6話 戦術的指揮官
下心が全くないというのは、噓になる。
だが、これは、絶好の機会かとも思った。
「何? 合コンだと? ふざけているのか?」
「やっぱりダメですか?」
「君が、人材集めに忙殺されているのはわかるが、公安の職員が合コンなどという場に顔を出すなどありえん!」
「しかし、この合コンただの合コンじゃないんです」
「と、言うと?」
「若手官僚の省庁を問わない大型合コンなんです」
「だから、なんだと言うのだ?」
課長は僕の下心を見透かしてるようだ。そんなこと承知で言い訳をする。
「10課をより、強力な組織にするには、人材集めが必須です」
「だから、お前は喜多野と資料室に毎日籠っているんだろうが」
「これは、チャンスだと考えているんですよ!」
「ほう?」
「この合コンには、自衛隊幹部候補も出席するんです! 僕と喜多野が戦術的リーダーとして目星をつけている人物も参加するんです! 是非ともこの目で見ておきたい!」
「待て。貴様が戦術的な現場指揮官として求めているのは、経験豊富な人物ではなかったか?」
ギクッ!?
「いや、センスという観点で目ぼしい人材もチラホラ」
「ふうむ。具体的にはどの人物に目をつけているんだ?」
「こちらになります!」
僕は、即座に紙束を差し出した。
「お前。どれだけ、合コンに行きたいんだ……」
彼女欲しいとは口を割けても言えず。
「いえ、これも全ては仕事の為です!」
「これだけのリストを渡されたら、目を通すのも面倒だ。よろしい。出席を許可する」
「や」
「や?」
「や、必ずや、目的の人材を見定めてきます!」
「はぁ。くれぐれも公安職員であることは内密にな」
◇◆◇◆
「合コンかー。いいなー」
「お前。結婚して子供いるんだろ?」
「最低です……」
ラーメン屋で喜多野、乱馬、ハクの3人は昼食を取っていた。
「大学時代よくやったなー」
「けっ! 羨ましい限りだぜ!」
「警視も女の人に興味があったんですね」
喜多野はハクを箸で指した。
「以外だよ! もっと性欲枯れてるのかと思ってた!」
「そうですね。何処か世捨て人的なところがあるから。まさか、僕やリョウさんまで使って資料を集めさせるとは思いませんでした」
◇◆◇◆
僕は、給料をつぎ込んで、オーダーのスーツ一式で合コンに望んだ。
「おお! 大鷲警視!」
「ここでは、警視はいらないよ」
同期に声をかけられて軽くいなす。こいつが電話くれなきゃ参加できなかったんだよなぁ。
くぅ! 感謝!
「おう! 大鷲! 窓際に追いやられたって聞いたが、元気そうじゃん!」
表向き、僕は、刑事部の窓際部署に追いやられたことになっている。
「出世を急ぎすぎた。みんなが警視になるまでの1年は資料室暮らしだよ」
「お前なら、すぐに警視正になるんだろうなぁ!」
「いやいや」
公安に回されて、出世街道から外されたとはとても、言えなかった。言ったら破滅である。
「今日の合コンは凄いな。警備部の連中がガードしてる」
「なんてったって、日本の未来を背負う官僚の集まりだからな!」
ふむ。まぁ、その中のどれだけが生き残るのか。出世街道から外れた僕としては見ものである。
◇◆◇◆
僕は、適当にワインを煽りながら、目的の人物を探す。
人混みの中にはいないな。
「悪いな。少し酔ったみたいだ」
「えー! 折角、お前を紹介しようと思ったのに!」
同期たちを置いて僕は、端による。
さてはて、リストのあの人は何処にいるのやら。
「あの……すいません」
「はい?」
澄んだ女性の声がした。
振り返ると、少し赤みのある頬で、一発で酔っているのがわかる。
「私、ちょっと……酔ってしまって、肩を貸していただけますか?」
僕は、その彼女と視線を交錯させると一気に心臓が高鳴るのを感じた。
別に、本当に酔っているわけじゃない。僕は、自分で言うのもなんだが、ザルだから。
別に、彼女に一目惚れしたわけじゃない。僕は、そんな熱い奴じゃない。
彼女こそ、僕の作ったリストのトップ。陸上自衛隊の真栄田シノブ3佐。
スカウトしたい。あの若さで3佐なんて。
◇◆◇◆
「大丈夫ですか?」
僕は、言われた通りに肩を貸した。
「9ミリ拳銃か」
げ
「はは! 流石ですね。真栄田3佐」
「貴様。私のプロフィールの知っているのか」
「きついお言葉で」
「陸自の諜報部じゃないな? 貴様の指はキャリア組の警察官僚のそれだ。公安か?」
うっそ! 指と拳銃だけで正体見破られた!?
