3夢 悪夢のバグ
和希に連れられてしばらく歩いた。
その間も周りへの警戒心は忘れない。和希は警戒などしていないように見える。
そろそろ歩き疲れてきたな。
「おい和希、どこに行くんだ」
「ついてこればわかる」
「あとどれくらい歩くんだ?」
「なにも言わずについてこい」
俺が何を聞いても和希は答えなかった。
単純な和希が、今回ばかりは何を考えているのかわからない。
「この辺りでいいだろう」
そう言って和希は立ち止まった。
ここは体育館裏。こんなとこに何があるんだ?まったくわからない。
「あそこに倉庫があるだろ?」
和希は前に見える体育倉庫を指さした。
「あの倉庫に隠れる」
「どうして?」
「もちろん見つからないためさ」
「誰にだよ」
「敵って言ったらわかるよな?」
「敵って・・・ここに来るのか?」
「おそらくな。敵が来る前に隠れるぞ」
「・・・ああ」
俺達は少し中が狭い倉庫に身を潜めた。外の様子が見れるように少しだけ扉は開けてある。
「なあ悠介。今から俺が言うこと、ちゃんと聞いてくれ」
「・・・なんだ?」
「あとちょっとしたら敵がここに来る。数はわからないが来るのは確実だ。そこでだ、俺と悠介で敵を殺す。もちろん1人ずつな」
「ちょっと待て、俺はまだ人を殺す勇気はないんだ・・・」
「殺らなきゃ殺られる」
「それはわかってる・・・でも・・・」
「殺るんだよ。そのために俺はお前をここに連れてきた」
「少し・・・考えさせてくれ・・・」
「・・・なら時間がないから作戦の説明をする。敵がこの倉庫の前を通ったら、まず俺が扉の隙間から拳銃で撃つ。おそらく敵は俺の存在に気付く。そこで俺がここから飛び出る。悠介はまだ隠れたままだ。そして俺が残りの敵を引き付ける。その隙に悠介が敵に気付かれないように出てくる。あとはお前次第だ、悠介がここだってタイミングで刀で敵を斬るんだ」
「俺が刀で・・・」
俺にはできるのか?そんなこと・・・手が震える・・・
「刀を抜け。そろそろかもだからな」
「・・・わかった・・・」
静かに刀を抜いた。倉庫の中が狭いから刀は安全な方向に向けることにした。
「悠介・・・静かにしろよ・・・誰かきた」
「わかった・・・」
俺は息を潜めた。恐い。手が震える。
「出るぞ・・・」
和希が物音をたてずに、静かに扉を開けた。
「嘘だろ・・・?」
和希が扉の前で驚いた。しばらく動かないまま何か考えているようだ。
「和希・・・?どうした?」
「1人だ」
「なにが?」
「・・・敵が」
「それがどうした?」
「作戦が狂う」
俺たちは小声で現状を認識し合った。
「悠介、一緒に出るぞ」
「俺もか?」
「ああ、そうだ。お前は戦いに慣れた方がいい」
「うん・・・」
「行くぞ・・・!」
和希が合図をして俺は息を呑んだ。
和希が飛び出し、続いて俺も飛び出した。
本当に1人しかいない。確かノルマは1人につき1人を殺すこと。でも敵は1人・・・俺か和希、どっちかがここに1人残ることになる・・・どうするんだ・・・和希。
『!?俺を殺る気か!』
敵が俺たちに気付いた。和希どうするんだ。俺かお前どっちかが殺る。それは確定事項なんだぞ?作戦が台無しになった今、考えが浮かばないぞ。俺は。
バンッ
和希が一発撃った。敵が倒れて苦しむ顔がよく見える・・・血が流れてる。
あれ?足から?和希は足を撃ったのか?
