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3話 超能力少年

「また、なんなんですか? この書類は」


 僕は、10課の構成員を模索して警察、自衛隊の名簿を洗っていたわけだけど、急に坂田課長から呼び出しを食らいまた、茶色の封筒を手渡された。


「前回と変わらん。黙って中身を読みたまえ」


「はぁ。公務員ってのはこれだ」


「珍しいな。君が愚痴をこぼすなど」


「僕は、公安勤務になってしまった。表の舞台へはもう戻れません。愚痴くらいこぼしても」


「ボーナスの査定は私が行うのだがね」


「すみません。なんでもないです。拝見させて頂きます」


 公安になっていいこともある。給料が10倍になったのだ。ウハウハである。


 暫くして


「これ。またメンバー候補の資料ですよね」


「そうだ」


「あの、本気ですか?」


「私が、冗談を言う人間に見えるかね」


「いえ。しかし、これは」


 プロフィールにはまずこう書いてあった。地切ハク。14歳と。


「未成年者ですよ?」


◇◆◇◆


 僕には、世界の全てが憎かった。


 大切な妹を失ったからだ。


 6つ離れた。障害によって、ずっと赤ちゃんみたいだった彼女は、僕の前で息を引き取った。

 

 それから、3年が経つ。僕は、14歳にして引きこもるようになってしまった。


 妹のことを思うとショックで周りに八つ当たりしてしまいそうだから。


 そして、僕の八つ当たりは恐らく個人の暴力の範疇に収まらない。


 ESP。それが僕の社会復帰を邪魔していた。


◇◆◇◆


「地切ハク。14歳。葛葉中学所属。しかし、不登校」


「そんなガキをスカウト? あのおっさん何を考えているんだ?」


 僕と乱馬は、地切家の向かいのアパートの角部屋から、張り込みをしていた。


「もっともだ。彼が普通の引きこもり中学生ならな」


「どんな普通じゃない事情があるんだ?」


「彼にはESPが確認されている」


「ESPねぇ。俺は、闇闘技場で何度か戦ったことがあるが、そんな凄いのか?」


「そのESP能力者たちって皆単一の能力じゃなかったか? 例えばパイロキネシスとか」


「あ? そういえばそうだったな」


「普通ESP能力は1人1つなんだが、ハク君には昔、2つのESP能力が確認されている」


「どれくらい凄いことかさっぱりわからん」


「現在彼以外のマルチ能力者は政府の管理下、管理外を含めて国内に3人しか確認されていないそうだよ」


「そりゃあ。凄い才能だ」


「彼の場合。確認された能力も魅力的だ。念動力に、テレパシー能力」


「昔の少年漫画の主人公みたいだな」


「僕らの親世代で流行ったな。だから、彼には国も注目していてね。今も別の公安部署がガードしてる」


「じゃあこんな張り込みばれて」


「いるだろうね。いいのさ。それで。もうすぐ突撃される頃合いだろう」


 施錠していたはずのドアが、かちりと音を立てた。


「動くな。警察だ」


 空いたドアの向こうからだ。


「公安第1課だな?」


 僕は、冷静に相手の正体を探った。


「貴様!?」


「公安10課のものだ。話がしたい」


「ふざけるな! 10課など聞いたこともない!」


「乱馬。やれ」


「あいよ!」


 乱馬が豹のごとく玄関まで駆け抜けた。


「何!?」


 公安1課の2人組が銃を抜くよりも早く、乱馬は2人の手首を折ってみせた。


「流石」


「いやいや」


 僕は、遅れてドアまで歩いて、ゆっくりと9ミリ拳銃を突き付けた。


「それは!? 自衛隊と同じ仕様の」


「少しは信じてもらえたか? 10課の大鷲警視だ。上のものと掛け合ってくれ」


◇◆◇◆


『大鷲警視……。刑事部から公安に引き抜きがあったと聞いていたが、その所在は不明なままだった。まさか新設された10課などに所属していたとは。実に惜しい』


 電話の相手は公安1課の課長だった。


「光栄です。ウチの坂田課長から話が回っていないようですね」


『つい、今しがた直接会った。地切少年を協力者として迎え入れたいのでガードを解除しろとね』


「それで?」


『君の協力者は優れた格闘家のようだな。坂田課長は階級も上であるし、現場の暴力の上でもそちらが上だ。ここは、要請に従おう。ただし』


「ただし?」


『スカウトのチャンスは1度きりだ。失敗したなら、諦めてくれ。その場合に引き下がらないなら、公安1課の全戦力を投入してでも君たちを止める』


「ふむ。わかりました。協力感謝します」


『チャンスは1度きりだ。肝に銘じておけ』


◇◆◇◆


「で、どうするんだ?」


「実は、ここまでしか考えていない」


「なんだって!?」


 流石の乱馬も無計画だったとは思うまい。


「10代の若者を公安の危険な任務に就かせるというのは、僕は反対なんだ。特に、心に傷がある」


「お優しいことで」


「僕は甘やかされて育った東大卒の背広組だったからね。彼は、長い時間をかけて、傷を癒し、夢を見つけて生きるべきだよ」


 まぁ、僕は夢らしい夢を見つけられなかったから、キャリア組になったんだけど。


「俺は夢もくそったれもない子供時代だったけどな」