「実戦慣れしていないな。この程度で冷や汗が出るとは」
「貴方は僕の想像以上の人物のようだ」
「で? 公安の何処の所属なんだ?」
「はは。勘弁してくださいよ……。それを言っちゃ商売上がったりだ」
「ここに来た目的はまさか交際目的ではあるまい? 目的を吐け」
僕は、彼女の豊かな胸元を見た。
「私か?」
「その通り。スカウトしたい」
「直球だな」
「いや、個人的に仲良くしときたいところですね。今のところ」
「ほう」
◇◆◇◆
「いやはや、まさかそっちから接触するとは」
「ふん。目線が露骨過ぎだ。品定め、それも性的な目線じゃないのがすぐ分かった」
「……。参考になります」
「それに、銃を持ち込んでいる危険人物を牽制しないわけにはいくまい?」
「おっしゃる通りです」
いやぁ、慣れって怖いわぁ。銃がないと安心できん。
「銃がないと安心できないとは公安の質も落ちたものだな」
「僕は、引き抜かれた身なんで」
「引き抜き? とても、特筆すべき能力があるようには見えんが……。ちょっと待て」
「はい?」
「これは、殺気? 伏せろ!」
へ?
ぱきぱきという音がした。ドアが開け放たれる。
「冷凍能力者?」
◇◆◇◆
「貴様? 今の現象を即座に超能力によるものだと判断したな!?」
「えーまぁ。部署柄そう反射的に判断してしまったというか。なんとういうか」
「貴様! 正式な所属を答えろ! でなければ、その9ミリ拳銃で殺す!」
「はい! 自分は公安10課の大鷲マナブ警視であります!」
「公安10課だと? 公安はそこまで拡大していたのか?」
「自分も驚きであります!」
「あっははははははは!」
ドアをあけ放った何者かの笑い声だ。声質から……10代か?
「まぁいい! 大鷲! その拳銃を貸せ!」
「何するつもりです?」
「あの調子に乗ったクソガキを拘束する!」
「そんな無茶な!?」
「いいから貸せ!」
「はい……」
あかん。完全に尻に敷かれた。
◇◆◇◆
さて。女3佐は突撃していったわけだけど。こうなると丸腰の僕のやるべきことは、
「きゃああああ!?」
「な、何なんだ!? おい!?」
混乱の沈静化か?
いや、僕1人では無理だ。となれば取り敢えずやれること。
僕は、電話をかける。
「坂田課長!? 私です! 大鷲です!」
『何かあったのか!?』
よかったぁ! ここで釣れたか? 女は? なんて冗談を交える上司じゃなくて
「合コン会場に冷凍能力者が現れて、パニックになってます! 乱馬とハク君の出動を要請します!」
『わかった! 場所は都内のプライムホテルだったか? ハク君の念動力で向かわせても20分はかかるぞ!』
「それでかまいません! なるべく早く!」
通話終了。さてどうするか。
取り敢えず見渡してみると。おお! 警察官僚の連中が協力して誘導してる。
やるぅ!
「おい! 大鷲! 手伝え!」
「いや、僕がそっちに行っても連携を乱すだけだ! 僕は、真栄田3佐のアシストをする!」
「アシストってお前! あの超能力者に立ち向かうつもりか!?」
「生憎、今の僕の仕事はああいう輩に対処することでね!」
「何言って!? お前今、窓際部署だろ!?」
「あぁ! 公安って言うな!」
僕は、スーツの上着を脱いで走り出した。
◇◆◇◆
アシストと格好つけたが、うん! ついていけないレベルの戦いが繰り広げられていた。
「あああ!」
気迫と共に9ミリ拳銃を打ち放ちながら、突撃する真栄田3佐。
その銃弾を氷の盾で防ぐ冷凍能力者の少女。
ドレスの美女とパンクファッションの少女の戦いだ。
「すっご。能力者の攻撃全部避けてるよ」
反応速度が、乱馬に匹敵するかもしれない。流石に壁を蹴って立体機動なんて超人の域には達していないが、拳銃1丁で超能力者と渡り合っていた。
しかし、弾は直ぐに尽きる。そうなった時は3佐が劣勢に立たされるのは明らかだった。
武器、武器になるもの!
