剣の訓練⑨
ーー リナお嬢様は学園に通い出す前までは、優しい方でした。
ユキミルはその言葉らかリナについて話をし出したのだった。
リナは、魔法を使うと神のような奇跡を起こす事ができたと伝説として語り継がれているスズリミルを排出したシャプリエ家の三女になる。しかも、中学時代のリナの魔力量は、すでに最高ランクの《姫巫女》と比較しても遜色がなく、一族から物凄い期待を集まていた。
だが、その期待は魔法を使う事がゆるされる学園に入学した後に失望へと変わる。リナは魔法を使うと毎回杖を壊してしまい、魔法が使えなかったのだ。どんなに魔力量が多くても使えなければ意味がない。
リナを優秀だと思い仲良く話しかけていた友達は、リナが魔法を使えないとわかると手の平を返したようにリナを無視するようになったり、悪口を言うような者も出てくる。リナは心が大きく傷つき、人に対して不信感を持つようになっていく。誰だって、学園に入る前と後で周りの態度が180度変わってしまえばそうなってしまうだろう。
学園に入ってからの出来事によって、リナは本来持っていた素直で優しい性格からツンデレのツンだけのような性格へと変わってしまったのだった。
(なるほどなぁ……、リナにもそんなつらい想いをしていたのだな……)
高校に入ると中学時と生活環境がまったく変わってしまって、性格が変わってしまったり、不登校になる奴がいるとは聞くけど似たようなものだろう。
(現状の俺も似たようなものだ)
いきなり召喚されてしまって、異世界にいる。魔法があったり、身分制度がまったく違ていて、耐えきれなくて逃げ出したくなっている。主にリナからの仕打ちのせいで。
ユキミルからリナの性格が変わってしまったエピソードを聞いたが、やっぱりリナの家に戻りたくないという気持ちに変化はない。
「ユキミル、悪いがリナの家に戻りたくない」
頑張ってリナの家に連れ戻そうとしているユキミルに対して若干悪いな、と思いながら言う霆。
「お願いです。リナお嬢様にとって変化のチャンスになればと思っているのです」
「俺には無理だ」
「なら、あと一週間だけ、一週間だけリナお嬢様の家にいていただけませんか?」
「そうであっても、もう戻りたくない」
「それなら、私が精一杯霆様の見方をしますので、一週間だけリナお嬢様の家にいて下さい。どうかお願いします!」
頭を下げ必死に懇願するユキミル。
ユキミルの艶やかな黒髪が肩からたれている。胸も大きく魅力的だ。おそらく学校に通っていれば、クラスで1、2位を争うくらい可愛いだろう。もし、教室掃除の手伝いとかのお願いだったら簡単に引き受けてしまうだろう。
だが、今は違う。もう、顔も見たくないリナの家に戻るかどうかの話なのだ。
「……………………」
霆は悩み、沈黙になる。
ユキミルは頭を下げ続けている。霆がリナの家に帰る言うまで霆にお願いし続けるのだろう。
ユキミルが霆へお願いする声が再度響く。
ーーリナお嬢様の家に戻っていただきますよう、どうか、どうか、よろしくお願いします。




