古城の幻影
私は勢いよく古城の扉をぶち破る。
ドォォォォン・・・。
バリバリバリ・・・。
扉が裂け、赤い空に染まった私の影は、我ながら実に禍々しい。
「ファントム。何処だぁぁぁぁ!」
私は叫ぶ。
「・・・。何、怖い顔をしてるの?綺麗なお姉ちゃん。」
「・・・?」
いつしか私は古城ではなく、白い花びらが舞う城の中庭にいた。
「ここは・・・。」
そこには幸せそうな姉弟が無邪気に走り回っている姿と、それを見守る両親が微笑んでいる姿がある。
「さぁ、お姉ちゃんも遊ぼ!」
「お姉ちゃん、綺麗だから花の冠をつけてあげるよ。」
無邪気な子供達が私の前にやってくる。
「そこの君。申し訳ないが、子供達と遊んでやってくれないか?」
優しそうな両親の声。
私の胸は愛おしさに張り裂けそうになる。
『これは・・・。以前のこの城の姿・・・か。』
私は納得する。でも、いつまでもここにはいられない事も分かる。これは・・・。明らかに幻影だ・・・。
「・・・。二人とも有難う。でもね。お姉ちゃんはいかなければいけないの。もう二人に会う事は出来ないと思う。」
「・・・。」
「・・・。」
子供達がキョトンとし、そして、涙を浮かべている。
それを優しく抱きしめる私。
「さぁ、行きなさい。私が貴女達の場所を取り戻す!」
子供達は親の元へと走り出していく。
「そう・・・。貴女は簡単に見破ってしまったのですね・・・。そんな貴女にどうかお願いがあります。この城を・・・。私達を、そして、あの人をお助け下さい・・・。」
両親が丁重に頭を下げる。
私も一礼し、大魔法を天に放つ。
「ラクリマ・メトーバ!流星の涙よ、天へ届け!」
小さな世界が変貌し、花弁が激しく天へと巻き上がっていく。
やがて、親子の姿は消え、再び無機質な部屋がむき出しとなった。
「フン!心ひとつ動かさぬとは!魔族に寝返った魔法使いは心もないのか!」
「・・・。お前が本物のファントム・・・。」
ファントムの異名を持つ魔法使い。黒薔薇に覆われたローブを纏う魔女の様な姿をした彼女は、闇落ちした瞳の眼光と共に、月夜に変わった空から、異様な不気味さを漂わせている。
「だが・・・。どちらにせよ、異世界最高の魔法使いである私が、現世人であるお前如きに負ける筈はない。先程の夢の中で戯れていればよいものを!」
「・・・。一つ聞こう。」
「なんだ!」
「何故、先程の幻影を放置していた。お前ならその想いを天に返す事位、容易かったのではないか?」
「ふざけるな!あれはお前達魔族の所業、それに裏切った聖王のせいであろうが!」
「・・・。そうだな。だがファントム。それがあの親子の魂を留めおく理由にはならない。」
「もうよい!お前はここで私が倒す!裏切り者のクレハも魔王も、ついでに聖王も、この世から消し去ってくれるわ!」
「いくぞ!」
開戦の合図とともに無数の火球が飛んでくる。
「どうだ!一発の威力はそれほでなくとも、この数は裁けまい!」
私のいた辺りは炎に包まれる。周囲に火炎が激しく燃え上がり、視界が全くとれなくなる。
「・・・。口ほどにもない。この程度も防げぬとは。」
勝ち誇ったファントムは、自身の勝利を確信し、酔いしれている。
「・・・。おいおい、それで終わりじゃないよね?」
私は涼しい顔で、炎の中から姿を現す。
「フン!低級魔法程度では倒せぬか!多少はやる様だ。ならば、これはどうだ!」
ファントムは無数の光の剣を生み出し、その刃が私に向けて降り注いでくる。
「・・・。」
私は少し距離をとり、それを紙一重でかわしていく。
「小癪な!だが、我が剣はこんな事も出来るのだぞ。ウイング!」
突然、ファントムの周りに竜巻が起こり、先程の剣の一部がその風の遠心力を生かし、先程の非ではないスピードで襲ってくる。
ビリビリ
スパッ!
掠り傷だが、僅かに私の肉体を掠める剣も出てくる。
私の玉の肌が久々に傷ついた様だ。
「!」
「フフフ・・・。手も足も出まい!止めだ!」
ファントムは残った剣を一つに束ね、収束させる。
「受けてみよ!我が作りし最大の魔法、レイ・スラッシュ!」
光の刃が私ごと切り捨てるかの如く、上段より迫ってくる。
私は・・・逃げない。杖を天に掲げるだけ。
「観念したか!確かにお前は善戦した。その事位は後世に伝えてやろう!」
やがて、ファントムの光と、私の杖が交差し、周囲に激しい光を放つ。そして、それは激しい爆発となって、周囲へ飛散した。
「他愛もない・・・。とは言わぬ。お前はあの聖王よりは幾分マシだったよ・・・。魔王などと一緒にいなければ、長生きも出来たであろうに・・・。」
ファントムはクルリと踵を帰す。だが、その足がすぐに止まる。驚愕の表情と共に。
「・・・何だと・・・。」
「やれやれ、後先考えず術を使うとこうなるのだけど・・・。」
「お前、何故!大魔法は使えぬ筈・・・。」
「お待たせ!私の技を受けよ!インペル・メトーバ!」
「馬鹿な!なんだ!その威力の魔法は!」
私の十八番!無数の流星の矢。それが過たずファントムを襲う。
「ウワァァァァァ!」
ファントムは吹き飛び、後ろの壁に激突。
そのまま前に倒れる。
「・・・フゥ。」
倒したのは一撃。しかし、紙一重ではあった。
「ウウッ!何故?あんな技が2度も使えるわけが・・・。」
ファントムが息も絶え絶えに、言葉を発っしてくる。
「そうだね。だから、貴女の魔力を貰った。」
「そんな・・・。では火球も光の剣も・・・か!」
私は頷く。ファントムが最大出力で技を繰り出した時にこそ、この技を発動できなかった。
まさに起死回生、逆転の一発にかけるしかなかったのである。
「・・・。それから失礼しました。貴女は闇落ちしていただけで、心までは失ってなかったのですね。お前などと敬意を欠く物言い、非礼をお許しください。伝説の英雄よ。」
私は微笑む。戦いを通してでなければ、心は見えてこない。英雄は英雄、あの親子を利用しようとした訳ではなかったのだ。
「・・・フン・・・。許してやるものかよ・・・。まぁ、負けは負けだ。それは受け入れよう・・・。」
やがて、ファントムの身体が光に包まれる。
「・・・!これは!」
「我は十分役目を果たした。新しき勇者よ!あいつを・・・頼む。」
その言葉を最期に、彼女の魂は元の世界へと帰還した。
『・・・。そうか・・・。異世界の人間には帰る場所があるのだ。未練さえ断ち切れば・・・。』
私は静けさを取り戻した城の中で、そう呟くのだった。
面白い! 続きを読みたい!
と思われた方は、下にある⭐︎ブックマークをお願いし
ます。
少し修正しています。




