剣の訓練③
「よく来てくれた」
霆がリナに連れて来られたのは学園長であるイリイスの執務室だった。
イリイスは髪がアッシュブロンドで綺麗に整った顔立ちをしており中学生の様に見えるが、口調や話しをている内容から相応の経験を積んできているであろう事を印象させる。
霆はリナの家から出た後、すぐにリナへ『どこに行くか』と聞いたら、『イリイスから霆を今後どうするかについて話しをしたいから霆と一緒に来て欲しいと言われたから学園長の執務室に向かっているのだが、霆を具体的にどうするのかまでは知らない』という事だった。
リナは霆の質問に答えた後、『男なんて雑用をやらせればいいのよ』とか、『なんで私の《神具》が男なのよ』とか、『場合によっては霆を犬として扱おうかしら』などとブツブツと呟いていた。
そんな風に霆とリナは歩きながら学園長の執務室に着いて、中に入ったのだった。
リナは学園長の執務室に入りイリイスの第一声の言葉に対して、
「学園長、私は霆を奴隷にしたいと思います」
と、イリイスの目を見てリナは言ったのだった。
リナの表情から冗談で言ったわけではなく、真剣に言っているのだという事が伝わってくる。
霆は、よくそんな『奴隷にしたい』なんて事が本人の前で言えるな、奴隷だなんて俺にいったい何をやらせる気なんだ、と思った。
イリイスは、はぁー、とため息をついた後、
「一晩一緒の家で過ごしたというのに、まだ親密度は上がっていないようだな」
「一晩で何かが変わるわけありません」
「それでは、リナの学園の成績は、残念な事に最下位だな」
「そんなぁー」
「他の生徒達は随分と《神具》を使うのがうまくなってきているぞ。
リナは遅れて召喚をしたんだから、その分遅れを取り戻せるように頑張らなければいけない」
「ううっ。私の霆に対する親密度は上がってませんが、霆は私に対する親密度はとっても上がってます」
イリイスの言った言葉に対して、たじろぎながら答えるリナ。
リナのイリイスへの態度から学園の成績を非常に大事にしているんだな、と霆は思った。
イリイスはリナの言った言葉を確かめる為、霆の方を見て、
「霆、本当か?」
「そんな事はありませーー、うぐっ!
リナはなぜ、俺の腹に肘打ちを入れる?」
「霆が嘘をつこうとしたからよ」
「……肘を……、俺の腹から……話して……くれ……ないか?
それに……、俺が……嘘を……ついている……だと?」
「嘘よ。
昨日の夜、私の部屋のドアの前で、盛りのついた犬の様にキャンキャンわめいてたじゃない」
「ーーおっ……、おい! リナの方こそ嘘をついーー、ぐはっ!
肘打ちを……、やめろ!」
「学園長、私は嘘をついてません。
それはもう一晩中、キャンキャンわめいてうるさかったのです。
霆は恥ずかしがって嘘をつことしてます」
「本当か、霆?」
「学園長、リナが言っているのは嘘でーー、うぐっ!」
「霆は学園長の前だからと言って嘘をつかなくていいのよ」
「ーーり……ナぁ……うっ……つぃ…………る」
霆は『リナが嘘をついている』と言いたかったが、リナが霆に肘打ちを腹に何度も入れ、グリグリとするのでちゃんとした言葉にする事ができない。
イリイスは、はぁー、と頭に手を当てて、
「もし、リナが言っている事が本当だとしたら、今日の夜はどうする気なんだ?」
「どどどどどどどうする気なんだって……?」
「霆がリナの部屋の前で盛りのついた犬の様にキャンキャンわめいてきたら」
「うるさかったら、縛り付けます……、じゃなかった、静かになる様になんかします」
「なんかとは、口で口を塞ぐっていうことなんだな?」
「ーーうっ……、霆とはキスなんてしません」
「じゃあ、いつになったら、霆と契約をする気なんだ?」
「それは……、」
「ーーうぐっ……!」
霆をチラッと見た後、再度、霆の腹に肘打ちをくらわすリナ。
そして、リナは右斜め下の方を向いて恥ずかしそうに、
「……霆の頑張り次第で考えてあげるわ」
と、言いながら、プイッ、とするリナ。
「本当は頑張るのはいて霆ではなくて、霆にキスをしてもらいたいと頑張るのはリナなんだけれどもな……、まあ、いい、一歩前進したと思う事にしよう」
イリイスは、うん、と頷き、やや満足そうな表情をしたのだった。
だが、確かにリナは顔が可愛いかも知れないが、性格が悪い女なんかから『キスをしたい』って言われたからって、誰がキスをするかって思った。




