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神殿の守護者 ~灰色の少女~  作者: 斎王暁圭


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第一章 孤独な少女

エピローグまで、毎週日曜17:30に予約投稿済みです。

よろしくお付き合いくださいませ。



 

「ミリヤ、あなたは明後日から御使いのお世話を担当します」

 ここは神殿の奥の院、神殿で生まれ育った子どもたちが生活し、学ぶ所。

「ミリヤ」と呼ばれた少女は、「はい」と返事をした。

 ミリヤは、この世界では珍しい、色の薄い姿をしている。薄い灰色の髪の毛、色鮮やかな青の瞳、どこまでも色の薄い、白い肌。

 同じ部屋にいる他の子どもたちは、黒髪や濃い茶髪、濃く暗い色の瞳をしている。肌の色は黒褐色から薄灰色まで様々だ。

「またミリヤだけ特別扱いだ!」

 黒髪黒目の、赤褐色の肌をした男の子が声を上げた。

「そうだよ。ずるい!」

 他の子も声を上げる。

 子どもたちの前に立つ、中年の女性神官が子どもたちに言い聞かせた。

「ミリヤは『神の恩寵』を持つ子です。御使いのお側にお仕えするのは、自然なことですよ。それに、特別なのはミリヤに限ったことではありません。特別に魔力の多い子は、魔道神官になることができます」

 選ばれた理由が『神の恩寵』と言われては、さすがに神殿で学んできた子どもたちは何も反論できなかった。

 十六歳になったばかりの、あるいはもうすぐ十六歳になる子どもたちは、次々と役職を与えられていった。まだ年下の子どもたちは、その様子を羨ましそうに見ていた。

「今、呼ばれた皆さんも、明日もここに集合してください。それぞれの持ち場の担当官が迎えに来ます。それでは、解散」

「はい」

 神官の女性が去った後、子どもたちも席を立つ。思い思いに集まって、さっき知らされた発表について話し始めた。

「今回も魔道神官いなかったね。どれくらい魔力があったら魔道神官になれるのかな?」

「魔力の検査って、生まれた時に受けるんでしょ?どうやって測るんだろう」

「えー、適当に言ってるんじゃないかな?」

「そんなことより、なんですぐになんでも忘れちゃうミリヤが御使いのお世話係なんだよ!?」

「誰もミリヤの小さい頃って知らないんだよね?ホントに魔力が多いのかな?」

「魔道神官会ったことないし、他に魔力多い子いないからわかんないなー」

 ミリヤに突っかかっていた子もすぐに会話に加わり、話は盛り上がっていく。

「そうそう!そんなことより――」

 子どもたちの話題はぽんぽんと変わっていく。

 その様子を横目に、ミリヤはひとり部屋を出て行った。

 子どもたちの会話は続いている――。


「御使いって本当にいるんだ…」

 ぽつりと呟かれた言葉を、聞く人はいない。

 ミリヤが通ると、子どもたちは誰もいなくなる。いつも遠巻きにされてきた。

 もう、慣れた光景。いつものこと。

 でも、誰かに聞いてほしかった。

 周囲を見回す。が、誰もいない。

 ミリヤは、ひとり廊下を歩きながら、無意識に言葉を溢していた。

 神殿の講義で御使いのことは学んでいる。すぐに記憶をなくすミリヤでも、覚えているくらいだ。

 ミリヤは、ぽつりとぽつりと神話をそらんじた。


 神は、世界を維持する二十の使徒を遣わし、神殿に封じた

 神は、使徒に人の暮らしを守ることを命じた

 神は、人に使徒の世話を命じた

 使徒は、世界を支えた

 人は、使徒に仕えた


 ふと振り返ると、遠くで数人の子どもたちが固まって何かを話している。こちらを見て、ひそひそと。

「また、私の、嫌な話かな」

 ミリヤは小さく息を吐いた。もう慣れている。よくあること。それでも、胸がちくりと痛んだ。

 しかし、ミリヤは、聞こえないふりをして気持ちを切り替えることにした。

 神殿で育った子どもたちにとって、会ったことのない、話でしか知らない『魔道神官』より、同じ神殿にいる『御使い』に仕える世話係に選ばれることは憧れになっている。

 『御使い』は『神』が人に遣わした存在。神殿の奥の院の更に奥、『奥寝殿』と呼ばれる場所にいる、らしい。「らしい」とは、特別に選ばれた神官以外、『御使い』に近づくことができないから。『奥寝殿』も一般の神官では立ち入れない。『見習い神官』と呼ばれる子どもたちでは決して近づけない場所だったからだ。


 そこに自分が行く――?


 御使いに仕える姿を想像しようとして、やめた。

 『御使い』は世界各地にある十の神殿に暮らしているという、神話に出てくる『二十の使徒』を指す。『神』の使いである『使徒』に敬意を以て『御使い』と呼ぶようになった、と習っているが、誰も『神』を知らない。『御使い』が何かも具体的なことは何も教えられていない。わからないからこその、子どもたちの好奇心をあおる話題だったのだが――。

「まさか私が行くなんて、ね。お仕事、覚えられるかなぁ…」

 だって、私は、昨日のことだって覚えてない、とミリヤは思った。

 もしかしたら、神話より深い事を学んでいたかもしれない。でも、思い出せない自分がもどかしい。

 ひとりぼっち、独白を続ける。

「いつから、ひとりだったんだろう」

 わからない。

 ただわかるのは、御使いに仕える。選ばれた、特別な役目をいただいたということ。

「明日から、変わるかな」

 こぼれた声は、小さかった。期待より不安が大きい。

 それでも、もしかしたら――誰かが、ミリヤを見てくれるかもしれない。ひとりぼっちは終わるのかもしれない。

 そんな、淡い期待を抱きながら、ミリヤは静かに部屋に戻った。



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