「悠介、斬れ」
「斬るのか・・・?」
「ああ、せっかく動けなくしたんだ、思いっきり斬れ」
「・・・わかった」
俺はほんの少しだけ深呼吸をして刀を強く握りしめた。
敵に向かって思いっきり振りかぶる。いまだに手の震えが止まらないがそのまま振り下ろした。
ザクッ
人の肉を斬った感触が手に伝わってくる。返り血が服にべっとりついて気持ち悪い。
「悠介!浅いぞ!」
「え・・・?」
バンッ
和希の方向に振り向く前に、銃声が聞こえた。敵を再び見てみると、頭に小さな穴が空いている。そこからドス黒い血が勢いよく出てきている。
「もっと深く斬らなきゃだめだ」
「すまん・・・でも頭を撃つことはないんじゃないか?」
「ターゲットは確実に殺さないとな」
「今和希がこいつを殺したんだな?だったら俺が残るのか・・・」
「・・・みたいだな」
俺が残るのか・・・恐いな・・・
次は俺が人を殺さなきゃいけないのか・・・
「なあ和希・・・あれ?」
今まで和希が立っていた場所には、すでにただの空間になっていた。
和希は現実に戻ったのか。
俺はどうしたらいいんだ・・・今ので少し疲れた。休もうかな・・・。
いったん倉庫の中に戻ろう。それから今後のこと考えよう。
〇●○●○●○●○●○●○●○●○●○
AM6:59
気づくと目が覚めていた。
確かあの倉庫に向かって歩いてたよな?なんで現実世界に戻れたんだ?俺は誰も殺していないぞ。わけわかんねえよ。
俺はとりあえず学校に行く準備をした。
【私立彩夢高等学校】
学校についてまっすぐ教室に向かうと、やはり和希がいた。
「和希」
「悠介か、おはよう」
「ああ、おはよう。聞いてくれ」
「なんだ?」
俺は和希が消えてからの夢の中での出来事をすべて話した。
和希も驚きを隠せないでいる。
「和希はどう思う?」
「なんとも言えないな・・・」
「あの夢ってゲームなんだよな?」
「そう書いてあったな。掲示板に」
ゲームってことは・・・市販されているゲームと同じことが通じるなら・・・
「・・・バグじゃないか?」
そう、バグかもしれない。市販されているゲームには稀にバグが起こる。
あの夢もゲームとして扱っているならばバグだって起こりうる。
俺は誰も殺してはいないし。
「バグ?」
「そうだ。普通のゲームならバグだってあるだろ?それと同じだ」
「まあそうだな・・・・だとしたら、バグがあるなら、チートとか裏ワザとかもあるんじゃないか?」
「そうかもしれない」
「今日見つけてみようぜ」
「チートとか裏ワザか?」
「ああ!それに、悠介が戻ってこれた事もバグかどうか確かめる」
「・・・わかった」
俺も本当にバグなのかは気になる。確かめる・・・か・・・
つまりまた殺すってことだよな・・・和希は人を殺すことにためらいとか恐怖心はないのか?
今日も無事にめんどくさい授業をこなし、放課後になった。
帰りに図書館でも寄って行こうかな。太刀筋がわからないまま夢に入りたくないし。
「っよ、悠介」
「なんだ?和希」
「今から図書館行こうぜ」
「ああ、俺も行こうと思ってたんだ。でもなんでだ?」
「悠介の腕を磨くため・・・かな?」
「疑問形を疑問形で返すな」
「まあそんなとこよっ!」
俺たちは学校を出て図書館に向かった。
それがけっこう遠くて足が痛い。
「ついたぜ」
「俺、疲れた」
「これからじゃんかよ、本題は」
「そうだけどよー」
俺たちは図書館の中に入り、〔日本舞踊・歌舞伎・日本武術〕とカテゴリ分けされた場所についた。
「おい、和希。こんなとこにあるのか?」
「たぶんここでしょ。他にありそうなとこないし」
武術・・・武術・・・柔道とかしかないんだが。
「悠介!これじゃないか!?」
和希が持ってきた1冊の本を手に取った。
〔あなたも今日から太刀・日本刀の使い手!?〕
という本だ。なんともうさんくさい。
「ほんとにこれか?」
「ああ!中見てみろよ!」
「・・・しょうがないな」
ページをさらっと見ていくと最初はほんとにうさんくさそうだった。
だが、中盤の方になってくると写真付きで 構え方、握り方、足の動き などの説明が書いてあった。
これは使えるかもしれないな。さっそく借りて家で読むか。
でも和希は大丈夫なんだろうか。拳銃・・・うまく使えるのかな。見てた限りじゃけっこう慣れた感じだったけど・・・あいつ銃とか興味もってたっけ?
まあいいか。とりあえず目的の物は見つかったし帰るか。
俺は本を借り、和希と2人で帰宅した。




