剣の訓練⑤
「あんた、始まる前はあんなに勇ましかったクセに、とっても弱いのね」
倒れている霆に、リナが見下ろして言ったのだった。木に登ることのできない猿を見るかの様な目をリナはしている。
リナの顔は本当に憎々し顔をしている、と霆は思った。そんな顔をされるくらいなら、俺よりも強かったから誇らしげに満面の笑みを浮かべてくれた方がまだましだ。
剣術の訓練は、まずは霆の力量を図りたいから模擬戦形式でやりたいとリナからの提案があり、霆が了承し始まった。霆としても今まで散々バカにされてきたから、リナにやり返すチャンスだと思い模擬戦形式で行う事を了承したのだった。模擬戦を行っている間にリナに対してわざと傷をつけても文句を言われないだろうと期待したのだった。
だが、いざ模擬戦が始まってみると霆が思っていた様にうまくいかなかず、失敗した、と霆は思った。リナは本当に強かった。霆が何度もリナの隙をつこうと木製の剣を振るっても簡単にいなされてしまうのだ。しかも、リナは霆の動きを簡単にあしらっている中で、霆の体に木製の剣を打ち込むというおまけつきだった。リナはそんなに力を入れてないのかもしれないが、剣が木でできているとはいえ硬いので、体に当たるととても痛い。
そして今、霆はリナに何度も体に打ち込まれ、アザができ、痛くて動けなくなり、倒れてしまった所だった。
(こんなはずではなかったはずなのに……)
霆はリナに負けて悔しい、という気持ちがある。なんとかやり返したいがリナと何度もやりあった結果、剣術の力量の差は明らかで、どうにもならない、と霆は思った。だが、このままやられっぱなしでは霆の気持ちがおさまらないから、せめて憎まれ口でも言ってやろう。
「俺が剣を持ったのは初めてなんだから当然だろ。
リナは手加減をしてくれるんじゃなかったのかよ」
弱い者いじめするなんてヤダヤダ、といった雰囲気で言う霆。
リナに勝つつもりで模擬戦をやったのに、負け惜しみの様な事を言って物凄く惨めだな、と霆は思った。が、仕方がない。
リナは、本当に呆れた様な表情で、
「私は思いっきり手加減をしたわ。
むしろ、何もやってないって言ってもいいくらいよ」
と、『思いっきり』を強調して言う。
霆はどんどん惨めになっていくなと思いながらも、言い返してしまう。
「ーーえっ……、じゃあ、なんで俺がこんなにボロボロなんだよ!」
「霆が弱すぎるから悪いのよ。
まず、霆は私より腕力があると思って、力んで木製の剣を振り回しているのが問題ね」
「それのどこが問題なんだよ⁉︎」
「あのねー、男が女に唯一勝っていると言っていい『腕力』への対策を女が何もしてないと思う⁉︎」
「ーーうっ……」
「霆は何も考えずに木製の剣を振り回してたのね。
そんなんじゃ、ボコボコなって当然よ。
もっとちゃんと頭を使いなさいよね」
木登りができない猿どころか、スプーンを使える知能すらないんじゃない、って言いたげな表情を霆に向けるリナ。
リナが言っている事は正しいかもしれない、と霆は思った。単純にリナよりも腕力が強いと思って、力んで木製の剣を振り回していた。力んで剣を振り回すと動きが鈍くなり、隙ができてしまうのだろう。野球でボールを投げる時も力をめいいっぱい込めて投げるよりも、力を抜いて投げた方が早くボール投げる事ができると聞いた事がある。おそらく、剣術も似たような所があるのだろう。
だが、そういった間違いを指摘するにしても言い方っていうものがある、と霆は思った。俺はさっき初めて木製の剣で打ち合いをしたのだから、もっと優しく間違いを指摘してくれたっていいはずだ。リナに何か言い返してやりたいけれども、ここまでボロボロにやられてしまって、追い打ちをかけるように厳しい言葉を言われてしまっている中、なかなかいい言葉が生まれてこない。
そんな風に霆が考えている時だった。
「魔法が使えない落ちこぼれのリナは、こんな所で男をいじめるなんて性格まで落ちこぼれだったのね」
リナに対して厳しい内容の言葉が、霆にとって初めての聞く声で聞こえてきたのだった。




