契約③
「男の人にとって夢の様な光景じゃないですか?」
広大な湖を見ながらユキミルが、隣にいる霆に言ったのだった。
リナと同じ授業を受けている《姫巫女》達が湖の周りにたくさんいる。女の子しかいない。
日本の東京にいたらユキミルが言ったように、『男の人にとって夢の様な光景』と思ったかもしれない。
だが、今いる場所は魔法を使えない男を一番下の身分として扱う異世界。《姫巫女》達から霆を汚物を見るかの様な視線が痛い。陰口も聞こえてくる。「なんであんな所に男がいるの?」とか、「不法侵入者かしら」とか、「もしかしたら変態かしら」とか、「本当に男か裸にして確かめてみない? 男には亀の頭が下半身に付いていると言うわ」とか、「むしろ私達が脱いで、誘惑しちゃう?」というものだった。いわゆる女子校のノリなのだろう。内容がどんどん酷くなっていっている気がする。正直言ってこの状況はつらい。女の子アレルギーや、トラウマになってしまいそう。
「いや、あまりいい光景とは思わない」
「そうなんですか」
「そうだ。けど、リナってこういう授業を受けていたんだな」
リナの方を見てユキミルに言う霆。
昨日、霆はリナから授業を一緒に受けるように誘われた。誘い方は本当に最悪だった。思い出すと怒りがフツフツと湧いてくる位、酷かった。
霆とリナの会話に収集がつかなくなってきた時にユキミルが会話に混ざってきて、霆にリナと一緒に授業を受けて欲しいと懇願される。リナなりに霆を誘う為に練習をして頑張っているとも言っていた。
現時点のリナの授業へ誘う言い方は相当酷く、霆は行きたくなかった。
だが、リナが伝えたかった事をユキミルからよく話を聞いていくと、学園長であるイリイスからの依頼でもあるとの事だった為、リナの授業に出る事にしたのだったのだ。
ちなみに、ユキミルがいるのは、ユキミルが霆の上司として監視役としてついてきている設定に学園でなっているからだ。
ユキミルは楽しそうに弾む口調で言う。
「魔法って本当に凄いですよね。あの人なんか湖を10m位凍らせてしまいましたよ」
霆も湖の方を見ると本当に凍っている。日本の東京だったら不自然な光景。冬の様に寒い季節ではないし、何か特別な機械が設置してあるわけではない。にもかかわらず一部分だけ凍っている。
今、リナ達が受けている授業は《姫巫女》達が召喚した《神具》を自由に使える様にするものになる。
霆は《神具》を見るのは二度目になるが、実に様々な物がある。槍や弓、剣、盾などなど。長さや色、装飾品も実に様々だった。
また、《姫巫女》達がそれぞれ使う魔法や威力も全然違う。湖を凍らせようとしている《姫巫女》は何人かいるが、10m位の範囲を凍らせる事が出来るのは一人位だった。
「ユキミルはリナの授業に一緒に出る事ってよくあるの?」
「初めてになります。
身分制度に厳しいこの世界では神々の子孫でない私が貴族と同じ授業に出るなんてありえませんので」
日本の東京だったら話しづらい事を、さらっと笑顔で言うユキミル。
別に嫌な雰囲気にはならない。ユキミルは異世界で生まれているから身分制度に慣れているのだろう。身分制度に慣れていない霆にとっては、厳しい身分制度と言われると毎回違和感を感じる。なんだか反発したい気持ちになる。だが、身分制度について話をしても仕方がない。
「そうか、だから、俺達は昼食の手伝いで来ているって事になっているんだな?」
「そうです。あと1時間後には昼食になりますからそろそろ準備を始めますか」
「そうしよう」
と、言いながら霆は立ち上がったのだった。