「大鷲! 予備の弾倉は!?」
「ありませんよ! そんなの!」
「使えん!」
「あと20分持たせてください! 応援がきます!」
「応援!?」
3佐のスカートが破ける。いい脚してんなー。
「ぼさっとするな! 大鷲! 死にたいのか!」
「すいません!」
「あっはぁ!」
「うわ!?」
僕の前に、冷凍能力者の少女が滑って近づいてきた。
ぴんち!?
「大鷲!」
3佐の牽制で何とか難を逃れる。
「邪魔だ! すっこんでろ!」
「は、はい~」
僕は、合コン会場の隅に走る。
「大鷲警視!」
そう呼ぶのは、合コンに来ていた警察官僚の1人だ。
「避難は完了しました! 指示は!?」
「あーそうか! 僕が階級1番上なのね。全員! 退避!」
「は! しかしあの女性は!」
「余計な被害は出したくない! 彼女には捨石になってもらう!」
◇◆◇◆
「貴様は残ったのか!」
「後から来る10課の連中に指示を出さなきゃいけないんでね!」
「それまで! 持てばいいが!」
「3佐! 貴女の方が状況判断に優れている! やれることはやるから、指示をくれ!」
「銃は期待しないから何か武器を!」
「承知!」
少し冷静になれば、状況が俯瞰して見えてくる。あれがあるではないか。
「3佐!」
僕はテーブルの上のケーキナイフを投げた。
「こんなものしかありません!」
「ち! 銃弾が尽きた! それで戦うしかないか!」
「すみません!」
「隠れてろ!」
あとは……、氷漬けになった警備員の警棒くらい!?
「3佐!」
「ケーキナイフよりはマシだな!」
警棒1つで、向かっていく3佐。
「メスゴリラ……」
「あ!?」
何でもないです。
◇◆◇◆
もう20分経っただろう!
「3佐! 頑張って! あとちょっとで増援が来ますから!」
「貴様! ちょっと楽しんでるだろ!?」
「はは!」
「おばさん! いい加減沈んでよ!」
あ。あのクソガキ超能力者!
「今。なんて?」
お、落ち着いて
真栄田3佐は肩の力を抜いて、能力者に向き合った。
「今なんと言ったぁ!?」
「ひ!」
うわ。すげー気迫。超能力者ちゃんビビっちゃったよ。
そこを見逃す3佐ではなかった。短い駆ける音がする。
3佐の持った警棒が少女の横っ腹を思い切り叩く。
「ぐっは」
「おい。立て。若いだけのクソガキ!」
「ひ」
いや、漏らしてんじゃん。
超能力者ちゃんは俺にしがみついてきた。
「あのおばさんこわいぃ!?」
今更かいな。
「おい。大鷲。そいつを渡せ」
「ひぃ!」
お兄さんも逃げたいよ。
「いえ、そうはいきません。勝敗は明らかだ」
「何!?」
「おらぁ!」
ハク君の念動力の支援を受けて、乱馬が突撃してきたのはそのタイミングだった。
「え? 何これ? どういう状況?」
「遅い……」
いやまったく、人間の潜在能力というのは、恐ろしいものである。
◇◆◇◆
「それで、君は、この公安10課に入るかね?」
数日経って。喜多野の時と変わらない。僕は、坂田課長の秘書のように控えていた。
「給与は今の10倍。湯水のように、銃火器が使える。そして超法規的な捜査権。非常に魅力的な話だと思います」
「では、受けてもらえるかね? 君のことを大鷲警視は高く評価していてね。彼の眼鏡に叶った君が是非とも欲しいのだよ」
坂田課長は相変わらずの柔和な笑顔だ。
「戦略的な指揮権は大鷲警視に任せ、君には現場での戦術的指揮を任せたいと考えている」
「……。10課の残りの人選に口を挟んでいいのなら、お受けしますわ」
「大鷲警視。君は、どう思うかね?」
「負担が減って大歓迎です」
「公安10課へようこそ。真栄田3佐いや、真栄田シノブ警部」
「えぇ! よろしくお願いいたします!」
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