「どんな?」


「色々ある。親父は時代錯誤でよく殴る蹴る。ドーベルマンと戦わされるとか」


「あー聞きたくない聞きたくない」


 それでも仕事は仕事か。僕は乱馬と地切少年のスカウト方法を相談する。


◇◆◇◆


「俺が突っ込んで荒らす! そこで、お前さんがジュラルミンケースの3億をちらつかせるのはどうだ?」


「相手が君のような荒くれものならそうしたいところだけど、相手は未成年だ。3億なんて人生を狂わすものを与えられない」


「じゃあどうするんだ?」


 乱馬の言い分はもっともだが


「いくら引きこもりとはいえ、夜食の買い出しなんかで外出する機会があるはず。そこで、穏便にスカウトを進めよう。その方が公安1課にも迷惑がかからない」


「あいよ」


◇◆◇◆


 潜伏続行である。


 深夜。眠気を抑えながら、双眼鏡を覗いていると、


「そら来た!」


 地切少年が外出した。


◇◆◇◆


 アイスクリームが食べたかった。しかし、家の冷蔵庫にはそれらしいものはなく、僕は母親の財布から千円札を抜き取ると、音を殺して外へ出た。


「待ちたまえ!」


 男の声がした。振り返るとぴっちりしたスーツの男とタンクトップのマッチョの2人組がいた。


「ふ、不審者!」


「あー、いやそう思われても仕方ないか」


 スーツの男は懐からあるものを取り出した。手帳だ。


「警察官でね。こんな時間に外出とはいただけんなと思って声をかけた次第だよ」


◇◆◇◆


「お兄さんからは敵意を感じないけど、そっちのタンクトップの方からは殺意が伝わってくるよ」


 テレパシー能力か。ここは1つ試してみるか。


「僕の考えが読めるかな?」


 地切少年は片目を閉じた。テレパシー能力の発動と、警戒を同時に行うためだろう。


「……公安10課。人員確保。地切ハクをスカウト。……僕を!?」


「素晴らしい。そこまで読めているならわかっているかな。私的な見解では君のスカウトには反対なんだが」


「けど、そっちのタンクトップの人は僕の力が知りたくて仕方がないようだけど……」


「乱馬!」


「心が読めるってのは本当のようだな!」


「3億!?」


 乱馬の思考を読んだか。地切少年は驚きの声を上げた。


「まぁ、なんだ。コンビニおごるから、少し話を聞いてくれないかな? 地切ハクくん」


◇◆◇◆


 コンビニの駐車場。


「公安10課は超能力犯罪を未然に防ぐために新設された組織なんだ。君をスカウトしたい。君のそのテレパシー能力は、例えば衆群の中から要人を狙う超能力者を見つけ出すとかね。役に立つと考えて」


 僕は缶コーヒーを飲みながら、説明する。


「公安は常に君をマークしていた。危険人物とも有望な人物としても。あのアパートの301号室にいる2人組の思考が読めるかな?」


 僕は地切家の向かいのアパートを指差した。


 地切少年は両目を閉じる。


 ふむ。今の地切少年は本格的にテレパシー能力を使うのに極度の集中力がいるのか。


 資料では、昔は半径1㎞圏内の声を瞬時にそれも任意に拾えたようだが。


「本当だ。僕に超能力を発現してからずっと……」


「実は君は、政府からすれば重要人物なんだ。所謂ギフテッドのような目線で」


「大鷲さん。いいんですか? そんなことベラベラ話して」


「いいんだよ。僕は君をスカウトしに来たんだから、話さないと何も始まらない」


「大鷲さんの中での評価はあまり高くないみたいですけど……」


 そりゃそうだ。引きこもりの中学生に何かを期待するなんて間違っている。


「けど、僕の上司が君にご執心でね。反対なんだけど来るしかなかった」


「公務員って大変なんですね」


「そうだよ。しかも、このスカウトが失敗したらボーナスが下がるときたもんだ。私情と命令の板挟みだよ。まぁ、僕が君をスカウトしに来たのは給料の為と思っていい」


「警察官って、もっと真面目な人ばっかりだと思ってました」


「警察官僚なんてのは惰性で生きてる人間が目指すものさ」


 そこで、ずっと黙っていた乱馬が介入した。コーラをラッパ飲みして


「で? どうすんだ? ハク? 俺たちの元へ来るか。引きこもり続けるか」


 地切少年は目線を地面に逸らした。


「その公安10課に入ったら、僕は何処で暮らせばいいんですか? 大鷲さん」


「公安10課の本部に住んでもらう」


「つまり、僕は、両親から離れて生きていけるわけですか」


「そうだね。ここは千葉県だから、任務に就くことを考えると」


「なら……」


 即決だった。


「行きます! 僕を連れていってください!」


「理由を聞いても?」


「僕は、うんざりしているんです。僕を不幸にした両親にも、ESP能力を理解してくれない友達たちにも。貴方たちなら、僕を有効に使ってくれる。その方がずっと生きやすいと思うんです」


「公安は正義のヒーローじゃないよ」


「構いません。この世界に神様なんていやしない。なら、正義も悪も、存在なんてしないんです」


「そう……」


 缶コーヒーの苦さがいつもよりも強く感じられた。



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