契約②
「霆、明日は、私と一緒に授業を受けなさい」
リビングにリナの声が響いた。
優しい声ではない。どちらかというと、お嬢様が下僕に命令するような声だ。
「………………、」
リナの予想外の声音に無言になってしまう霆。
リナがユキミルと俺と話す練習をしていると霆は聞いていたのにもかかわらず、可愛らしい声を期待していたにもかかわらず違うからおかしいと霆は思い驚いてしまった。
すると、リナが霆に返事の催促を求めてくる。
「さっさと、答えなさい。
しばらく会ってなかったら、鳴き方まで忘れちゃったの⁉︎」
もうリナの態度はお嬢様というより、女王様の様だ。霆を人間として扱っていない。
リナから話があるとユキミルに霆は言われてリビングに来た。だが、こんな扱いを受けるならもう自分の部屋に帰ってしまっていいだろう。
「鳴き方は忘れてしまったので、ペット小屋に戻るよ」
自虐的に言った後、椅子から立ち上がる霆。
すると、パタパタ、というスリッパの音が聞こえてくる。キッチンで霆とリナのやり取りを見守っていたユキミルが来たのだった。
「リナお嬢様、何をやっているのですか?」
ユキミルは息を切らせている。急いで来たのがわかる。
リナは、ふん、ってアゴを上げ、不機嫌そうにしている。そもそも、霆に対して普通の態度を取るなんて、リナには無理だったのだ。なんだかそう考えると霆は腹が立ってくる。
ユキミルは仁王立ちになり、腰に手を当て、
「何をやっているのですか?」
やや語気を強めて言う。
いつも笑顔でにこやかなのにユキミルの顔が、怒っている。ただ、ほっぺたは膨らませてない。もしかしたらリアルに怒っているのかもしれない。
リナもユキミルが怒っている事に気づいたらしく、たじろぎ、
「どどどど、どぶネズミ……じゃなかった……。飼い犬に散歩のお誘いをしてた所よ」
「どぶネズミ⁉︎ 飼い犬⁉︎」
いつもより低い声で言うユキミル。
ユキミルの怒りがさっきより怒りが増している。霆は自分が怒られているわけではないのに、なんだか怖くなってくるくらいだ。
でも、なんでリナがユキミルにビビっているのか不思議だと霆は思った。 ユキミルってリナのメイドで、立場が下のはずなのに。う〜ん、わからない。
リナは右足を一歩下げ、
「えーと……、えーと……、あれ、あれよ……、ちょっとした冗談よ、冗談。本番はこれからよ」
「なるほど、なるほど、では、本番を始めてください」
怒っている時に無理やり笑顔を作っているような顔になるユキミル。
「ーーうっ……」
唸るリナ。
リナはあからさまに嫌そうな顔をした後、目を閉じて大きく深呼吸をする。そして、リナは霆を『キリッ』と睨みつける。
「ばぁーか、ばぁーか、ばぁーか!」