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悪夢  作者: みかど
4/4

3夢 悪夢のバグ

 和希に連れられてしばらく歩いた。

 その間も周りへの警戒心は忘れない。和希は警戒などしていないように見える。

 そろそろ歩き疲れてきたな。

「おい和希、どこに行くんだ」

「ついてこればわかる」

「あとどれくらい歩くんだ?」

「なにも言わずについてこい」

 俺が何を聞いても和希は答えなかった。

 単純な和希が、今回ばかりは何を考えているのかわからない。

「この辺りでいいだろう」

 そう言って和希は立ち止まった。

 ここは体育館裏。こんなとこに何があるんだ?まったくわからない。

「あそこに倉庫があるだろ?」

 和希は前に見える体育倉庫を指さした。

「あの倉庫に隠れる」

「どうして?」

「もちろん見つからないためさ」

「誰にだよ」

「敵って言ったらわかるよな?」

「敵って・・・ここに来るのか?」

「おそらくな。敵が来る前に隠れるぞ」

「・・・ああ」

 俺達は少し中が狭い倉庫に身を潜めた。外の様子が見れるように少しだけ扉は開けてある。

「なあ悠介。今から俺が言うこと、ちゃんと聞いてくれ」

「・・・なんだ?」

「あとちょっとしたら敵がここに来る。数はわからないが来るのは確実だ。そこでだ、俺と悠介で敵を殺す。もちろん1人ずつな」

「ちょっと待て、俺はまだ人を殺す勇気はないんだ・・・」

「殺らなきゃ殺られる」

「それはわかってる・・・でも・・・」

「殺るんだよ。そのために俺はお前をここに連れてきた」

「少し・・・考えさせてくれ・・・」

「・・・なら時間がないから作戦の説明をする。敵がこの倉庫の前を通ったら、まず俺が扉の隙間から拳銃で撃つ。おそらく敵は俺の存在に気付く。そこで俺がここから飛び出る。悠介はまだ隠れたままだ。そして俺が残りの敵を引き付ける。その隙に悠介が敵に気付かれないように出てくる。あとはお前次第だ、悠介がここだってタイミングで刀で敵を斬るんだ」

「俺が刀で・・・」

 俺にはできるのか?そんなこと・・・手が震える・・・

「刀を抜け。そろそろかもだからな」

「・・・わかった・・・」

 静かに刀を抜いた。倉庫の中が狭いから刀は安全な方向に向けることにした。

「悠介・・・静かにしろよ・・・誰かきた」

「わかった・・・」

 俺は息を潜めた。恐い。手が震える。

「出るぞ・・・」

 和希が物音をたてずに、静かに扉を開けた。

「嘘だろ・・・?」

 和希が扉の前で驚いた。しばらく動かないまま何か考えているようだ。

「和希・・・?どうした?」

「1人だ」

「なにが?」

「・・・敵が」

「それがどうした?」

「作戦が狂う」

 俺たちは小声で現状を認識し合った。

「悠介、一緒に出るぞ」

「俺もか?」

「ああ、そうだ。お前は戦いに慣れた方がいい」

「うん・・・」

「行くぞ・・・!」

 和希が合図をして俺は息を呑んだ。

 和希が飛び出し、続いて俺も飛び出した。

 本当に1人しかいない。確かノルマは1人につき1人を殺すこと。でも敵は1人・・・俺か和希、どっちかがここに1人残ることになる・・・どうするんだ・・・和希。

『!?俺を殺る気か!』

 敵が俺たちに気付いた。和希どうするんだ。俺かお前どっちかが殺る。それは確定事項なんだぞ?作戦が台無しになった今、考えが浮かばないぞ。俺は。


バンッ

 

 和希が一発撃った。敵が倒れて苦しむ顔がよく見える・・・血が流れてる。

 あれ?足から?和希は足を撃ったのか?

