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剣の訓練⑥

 霆が聞いた事がない声がした方を見ると、胸が大きくスラリとした姿の少女がいたのだった。髪がスカイブルー色で長く、大人っぽい印象を受ける。リナと同じ制服を着ているから、学園の生徒だという事がわかる。さっき言っていた『魔法が使えない落ちこぼれのリナは、こんな所で男をいじめるなんて性格まで落ちこぼれだったのね』と言う言葉や表情から、リナをバカにしている様な気がする。そして、男である霆に対しては、当然の様に犬以下の生き物を見るかの様な表情をしている。

 声をかけられたリナは、イラッとした表情に変わり、


「なんでエフィがこんな所にいるのよ?」

「リナが学園長に呼び出しされ、午後は授業に出なかったから心配になって来てあげたんじゃない。

 むしろ、ありがたく思って欲しいわ」

「全然ありがたくないわよ。

 さっさと帰ってちょうだい」


 犬をどっかに追いやるように、しっ、しっ、と手を振るリナ。

 エフィは、ふぅーん、とリナを観察する様に見つめた後、


「私に何かを隠しているわね」

「かかかかくしてなんかないわよ」(エフィはいつも妙に勘が鋭いのよね)

「へー、隠してないねー」


 疑いの目を向けて、リナを下から上に視線を向けるエフィ。

 リナは、エフィの視線に対して、腕を組んで、ふん、と横を向く。

 リナとエフィはどうやら仲が悪いようだな、と霆が観察しているととばっちりがやってくる。


「そこの男、リナと何をしてたの?」

「………………」

「リナから剣術を教わってたんだが」


 リナが無言で答えようとしないので、仕方なく霆が答える。

 霆は剣術の訓練をしていた事は隠しようもできないものなので、正直に言ったのだった。


「その割には、木製の剣でボコボコにされてるみたいだけど……、リナにいじめを受けてたの?」

「そうだ」


 リナに負けて悔しいと言う気持ちがあるものの、ボコボコにされ、色んな所にアザができているので、いじめられたと言っていいだろうと霆は思った。


「ーーうぉっ……!」


 リナがなぜか霆の腹に蹴りを入れてきたので、痛みに対する声が出てくる霆。


「霆が嘘をつくからよ」

「リナ、俺は嘘をついていない」

「ついたじゃない」

「どこが嘘なんだ?

 俺の体にはこんなにアザだらけだっていうのに」


 そう言って、アザをリナに見せる霆。


「ふん、そのアザは霆がつけてって言ったんじゃない。

『リナお嬢様、もっとぶって、ぶって、ぶって……、ブヒィッ』って」

「俺は『リナお嬢様、もっとぶって、ぶって、ぶって……、ブヒィッ』なんて言ってない」

「霆は、嘘つきね

 霆が気持ち悪すぎてじんましんができてしまったわ」


 そう言って腕を出すリナ。


「どこにじんましんがあるんだ?」


 リナの腕を見てもじじんましんができていないので、じー、とリナを見る霆。


「私のじんましんは、豚には見えないのよ。

 というか、気持ち悪いから、私を見ないで」


 両腕で自分を抱きしめるようにするリナ。


「リナが腕を見せてきたんだろ!」(どうして、そこまで言われなきゃいけないんだよ!)


『そこまで言う必要がないだろ!』と霆は言おうと思ったがやめる。霆が何か言うとリナの返しがどんどんひどくなっていくからだ。

 エフィは、霆とリナのやりとりを聞いていて、クスクス、と笑いながら、


「それで、そこの男はリナのなんなの?

 必死に何かを隠そうとしているみたいだけど」

「ななななななんでもないわよ!

 たたたたただの、豚よ!」


 霆の事を豚と言うリナ。


「リナは明らかに態度が怪しいんだけど……」

「そそそそそんな事はないわよ」

「じゃあ、そこにいる男はただのなんでもない豚なの?」

「そうよ」

「変態の豚?」

「そうよ」

「………………」(俺は変態じゃない。むしろ、リナが言っている内容の方が変態だよ)

「ふーん。じゃあ、私がそこにいる豚を自由に使ってもいいわよね?」

「ダメよ」

「なぜ? ただの豚なら別にいいじゃない?」

「私の物にちょっかいを出されるのが嫌なの!」

「へー、そうなの。

 けど、男子禁制のこの学園に豚がいるのが謎なのよねぇー。

 豚に興味がわいてきちゃった。

 実際にはとびっきりの情報を隠しているんじゃない?」

「ないわよ」

「本当にぃ〜?

 そこにいる豚は…………、例えば、リナの《神具》なんじゃなぁい?」

「そそそそそんな事はないわよ」

「リナは否定しているけど、豚が《神具》だとしたら、ここに豚がいる理由が解けると思うんだけれどもなぁー」

「おおおお男が《神具》なわけないじゃない⁉︎」

「だったら、身分が一番低い男なんて、私に貸してくれたっていいんじゃない? 豚なんだし」

「いいわ、貸してあげる」

「そこにいる豚は臭すぎるから、どうせすぐに返品する事になるでしょうから」

「じゃあ、借りるわね」

「ど〜ぞ……、って、やっぱり、ダメ!

 よくよく考えてみたらエフィに私の豚を使われるのは、どうも嫌だわ。

 もう帰る」


 ぷいっ、とリナの家のある方を向いて進み出すリナ。

 霆はリナに木製の剣で打たれた所が痛いのでまだゆっくりしていたいから動かずに座ってゆっくりしている。

 すると、リナが霆に向かって振り向く。目が釣り上っており、怒っているのが良く伝わってくる。


「豚ぁー、座り込んでないで、さっさと私について来なさい」

「ーーあっ、ああぁ……」


 リナの怒っている剣幕に驚きながら、頷く霆。

 霆は体が痛いのを我慢して、木製の剣を杖にしてなんとか立ち上がろうとしていると、エフィが霆に手を差し出して手伝ってくれた。

 そして、エフィは霆の耳元に口を近づける。スカイブルー色の長い髪がほおに触れ、甘くいい匂いがする。


「リナは意地っ張りだけど、よろしくね。

 私だとどうしても喧嘩になっちゃうみたいだから」


 エフィが小声で言うと共に、息が耳に当たる。

 リナとエフィのさっきまでのやりとりからは想像もつかない内容。霆は不思議に思い、


「ーーえっ……、リナとエフィは仲が悪いんじゃないのか?」

「……、簡単に説明できないわ。

 後でゆっくりと話をしまーー」


 と、エフィが話をしている途中だった。


「このエロ豚ぁーー! さっさと私と一緒に来なさいって言ったでしょうー!」


 リナの怒りがこもった声が聞こえてくる。

 霆はリナがとんでもなく怒ってるんだな、と思い、


「エフィ、悪い。俺は行かなきゃいけない。それじゃまた」

「そうね、またね」


 霆はエフィの声を聞くと共に、急いでリナの方に向かって行ったのだった。

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