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剣の訓練⑧

「ちょっと待って下さい」


 リナの家でメイドをしているユキミルが、霆を追ってきて肩を叩いたのだった。息を切らしており、急いで来たことがわかる。

 霆は学園に向かっている所だった。日本の東京から召喚された霆にとってこの世界の知り合いは学園長のイリイスか、学園で教授をしているミヤルザだけになるので、霆はどちらかに頼ろうと思ったからだった。ちなみに、リナの家は平屋建ての戸建になり小高い場所にあるので学園の校庭を窓から見る事ができ、学園の敷地から5分程度歩いた場所にある。

 リナの今までの言葉から霆を引き戻しそうとしないだろう、と霆は思っていた。にもかかわらず、ユキミルが来たので不思議に思いながら振り向き、


「どうした?」

「リナお嬢様の家に戻りませんか?」

「戻らない」

「どうしてですか?」

「リナの態度が酷いから」

「酷いって……」

「男が身分が低いからって散々な事を言われ、剣術の訓練ではボコボコにされ、食事も食べさせてもらえない。

 これ以上、リナとは一緒にいたくない」


 この世界にリナによって召喚されて、リナからやられた仕打ちを思い出しながら言う霆。

 ユキミルは困った表情をして、


「確かに、今日は昼食を食べ終わる前にリナお嬢様に連れられていって、帰ってきたら体のいろんな所に痛々しいアザができていたので気になっていたのですが……。

 傷の手当てをしますので、リナお嬢様の家に戻りませんか? 食事も治療道具と一緒にこっそりと持っていきますので」

「戻らない!」

「けれども、これからどこに行くつもりなのですか?」

「学園長の所に行く」

「学園長の所ですか……、」

「じゃあ、」


 ユキミルとの話が終わったと思って、ユキミルに別れの挨拶をし、学園に向かおうとする霆。

 だが、ユキミルが霆の学ランを後ろから引っ張り、


「霆様、リナお嬢様の家に戻りましょう」


 と、霆の目を真っ直ぐ見て言う。

 霆はユキミルから意思の強さを感じたが、リナの家に戻るつもりはない。


「お断りだ!」

「お嬢様は素直ではないく親しくならないと厳しい事を言いがちな方なのですが、徐々に仲良くなっていけば優しい方ですから……まだ2日目なので、もう少し、リナお嬢様と一緒にいてリナお嬢様の事をよく知ってから判断をされたらいかがですか?」

「…………、俺はもうリナの性格にはついていけない」

「なら、私を助けると思ってリナお嬢様の家に戻っていただけませんか?

 リナお嬢様から霆様を連れ戻すようにと言われておりまして」


 霆の学ランを掴み、霆の目を真剣に見て、必死に訴えてくるユキミル。

 リナの家にいた時にユキミルからも散々からかわれたが、食事を作ってくれたりしてもらったので感謝している。ユキミルにお願いされて気持ちがまったく揺れないと言ったら嘘になるが、リナの性格を思い出すとリナの家に戻る気持ちにはなれない。


「すまないが、リナの家に戻りたくない」

「私はリナお嬢様から霆を連れ戻すようにと言われているので、困ります」

「リナが連れ戻したいなら、リナ本人が素直に来ればいいのに」

「それができないから私が来たんです。

 リナお嬢様について少し話を聞いていただけませんか?」


 霆はユキミルから真剣な表情でお願いされ、急いでいるわけではないので、リナの話を聞く事にしたのだった。

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