プロローグ「ゴミ箱行きが予定されているフォルダ」
「Floral Hearts」は、STARLIGHTによる一つのシェアワールドです。
この「ダイアンサスは月夜に咲かず」の他にも、世界観や設定を共有した、複数の作者による複数の作品があるので、よろしければそちらも合わせてご鑑賞下さい。
どうしても消去されないデータがある。
それは僕が初めて絶望した日の出来事で、ある少女に出会った日でもある。
重要視されるのは後者の方で、僕はその時初めて同年代の女の子と話した。まあ、同年代という確かなデータはないけれど。
それは今でも、あるところまでは詳細に保存されている。
あれは町の山の林の奥、月が雲に隠れ、鬱蒼と草の茂る小さな草原の中で、少女は僕に話しかけてきた。
驚いた。少女の顔があまりに整いすぎていたからだ。
少女に冗談を言われたのを覚えている。
僕はその冗談を生真面目に捉えてしまって、少女はそれが冗談であったことを説明して……それからの事は何故か一切のデータが無い。
推測として、少女と遊んだ気もするし、少女の事情を聞いた気もする。
でも、気付けば僕は自宅の前にいた。
結局少女は何者だったのか、何故記憶がとんでいるのか考えたけれど、全くわからなかった。
まあ、覚えていないのだから仕方がない。そう解釈することにした。
たった一つ、他に「謎の少女の記憶」という脳内フォルダに保存されているとしたら、何故か「ツキ」という衛星の名前が項目に含まれている事だけだった。関連性は見出せていない。
たぶん、恐らく、確信は無いけれど、これから話すのはきっとその続きなんだと思う。
ハッキリとはわからない。まあ、わからなくてもいいとも言える。
だって、それは新しい「物語」として、脳内フォルダに保存されているからだ。