契約①
「あっ、リナお嬢様から渡された本を読んでいたのですか」
霆の部屋に明るい声が響いた。
長い黒髪で、目がクリッとしているユキミルが昼食を持って霆の部屋に入ってきたのだった。
「ああ、読んでも頭の中に内容は残らないけど……」
苦笑しながら言う霆。
霆がリナによって木製の剣でボロボロにされた次の日、リナが読んでおくようにと本を5冊持ってきたのだった。内容は、《神具》や魔法、歴史、地理に関するものになる。
『誰が読むか!』とリナに向かって言わなかったものの、霆は読むのがめんどくさいと思った。
だが、異世界に来て、友達がいるわけではなく、何もやる事がないので仕方がなく暇つぶしに本を読む事にしたのだった。
ユキミルが机の上に昼食を準備してくれているので、霆は本にしおりをはさんで置く。
ユキミルは霆の昼食の準備を終えた後、いつも通り霆の横に座り、上目遣いになり、
「昼食は霆様が食べやすい様にサンドイッチにしてみました。
私が一生懸命に作った特製マスタード入りなのでおいしいと思いますよ」
と、言いながらサンドイッチを霆の口元に近づけてくる。
「……んっ⁉︎」
「『……んっ⁉︎』じゃないです。
いつも通り食べて下さい」
「いや、ユキミルのおかげで、だいぶ体も良くなってきたから自分で食べようかと……」
たじろぎながら言う霆。
ユキミルに食事を食べさせてもらうようになって今日で3日目。すでに8回も食べさせてもらったが、女の子から食事を食べさせてもらうのはなかなか慣れない。
「ダメです。まだあざが残っているのですから」
上目遣いのまま、ほっぺたを膨らますユキミル。
ユキミルは自分の主張とは違う事を言われた時はほっぺたを膨らませる癖があるらしい。
「……わかった」
ユキミルがせっかく霆の体の事を心配してくれているんだ、と霆は思い、返答をする。
サンドイッチを食べる。うん、おいしい。だが、しばらく自分の手を使って食べてないと自分で食べたくなる。
「そういえば、リナは元気にしてる?」
リナの事が気になって、質問をする霆。
リナとは二日前からずっと会っていない。だから、同じ家に住んでいるとは思えない様な質問になってしまった。
ユキミルは、霆からリナを気にする質問が出てきたので、んっ?、と不思議そうな顔をして、
「元気ですよ」
と、言った後、うつむいて、クスクス、と笑い出した。
霆はユキミルが笑い出したのが気になり、
「どうした?」
「毎日、霆様と話す練習を毎日私としているのですよ」
「ーーえっ……⁉︎」
嘘だろ。霆の事を人間扱いをしてなかったリナが霆と話す練習をしてくるなんてありえない。
「嘘なんてついてないですよ」
「……そうか。
どんな風に練習をしているんだ?」
「それは、今度会った時のお楽しみです」
「……そうか。嫌な予感しかしないのだが……」
「大丈夫ですよ」
「ーーああ……」
リナが霆と話す練習をしているなんて嫌な予感しかしない。リナの霆への態度を思い出すとムカムカしてくる。できればリナと話す時はもうない方がいい。
リナの話題はもうやめようと霆は思い、別の話題を探し出したのだった。




