくちゃにされてるだろうから、もう……、興味はないわ」というもの。
(さっきと同じ様に最後のがなんかおかしい気がするが、同じ学園の生徒なのに助けに行こうとしないどころか、心配しないなんておかしい)
霆は学園の生徒達の対応に怒りを覚えた。
(なんで誰も助けに行こうとしないんだよ!)
確かにリナの性格は最悪だ。
けれども、リナが攫われて身に危険がある以上助けに行かなければならない。それに、霆とリナ、最近ようやくお互いの距離を縮めようと模索してきた所なのに、攫われて、もう会えなくなるなんて嫌だ!
霆はそう考えていると、意を決して、ミヤルザの前に進み、
「俺が助けに行きます!」
と言ったのだった。