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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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深夜に家を抜け出して

 親戚の家の二階からこっそり抜け出す。今日のために靴は一足失くしたことにしてあった。深夜の寒い風が私を突き刺す。

「さむ…」

 しかし止まるつもりはないし、もう決めている。父親はギャンブルに溺れ、母は彼と私を切り捨てるかのように消えた。そして父も毎日灰皿代わりに私の体を使っていたのに、

「金が無くなった。あとは何とかしろ」

 と吐き捨て消えた。


 その後、ひたすら親戚をたらい回しになった。何処でもあまりにも爛れた肌は、親戚の顔を曇らせ、どこでも煙たがられた。あぁ、私に居場所はないんだ。そう思った。それでも生き続け、それに意味を見出そうとした。でも、無理だった。学校もろくに行かせてもらえなかった私には、どうにも理解出来なかった。唯一幸運だと思ったのは、今いる親戚の家はそれなりに裕福で、夜は私の部屋に鍵をかける以外で私に不自由なく暮らさせてくれたことだ。その感謝の手紙を机に置き、二階から飛び降りた。


 飛び降りた地面に着地し、土埃を払う。ジャージに帽子をかぶり、ボストンバックを持ち駅へ向かう。改札を通って、通勤客すらいない始発を待った。

『8番ホーム、電車が参ります海浜百合ヶ台(かいひんゆりがだい)行き、4両編成。8番ホーム電車が…』


 警笛を鳴らしながら短い電車の先頭車両が目の前に停車する。停車位置ぴったり、この国の列車は定時に来るし、発車時刻も停車位置も丁寧に守る。海外ではこうはいかないのか? それとも海外も同じように来るのか。私にはあずかり知らない。ボストンバッグからお気に入りの服を取り出し、靴も綺麗なものに履き替える。


「最後くらい、いいよね」

 お気に入りの白いワンピースに着替える。運転士以外に同じ車両に乗客はいないため、気兼ねなく着替えることが出来た。ジャージはボストンバッグに入れ、棚の上に置く。二度と着ないバッグに両手で祈るような格好をする。


「ここまでありがと」

 そして午前9時を過ぎた頃。

「間もなく終点海浜百合ヶ台です。ご乗車ありがとうございました」

 停車した電車を降り、改札を抜けて携帯の電源を切りゴミ箱へ入れる。既に数件親戚から電話が来ていたが無視し、現在位置共有も家を出る前に切断した。


 1時間も歩かないうちに綺麗な海岸、の少し先。崖があり、そこへ歩いてゆく。波のさざめきと、潮風が吹いている。手にするは一枚の防水性の便箋、水で掻き消えない様に油性インクで書き記した手紙。誰に宛てたでも無い手紙。強い突風にあおられ、手紙が飛んで行く。海岸の方だ。誰かが拾うかもしれないが、でもその頃にはもう私は居ない。


「ありがとう」

 一歩先の空中に足を踏み出す。体は逆さまに落ちてゆき、空と海が見える。そこには、境目などない。果ての無い青を落ちながら、ゆっくりと暗くなる視界。それに逆らうことなく、私は目をつぶった。

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