「悠介、斬れ」

「斬るのか・・・?」

「ああ、せっかく動けなくしたんだ、思いっきり斬れ」

「・・・わかった」

 俺はほんの少しだけ深呼吸をして刀を強く握りしめた。

 敵に向かって思いっきり振りかぶる。いまだに手の震えが止まらないがそのまま振り下ろした。


ザクッ


 人の肉を斬った感触が手に伝わってくる。返り血が服にべっとりついて気持ち悪い。

「悠介!浅いぞ!」

「え・・・?」


バンッ


 和希の方向に振り向く前に、銃声が聞こえた。敵を再び見てみると、頭に小さな穴が空いている。そこからドス黒い血が勢いよく出てきている。

「もっと深く斬らなきゃだめだ」

「すまん・・・でも頭を撃つことはないんじゃないか?」

「ターゲットは確実に殺さないとな」

「今和希がこいつを殺したんだな?だったら俺が残るのか・・・」

「・・・みたいだな」

 俺が残るのか・・・恐いな・・・

 次は俺が人を殺さなきゃいけないのか・・・

「なあ和希・・・あれ?」

 今まで和希が立っていた場所には、すでにただの空間になっていた。

 和希は現実に戻ったのか。

 俺はどうしたらいいんだ・・・今ので少し疲れた。休もうかな・・・。

 いったん倉庫の中に戻ろう。それから今後のこと考えよう。



〇●○●○●○●○●○●○●○●○●○



 AM6:59


 気づくと目が覚めていた。

 確かあの倉庫に向かって歩いてたよな?なんで現実世界に戻れたんだ?俺は誰も殺していないぞ。わけわかんねえよ。

 俺はとりあえず学校に行く準備をした。



【私立彩夢高等学校】



 学校についてまっすぐ教室に向かうと、やはり和希がいた。

「和希」

「悠介か、おはよう」

「ああ、おはよう。聞いてくれ」

「なんだ?」

 俺は和希が消えてからの夢の中での出来事をすべて話した。

 和希も驚きを隠せないでいる。

「和希はどう思う?」

「なんとも言えないな・・・」

「あの夢ってゲームなんだよな?」

「そう書いてあったな。掲示板に」

 ゲームってことは・・・市販されているゲームと同じことが通じるなら・・・

「・・・バグじゃないか?」

 そう、バグかもしれない。市販されているゲームには稀にバグが起こる。

 あの夢もゲームとして扱っているならばバグだって起こりうる。

 俺は誰も殺してはいないし。

「バグ?」

「そうだ。普通のゲームならバグだってあるだろ?それと同じだ」

「まあそうだな・・・・だとしたら、バグがあるなら、チートとか裏ワザとかもあるんじゃないか?」

「そうかもしれない」

「今日見つけてみようぜ」

「チートとか裏ワザか?」

「ああ!それに、悠介が戻ってこれた事もバグかどうか確かめる」

「・・・わかった」

 俺も本当にバグなのかは気になる。確かめる・・・か・・・

 つまりまた殺すってことだよな・・・和希は人を殺すことにためらいとか恐怖心はないのか?



 今日も無事にめんどくさい授業をこなし、放課後になった。

 帰りに図書館でも寄って行こうかな。太刀筋がわからないまま夢に入りたくないし。

「っよ、悠介」

「なんだ?和希」

「今から図書館行こうぜ」

「ああ、俺も行こうと思ってたんだ。でもなんでだ?」

「悠介の腕を磨くため・・・かな?」

「疑問形を疑問形で返すな」

「まあそんなとこよっ!」


 俺たちは学校を出て図書館に向かった。

 それがけっこう遠くて足が痛い。

「ついたぜ」

「俺、疲れた」

「これからじゃんかよ、本題は」

「そうだけどよー」

 俺たちは図書館の中に入り、〔日本舞踊・歌舞伎・日本武術〕とカテゴリ分けされた場所についた。

「おい、和希。こんなとこにあるのか?」

「たぶんここでしょ。他にありそうなとこないし」

 武術・・・武術・・・柔道とかしかないんだが。

「悠介!これじゃないか!?」

 和希が持ってきた1冊の本を手に取った。

 〔あなたも今日から太刀・日本刀の使い手!?〕

 という本だ。なんともうさんくさい。

「ほんとにこれか?」

「ああ!中見てみろよ!」

「・・・しょうがないな」

 ページをさらっと見ていくと最初はほんとにうさんくさそうだった。

 だが、中盤の方になってくると写真付きで 構え方、握り方、足の動き などの説明が書いてあった。

 これは使えるかもしれないな。さっそく借りて家で読むか。

 でも和希は大丈夫なんだろうか。拳銃・・・うまく使えるのかな。見てた限りじゃけっこう慣れた感じだったけど・・・あいつ銃とか興味もってたっけ?

 まあいいか。とりあえず目的の物は見つかったし帰るか。


 俺は本を借り、和希と2人で帰宅した。

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