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4話 初任務と課題

「交渉力という点において、君を引き抜いて正解だったと評するよ」


「私は、命令に従っただけです」


「そうか。いやしかし、地切少年の戦闘力を見ておきたいものだが」


「乱馬と戦わせますか? ハク君を」


「セッティングしてくれるのかね?」


「命令ならば、従うだけです」


「ならば頼む」


 坂田課長は、一見柔和な笑顔を作る。


 狸おやじってのはこういうのを言うんだろうね。


◇◆◇◆


 公安10課5階は、柔道場になっている。そこで、ハク君と乱馬は3メートル程距離を置いて睨みあっていた。


「ルールは簡単! 先に有効打を当てた方の勝ち! 乱馬は手加減してやれ! 大怪我させないようにな!」


「へいへい」


「大鷲さん? 僕を舐めてます?」


「格闘家と未成年者の戦いだから。許して」


「大鷲警視。初めの合図を」


 坂田課長が急かす。


「はい。では」


 僕は、右手を旗に見立てる。


「初め!」


 畳を叩く音がした。


◇◆◇◆


 飛び出したのは、獣の如き乱馬だ。


「読めてる!」


 ハク君は軽いステップで避ける。


「ほう。あれがテレパシー能力」


 ですな。


 けど、乱馬はこれで終わる甘い奴じゃない。


「おせぇ! ニート!」


 片足で即座に切り返すと、ハク君を襲う。ハク君はまだ、姿勢を立て直している最中だった。


 やられる。ハク君が普通の少年ならば。


「あれが、念動力です」


「ほう」


 ハク君は空中に逃れた。まるで、そこに足場があるかのように。


「はぁ! はぁ! 念動力! 久しぶりに使えた!」


 坂田課長が僕を見た。


「今、久しぶりと言わなかったかね?」


「どうやら、ハク君の超能力はトラウマによって減衰しているようなんです」


 テレパシー能力もそうだった。


「使い物になるのかね?」


「課長がそれを言います? 自分でスカウトしろと言っておいて」


 空中か。格闘家にとっては絶対不利な場所だな。


「今は、乱馬を狙うのに絶好の機会だと私は、思うが」


「同意見ですが、久しぶりの能力行使に戸惑っているんでしょう」


 そこを逃す乱馬ではない。


 乱馬は常人ではできないことを軽々とやってみせる。


 彼は、壁に向かって走り出した。そして、跳躍。


 立体機動でハク君を襲う。


「うわ!?」


 ハク君は身を捻って回避するが


「あめぇ!」


 乱馬は、反対側の壁を蹴り上げ、合間無く襲う。


「ふむ。乱馬の方が有利のようだな」


「でしょうね。場数が違うし、身体能力に差がありすぎる」


 だが


「ハク君は昔、最大強度の念動力を使ったらしいですし、もう少し様子をみます」


◇◆◇◆


 僕は、リョウさんに翻弄されていた。


 空中を自在に翔る感覚は久しぶりだが、慣れてきた。


 これなら、いけるか?


 僕は、片目を閉じ、テレパシー能力の感度を最大にして、リョウさんの次の動きを予測する。


◇◆◇◆


「ほう。捕まえたか」


 坂田課長が、関心の声を上げた。


 空中で殴り掛かる直前のまま、乱馬が固まっていた。ハク君の念動力が乱馬を捕えたのだ。


「これで、ハク君の勝ちでいいのかね?」


「さあ? どうでしょう」


 僕は、9ミリ拳銃を懐から取り出し乱馬へ向けた。


 そして、引き金に指をかける。


 その瞬間。


「おおおおおおお!!!」


 乱馬が念動力の拘束を引きちぎった。


 落下する乱馬。僕は、乱馬の着地する地点に発射した。けれども


「避けられた」


 その時には獣のような速度で迫った乱馬の手刀が首筋に当てられていた。


「テメェ!? 何のつもりだ!?」


「君とハク君の勝敗を明確につけるわけにはいかないんでね。この勝負、僕の負けだ」


 乱馬もハク君も超能力者に対する切り札だ。明確な差を課長に決めさせるわけにはいかない。


「食えないやつ」


「どうも」


 乱馬は手刀を収めてくれた。


「いやぁ! いいものを見せてもらったよ! 2人ともお疲れ様!」


 狸おやじはこれである。


◇◆◇◆


「大鷲警視」


「はい」


 課長と2人だけのオフィス。美人の秘書でも雇ってくれません?


