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5話 熱血な助手

 幸いにも、このところ大きな事件は起きていない。


 ネットを漁ると、 僕が銃をぶっ放した様子や乱馬がパイロキネシストの少年を壁にめり込ませるような動画、画像の類は一切確認できなかった。


 精々が、掲示板に対超能力部隊という情報が散見される程度。それだって、デコイ情報がバラまかれているのか、まるでチンプンカンプン。本当の情報はデマ情報の渦に飲まれていた。


 警視庁サイバー攻撃対策センター辺りがもみ消したのだろう。


 坂田課長の政治力が光ったということだ。


「上司に恵まれてるなぁ。僕って」


 資料室は寒い。紙媒体の保管庫だけでなく、電算室も兼ねているからだ。


「うーん。目ぼしい人材は基本的にエリートコースに誘導されてる。僕のこともあって、刑事部も引き抜きには抵抗があるだろうし」


 視点を変えるか。


 それにしても、1人で名簿漁りは辛い。


「まずは、僕の助手探しからだなぁ」


 闇雲な資料漁りはやめだ。僕は、パソコンに向かい、地方の警察名簿をあたることにした。


「ほう。これはこれは」


◇◆◇◆


「何? 喜多野コウイチ? 聞いたこともない名前だが……」


「流石に課長でも、所轄の刑事にはお詳しくはないようで」


「当たり前だ」


「視点を変えてみたんです。優秀な人材ではなく、意欲に溢れた人材という基準に」


「それで、この男が選ばれたわけか」


「はい」


 僕は、印刷した資料を坂田課長に手渡した。


「年齢32歳。巡査長。元会社員? 3年努めた会社を退職後、所轄に転職、その後、交番勤務を経て、湾岸所所轄刑事部捜査1課に努めて5年目。君は、こんな男に意欲を期待しているのかね?」


「官僚的視点では、意欲に欠けますね。しかし、注目してください。減俸2回という項目に」


「ますます不良警官に見えてきたが……」


「2枚目以降の用紙をご覧ください。そこには、減俸理由が書かれています」


「何? ふむ。本庁と所轄の合同捜査の際に単独行動により犯人を逮捕。計2回。なるほど」


「つまり、彼は、ノンキャリアの身分に苦しんでいるんです。大きな山に対して、本庁の指示を待たなければならない現在の身分にね」


「そこで、公安としての捜査権限を与えようと? 正気かね?」


「既に乱馬、ハク君という危険人物を抱えている我々です。今更、ノンキャリアの熱血刑事を抱えたところでさほど組織は揺らぎません」


「なるほどな」


「本音を言うと、手足になる助手が欲しいんです。彼なら僕に欠けている犯罪に対する熱意を持ち捜査を進めてくれるかと」


◇◆◇◆


 そして、呼びつけた喜多野巡査長であるが


「公安!? 自分をで、ありますか!?」


「そうだ。喜多野君」


 驚いている。当たり前だが。僕は、秘書のように坂田課長の傍に控えていた。


 喜多野コウイチという男を見ると、スーツの上からよれたコートと一昔前の刑事ドラマの主役のような格好だった。


 顔つきもそれなりの雄々しさがある。


「君の資料は読ませてもらった。是非とも君をスカウトしたい」


「こ、光栄でありますが、自分はただ目の前の犯罪が見過ごせない男であって、公安の秘密主義とは相容れないと愚考しますが……」


「今日本で最も大きな犯罪の抑止のためだとしても?」


 喜多野の目に光が宿った。


「最も大きな犯罪? 失礼ですが、そういう言い方をされると益々断りたくなります」


「正直な男だね。君は。犯罪に小さいも大きいもないという質だね?」


「そうです」


 なるほど。この男の中では、ひったくりも、連続殺人も同列で許されないものなのか。


「君には、独自の捜査権が与えられて、どんな捜査も独断で行えると言ってもかね?」


「なんですって?」


「公安10課は超能力犯罪に対する攻勢の組織。それを目指して設立されたものだ。その捜査権は、警視庁刑事部すら凌駕する」


「ですが、その為には手段を厭わないのでは?」


「そうだ。例として、我々は捜査員として10代の少年を擁している」


「なんですって!?」


 喜多野の敵意が、課長に向けられたのがテレパシー能力者でない僕にもよくわかる。


「それだけ、犯罪を憎む組織ということだよ」


「馬鹿げている! そんな情報を聞いちゃ黙っていられない!」


「記者にでもリークするか?」


 僕は、懐から9ミリ拳銃を抜き、無言で突き付けた。


「ならば、君にはここで死んでもらう。機密保持の為にな」


 僕は、口を挟んだ。


「ここに来た時点で君に与えられた選択肢は3つだ。1つは、ここで聞いたことを一生黙秘して所轄に戻るか。また1つは、ここで若しくは外で忙殺されるか。最後に、10課のメンバーとして勤務するかだ」


