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7

「土日? いるよ。だいたい、いる」

「そうなんだ。よかった。部活に入ったら、平日はあまり来られなくなるから」


 あっさりと期待する答えが返ってきて安心する反面、違う心配が清を支配した。


「もしかして、学校で友だちがいないとか、家に帰りづらいとか、そういうのあったりする?」


 恐る恐る訪ねれば、サチはけらけらと笑った。


「あはは、大丈夫。そういう心配は絶対ないから」

「そっか」


 せっかく出来た友人が何かで悩んでいたら大変だ。そう思ってのことだったが、どうやら杞憂だったらしい。


 今日も二人で山の散策をした。来たばかりの清は楽しいことばかりだが、いつもいるサチはつまらなくないだろうか。清がサチの横顔を見つめる。


「どうしたの?」

「ううん」


 今度はサチが見つめてきた。思わず顔をそらしてしまう。


「清君。お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「スマホの使い方教えてくれない?」

「スマホ?」


 聞くところによると、サチはスマートフォンを触ったこともないそうで、一度でいいから使ってみたいと瞳を輝かせて懇願された。


 こちらも断る理由はない。中学生でスマートフォンを持っていることが恵まれているのかは分からないが、引っ越す前の都会でも持っていない同級生は何人かいた。


「いいよ。まず何がいいかな。アプリ……音楽聴く? あとは写真とか。カメラは分かるか」

「カメラは知ってるけど、やったことない」

「そっか。じゃあ、興味あるの教えて。説明するよ」


 まず写真の撮り方、データの確認の仕方を教えた。知識はあるが実際にやるのは初めてで、一枚撮るごとにサチは感動していた。


「すごい。スマホ使ってる人の見てただけだから、ずっとやってみたかったんだ」


 そう言って、木の幹や、蟻の行列を撮っていた。自分では撮らない視点の写真データが思いがけず増え、清も見ていて面白くなってきた。


「次は何する? ゲームとか?」

「ゲームしたい!」


 初心者でもすぐできるアプリを探し、パズルゲームをすることにした。


 ゲームも初体験ということで、最初は慣れず難しいと言っていたが、すぐにコツを掴んで楽しんでいた。きっと、厳しい家なのだろう。サチに比べて自分は随分甘やかされている。


「ありがとう。楽しかった!」

「僕も楽しかった」


 弾ける笑顔でスマートフォンを返される。これだけ喜んでくれるならいくらでも貸したくなる。その後は撮ったデータを加工したり、葉の裏にある虫を見つけたりして遊んだ。


 十七時半を過ぎた頃、二人で麓まで下りる。清が振り向いて問いかけた。


「ねぇ、まだ明るいしさ、もう少し遊べない? この道を真っすぐ行ったところにコンビニもあるし」

「コンビニ」

「お金無いなら、お小遣い持ってきてるし、僕」


 サチが道路の奥を覗き込む。もう少しで山を出るというところなのに、サチはその一歩を出してはくれない。サチが力なく首を振った。


「私はここから出られないから」

「それってどういう──」


 聞き返そうとして、突風がそれを遮る。気付いた時にはサチは消えていた。


「サチ!?」


 叫んでみるが、清の声が山に吸い込まれていくばかりで、一向にサチは姿を現さない。


 一体何が起きたのだ。まだ陽は暮れていないというのに、山の空気が寒々としたものに変わった。清は踵を返し、一目散に自宅へと駆け戻った。


「たまるか! どうしたこと、清ちゃん」


 ちょうど玄関先に祖母がいて、勢いよく開けたものだから驚かせてしまった。


「ごめん、ちょっと、急いでて。ただいま」


 乱暴に靴を脱ぎ、祖母の顔を見て靴を揃え直す。


「おかえり。手ェ洗ってね」

「うん」


 洗面所で手を洗ってうがいする。ようやく跳ねていた心臓が落ち着いてきた。顔色はまだ悪い。まだ、サチが言ったことが消化できない。


 サチはどこに消えたのか。サチは何者か。まさか、山が見せた幻でもあるまい。


 陽も暮れていないのに、ベッドに飛び込みそこにくるまる。


 まだ動揺はしているが、怖くはなかった。それよりも、二度とサチに会えないのではないかという不安の方が大きい。


 たまらず、部屋の窓を開ける。


「サチ」


 当然、返事はない。よろよろとベッドに舞い戻り、薄いタオルケットを頭まで覆った。


「ご飯だよ~」


 一階から母の催促が聞こえる。そこで、制服のままだったことに気が付いた。宿題もやっていない。どんなに悩んだところで、毎日の業務はなくならない。諦めて、清はタオルケットから顔を覗かせた。

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