「ハク君を鍛えよ。今日みせてもらったのは彼の潜在能力のほんの一部に過ぎない」


「ハク君に関することには、随分と性急ですよね」


「あれは、この国の宝だ。早々に国家にとって有用な駒になるように教育したまえ」


「まるで、戦時中のどこかの国みたいです」


「少子化に加えて、超能力犯罪。今は戦時に匹敵する非常事態だよ」


「……。わかりました。ハク君は僕が責任を持って、立派な大人に育てます」


「少々ニュアンスが異なるようだが」


「強大な力というのは、兵器のような個人よりも、当たり前の倫理観を持った大人の管理下にあった方がいいでしょう?」


「極めて常識的な発想だな」


「僕は、一介のキャリア組にしかすぎませんから」


◇◆◇◆


 そのニュースを僕は、例によって資料室で自衛隊員の名簿を漁っている最中に観た。

 

 ニュースアプリの通知を入れておいたのが幸いした。


『ご覧ください! 人が! 人が燃えています!』


 それは、余りにも惨い映像だった。とある代議士の選挙活動。


 そのSPの1人が何処からともなく現れた炎に焼かれた。


 着信がかかる。液晶には、坂田課長と表示されていた。


『要件はわかるかね?』


「今現在、ライブ配信されているニュースのことですか?」


『これは、明らかにパイロキネシスによる犯罪行為だ。我々の管轄である』


「ですよねぇ……」


 僕は、なんとなく映像の向こうのことが自分に直結しているとは考えられなかった。


◇◆◇◆


 焼死体。ニュースで燃えてたSPの慣れの果てである。


「僕、ちょっと無理!」


 ハク君には耐えられなかったか。僕は、この歳になってやっとPG18やらの存在意義を知るのだった。


「トイレなら右を曲がった所にあったよ」


 うーん。妹さんの死の瞬間でもフラッシュバックしてるかな?


 後でフォローせねば。


「なんで未成年を連れて来た! 大鷲!」


 僕の首を絞めているのは捜査1課のノンキャリアのなんとかさん。


 ノンキャリアってこれだから。


「僕の方が階級は上ですよ。先輩」


 しょうがない。公安の仕事がどういうものかわからせるのはこれが手っ取り早かったから。


「質問に答えろぉ!」


「彼も立派な公安職員なんです」


「なんだって!? この国はそこまで腐っていたのか!?」


「少なくとも、現役の衆議院議員。それも、東京のが。襲撃されるほどには」


 僕だって嫌ですよー。トラウマ持ちの未成年の世話なんて。


◇◆◇◆


『死体は何も語らん。一応の情報収集を終えたら、ビルに戻れ』


「承知しました。ハク君の体調がよろしくないので、帰りは少し遅くなるかと」


『……わかった』


◇◆◇◆


「大丈夫?」


 僕は、トイレで胃の中身を吐き出していたハク君の背中をさすった。


「げっほ! ぐえ! あり、がとう、ございます」


「けっ! 情けねーぜ! あんなもん1つで」


 僕は、乱馬を睨んだ。


「チームの輪を乱さない」


「へいへい」


「すみません。マナブさん。迷惑かけて。妹の死んだ瞬間が」


「まぁ、面倒くさいがこれも仕事だ。それに、僕も初めてああいう死体を見た時は吐きそうになったし」


◇◆◇◆


「どうすればいいと思うかね?」


 坂田課長との密談。


「現状、我が10課には、緻密な捜査を行う人員がいません。主導権を刑事部及び警備部に任せ、我々は裏で動く。それしかありません」


「具体的には?」


「もう1度、代議士には、選挙演説を行ってもらう。警備部にはその護衛についてもらいます。我々はハク君のテレパシー能力で犯人を探査という流れですかね」


「刑事部には、どう動いてもらうんだ?」


「我々には、人員同様に拘留施設も十分なものはありませんから、犯人の最終的な確保を任せることになります」


「なるほど。我々はあくまでも、裏方か」


「公安らしいでしょう?」


◇◆◇◆


 運転にはあまり、自信がないのだが。


「こんな特殊車両預かっても宝の持ち腐れなんだが」


 僕らは公安の特殊車両に詰めていた。


「俺が運転しようか?」


 乱馬はまるで、おもちゃを与えられた子供の目であった。


「お前、免許持ってないだろ。ハク君。君のテレパシー能力が鍵だよ」


「はい! この前の失態を取り返します!」


「まぁ、焦らずに」


 そして、演説が始まった。代議士は、大分参っていたと聞いたが、どんな裏工作があったんだか。


◇◆◇◆


「見つけました!」


「ナイス!」


 どいつだ?