「くっ!」


「さあ、選びたまえ」


◇◆◇◆


 公安10課ビルの僕に与えられたフロア14階。


 僕は、喜多野を座らせた。


「いや、引き受けてくれて助かったよ」


「あの状況で断れるわけがないでしょう……。自分には妻子がいるのに」


「だからこそ、君を選んだのだがね」


「貴方が? 課長ではなく」


「僕は、大鷲マナブ。警視だ。一応、今は10課の現場指揮官ということになっている」


「失礼ですが、随分とお若いように見えますが」


「僕も君と同じさ。やりすぎて、引き抜かれた。仲良くやっていこうじゃないか」


「は、はぁ」


「僕も最初は君と同じ反応だったよ」


「ですよね!?」


 まぁ、慣れたものだが。


「君の熱意、正義感には期待している。それを存分に発揮してくれたまえ」


「……公安10課の任務には過去の超能力犯罪の捜査も含まれますか?」


「? あぁ、手が回ったらね」


「そうですか……」


「好きに捜査してくれても構わないよ。僕の監督下で。例えば所轄時代の未解決事件だったり」


「いいんですか!?」


「いいとも。くれぐれも暴走はやめてくれよ」


「はい!」


 以外と素直だな。


「まぁ、家族には本庁に異動になったと伝えてくれ。事務処理は課長が進める。明日から、また来てくれればいい」


「はぁ」


「明日からは、公安部の研修を受けてもらって、それが終われば僕の資料漁りを手伝ってもらうよ」


「承知致しました!」


◇◆◇◆


 そして、喜多野の研修が終わり、僕に助手ができた。


「この資料は一体!?」


「人材リスト。今現在、10課の職員は課長を除いて、君を入れても4人しかいない。」


「……少ないですね」


「そう最低でもあと5人は欲しいところだね」


「人選は?」


「今のところ求めているのは、僕に代わる現場指揮官。それと、狙撃に関する知見をもった捜査官に、電子戦のプロだな」


「理由を伺っても?」


「まずは、現場指揮官だが、僕は、元々一介のキャリア組に過ぎないからね。現場の空気には疎い。だから、乱馬リョウ、地切ハクに適切な指示を送れる指揮官が欲しい」


「先日、10課は警視の指揮下で犯人逮捕に至ったと課長から伺いましたが」


「運が良かっただけさ。あのパイロキネシストに例えば戦場での経験があったら取り逃がしていたところだった。僕の指揮ではプロレベルの超能力犯罪に対処できない。それに、僕の本領は部隊の編成や全体方針など戦略にある。戦術的分野を誰かに任せたい」


「なるほど。狙撃手に関しては?」


「先日のパイロキネシスト事件の資料は読んでいるね?」


「えぇ。10課の概要を知るには一番だと、課長から渡されて」


「目立ってしまっただろう? 本当なら、乱馬を突撃させるんじゃなくて狙撃したいところだった。けど、僕には狙撃銃を扱えるスキルはないからね」


「公安の機密性を維持する為に穏便な手段として、狙撃を採用したいと」


「そういうこと。乱馬とハク君はあくまでも、切り札だから。電子戦のプロに関しては、前回の後始末を他部署に任せてしまったことや後手に回ってしまった反省から欲しいところ」


「10課の独立性を保つには欠かせない人材ということですね」


「それと、ネットから予兆を掴むこと。攻勢の組織を掲げているからには、事前に犯罪の芽を摘み取らねばならない」


「ローンフェンダーの監視者ですか」


「その通りだ」


 ノンキャリアにしては話のわかる。熱意の証拠だろう。


「警視。俺、燃えてきましたよ! この人材集め!」


「そうか」


 僕は、冷えてしまったコーヒーを煽った。


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