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リナの家⑤

 ーー この世界で一番低い身分は、霆様の様に、魔法が使えない男になります。


 ユキミルは少し『霆様の様に』を強調して、教科書に書いてある事を読むかのように言った。

 おそらく霆に一番身分が低いとわからせる為に言ったのだろう。

 日本の東京で生活をし、皆平等の精神を教え込まれてきていた霆にとって、一番低い身分がになるのが『魔法が使えない男』という言葉は衝撃的だった。

 だが、ここでユキミルに対して、『皆平等でないのはおかしい』とかって言っても仕方がない。むしろ、どうしてそんな社会制度になってるのか? とか、ユキミルから身分制度についてよく聞いた方が有意義な時間を過ごせるだろう、と霆は思った。


「一番低い身分って事だから、『シモ』って事なんだな?」

「そうですよ」

「それで、俺よりも高い身分はどの様になるんだ?」

「まず、一番高い身分は神々や精霊になり、その次が神々の子孫である貴族の《姫巫女》である女性、次が貴族の男性、次が貴族でない女性、最後に貴族でない男性になります」

「なるほどなぁ。

 って事はユキミルは俺よりも身分が高いって事になるんだな?」

「そういう事になりますね。

 本当は身分が一番低い霆様に対して、敬語を使ったり、『様』を付けたり、メイドの仕事をしたりするのは嫌なのですが、私のご主人様であるリナお嬢様からちゃんと『メイドとしての対応をしておいて』と言ったので仕方がなくやっているのですよ」


 ユキミルは自分より身分の低い霆に対してメイドの仕事をするのは本当は嫌だと不満を言う。

 神々の子孫である貴族ではない存在という事では同じにも関わらず、性別が違うだけで身分の違いを物凄く意識するっていう事は、物凄く厳しいというか、しっかりとしている身分制度なのかもしれない、と霆は思った。

 そして、日本の東京にいる時であれば友達からユキミルみたいな事を言われたら『ふざけるな!』と言いたい所だが、今の所リナよりも真っ当に接してくれていて、一緒の家に住んでいるユキミルの機嫌を損なうのはよろしくない、と霆は考え、


「身分制度について教えてくれた事と、食事とか運んでくれてありがとう」

「いえいえ。

 私からも質問をしてもいいですか?」

「何?」

「霆様はなぜここに来たのですか?

 リナお嬢様に聞いても教えてくれなくて……」

「リナが伝えてないなら言えない」


 学園長の執務室で霆をどうするか決定するまでは誰にも話しをしない様にと言われているのでユキミルの質問に答えない霆。

 ユキミルはある程度想像していた回答らしく、あはは、と笑って、


「そうですよね。

 そうおっしゃると思ってました。

 ただ、男性禁制のこの学園でリナお嬢様の家に来たって事は何か特殊な事情があると思うんですけどね」

「……男子禁制?」

「そうですよ。

 だって、《姫巫女》には女性しかなれないのですから、男性が学園に入る必要がありませんからね」

「どおりで女性しかこの学園にいないと思った……」

「そういった意味でも霆様は貴重な存在になるので、興味を持つ方は多いかもしれませんね。

 貴族のお嬢様は厳しい身分制度から親以外の男性と話しをまったくした事がないって方は多いですから」

「ーーははは……」


 ユキミルの言い方からやれ身分制度とか、やれ貴重な存在とか、ヤナ予感しかしないな、と霆は思いながら笑う。

 ユキミルは、うふふ、と笑って、


「まあ、リナお嬢様はとっても負けず嫌いで、トゲのある様な言い方をしますが、心の中でとっても優しい事を考えてたりしますかーー」

「ユキミル、いったいいつまで霆のとこにいる気なの?

 早く来なさい、一緒に寝てあげないわよ」


 ユキミルが話している途中で、『バタン』と物凄い勢いでドアを開き、ちょっと不機嫌そうに言うリナ。

 ユキミルは、はいはい、と優しくお姉さんの様に微笑みながら、


「遅くなって申し訳ございません。

 今すぐに行きますから」


 と、リナに向かって、言う。

 リナは、霆を一瞥し、ふん、とあごを上げた後、


「私の部屋に入って来たら一億回殺すから!」


 と、言った後、自分の部屋に向かって歩いていく。

 一億回殺すって、多すぎる。普通ラノベのヒロインとかは百回殺す程度なのにな、と霆はリナの言葉を聞いて思った。

 ユキミルは、霆を見て苦笑した後、耳もとに口を近づける。


「リナお嬢様は負けず嫌いだから霆様がいたのでああいう言い方をされたのですが、二人っきりの時は『一人では眠れない』って捨てられた子猫の様に甘えてきていつも私と一緒に寝てるんですよ。

 また、二人っきりでお話をしましょうね」


 ユキミルは小声でそう言って、リナの所に行ったのだった。

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