『あの男!』


 念話で直接、パイロキネシストの居場所が伝わってきた。


「行け! 乱馬!」


「俺は犬じゃねぇ!」


 人混みに乱馬が飛び込んだ。


◇◆◇◆


「おらぁ!」


 流石、乱馬。人混みがなんのその。泳ぐように、パイロキネシストに辿り着いた。


 吹き飛ぶ、パイロキネシスト。ビルにめり込む。


 死んだんじゃの? あれ。


 確認で、9ミリ拳銃をぶっ放しとくか。


 お、銃弾が燃えた。


「乱馬! まだ意識がある!」


◇◆◇◆


 乱馬の打撃から無事だったのはどういう仕組みだ?


 あぁ、なるほど。背面のビルの壁を溶かして、衝撃を和らげたのか。


「乱馬! そいつには直接打撃しか有効じゃない! 受け身を取らせるな!」


「おう!」


 僕は、ビルディングに向かってもう1発放った。


「ハク君! テレパシーで一般人を誘導できない!? 雪崩が起きないように!」


「できますけど……。まさか!?」

 

 拡声器を持ち出す。


「こちら警察の対超能力部隊です! 超能力犯罪の容疑者が確認されました。タンクトップの男と、パイロキネシストの周りから、離れてください!」


 蜘蛛の子を散らす勢いだ。


 だが、何処か規則性があって


「ハク君! いいぞ! そのまま誘導を続けてくれ!」


「リョウさんの援護は!?」


「あの程度に遅れを取る乱馬じゃないさ」


 遅れを取るなら、切り捨てるだけだ。


 さぁ、僕の仕事は乱馬の後片付けだ。


「マナブさん! 何処に!?」


「刑事部の担当さんと打ち合わせ」


◇◆◇◆


 乱馬の頬を炎が狙うが


「あぶね!?」


 パイロキネシストは叫んだ。


「さっきからなんで避けられる!?」


「お前。学生かなんかだろ? 殺気の隠し方がなっちゃいない!」


 乱馬の拳が間一髪で避けられる。コンクリート柱が砕けた。


 そのひびは、すぐに建物全体に波及し


「無茶苦茶だぁ!?」


 ビルが倒壊した。


◇◆◇◆


「あー。乱馬ぁ? 生きてるかー?」


 僕は、拡声器を倒壊したビルに向けた。


「おうよ! 犯人も確保したぜ!」


「それでこそ!」


 瓦礫を突き破った乱馬の手を引っ張る。失神したパイロキネシストの少年が芋のように瓦礫から出てきた。


「あとは、刑事部の仕事。ご苦労さん」


 ビルへの保証とか。後々の後始末を考えると面倒だなぁ。


◇◆◇◆


「刑事部の取り調べによると、動画サイトの悪徳政治家リストを信じた結果が今回の犯行の動機らしい」


 坂田課長への報告。


「陰謀論に騙されて、少年が有望なSPを殺してしまう。世も末ですね」


「まったくだ。この様な犯罪を事前に防ぐことが我々の存在理由だ」


「超能力者犯罪に対して攻勢の組織ですか。それには……」


「あぁ……。乱馬リョウ、地切ハクの2名という切り札だけでは、後手に回るだけだろう」


「少なくとも、犯罪兆候を事前に察知できるハッカーと奇襲作戦を立てられる指揮官が必要ですね」


「君が指揮官ではいけないのかね?」


「僕は、所詮キャリア組ですから、いつか化けの皮が剝がれるでしょう。誰か、諜報活動の専門家を引き入れるべきかと」


「ふむ。わかった。しかし、今回の事件解決見事だった」


「いえいえ。偶々、乱馬が突撃したビルディングが空きテナントだったから死傷者が出なかった。運が良かっただけですよ」


 とにかく、人員不足が否めない。


「今回のことを上層部は高く評価している。人材の派遣もすぐに行われるさ」


「僕は、これから乱馬の出した被害の後始末という事務仕事に追われるんで、もう1人事務処理能力に長けたキャリア上がりが欲しいものですね」


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