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02

 さまざま優先順位をつけつつも、手っ取り早く取り組めること、それが魔術だった。これはもう、世界観から言ったら当然の選択だろう。


 なんともラッキーなことに、今世のわたしの家は有能な魔術師を多く輩出している。学ぶための環境は整っており、普通なら国の図書館にでも行かなければ読めないような魔術書までわんさとあった。この環境を生かさない手はない、ということで。



「お父様、お願いがあるのですけど。」


「なんだい、ローゼ。」



夕食後、書斎で働いている父を訪ねる。多忙にもかかわらず、毎日朝食と夕食は必ず家族とともにとる家族思いな父は、今も残った仕事をこなしている最中であろうに、訪ねたわたしをうれしそうに迎えいれた。そして、執務机から離れてわたしを抱き上げ、ソファに座って膝に乗せる。妻にも娘にもとにかく甘いのがこの人である。


 我がノルン家は、数代前には国の筆頭魔術師を輩出した。その家の当主である父も当然魔力量が多く、現在は若くして国立魔術研究所の所長と、それに伴って魔術分野の国王相談役を担っている。つまり、この国でも5本の指に入るクラスの魔術のエキスパートなのである。ちなみに母も、魔術研究所の職員だ。


 そんな父への願いといえば、ただひとつ。



「わたし、魔術のお勉強がしたいのです。」



にこにことわたしを見つめていた父の顔が曇った。まあ、当然である。


 この国では、魔術の勉強ができるのは7歳になってからと決まっている。大きな魔力を判断能力の低い幼子に扱わせてはいけないという至極まっとうな理由である。


 この国の国民は全員、生まれてすぐに神殿で魔力鑑定を受け、属性と魔力量を測定される。生活魔術が使える程度なら問題ないのだが、固有属性の魔力をもっていたり、魔力量が多かったりする子どもに対しては、無償で魔力抑制の耳飾りが貸与されるのだ。指輪や腕輪などでなく耳飾りなのは、子どもの体が大きくなってもサイズの変更がいらないかららしい。前世でいうところのファーストピアスのような感じで、目も開かない赤子の内に着けられる。


 ちなみにこの世界での神殿は、前世での病院も兼ねている。なにしろ、神官達の多くが、治癒魔術を使えるからだ。出産は神殿で行われることが多く、生まれてすぐに鑑定を行える。それによって、魔力暴走などの事故を減らせるというわけだ。赤ん坊の内の魔力暴走は滅多にないらしいが、そのあたりはリスクヘリテッジというやつだろう。


 庶民と貴族とを比べると、貴族の方がもつ魔力量が大きい子供が多い。そのため、貴族の子女のほとんどが耳飾りをつけており、わたしも同様である。この耳飾りを外していいとされているのが7歳の誕生日であり、その子の魔力量に応じて魔術の扱いを学んでいくことになるのだ。それまでは、魔力量や家柄にかかわらず魔術を扱うことは禁止されているのである。



「あー・・・、ローゼ、前にも君に話したことがあったと思うんだけど。」


「はい、7歳になるまでは、魔術は使ってはいけないのでしたよね。」



言いづらそうに、おそらくわたしを諌めようとしたのだろう父の言葉を先回りする。きょとんとした父に、にこにこしながら自分の考えを伝えた。



「もちろん、今すぐ魔術を使おうなんて考えておりませんわ。それは7歳になってからの楽しみにとっておきます。でもね、お父様。使わなくても、学ぶことはできますでしょう?」



そう言って、書斎の本棚を指差すわたしに、なるほど、と父は頷いた。



「つまり、魔術の基礎や体系を先に学んでおきたいってことかい?」


「ええ、そうなのです。わたし、魔術が使えるのがとっても楽しみなのと同じくらい、大好きなお父様とお母様がお好きな魔術のことを、わたしも知ってみたい気持ちなのです。」


「ローゼ・・・・!」



感極まったような様子の父に抱きついて、にっこりと笑う。すると、父もぎゅうっとわたしを抱きしめた。


 子煩悩な父である、こういう言い方をすれば効果があるだろうと見越してのことだったのだが、あまりにも嬉しそうな父の様子に若干心が痛まないでもない。しかし、魔術に興味津々なのは嘘ではないし、今世の父母のことを慕っているのも本当なので、まあ良しとしておこう。



「もちろん、他のお勉強をおろそかには致しません。家庭教師の先生方に読み書きは教わってますし、許してさえいただければ自分で本を読んでみます。でも、もしできるならば、お父様に基礎的な本を紹介していただきたくて。」


「ああ、お安い御用だよ。このあと選んで、明日の朝までには、君の部屋に届けさせよう。」


「ありがとうございます!」



元気いっぱいにお礼を言うと、父の大きな手がわたしの頭を優しく撫でた。



「君は普段の授業もよく頑張っていると報告を受けている。わたしとテレーザの娘である君ならば、何も問題はないだろう。ああ、もちろん、分からないことや知りたいことはわたしやお母様に何でも質問しなさい。お母様には、わたしからも伝えておくからね。」



優しい父の声に、わたしもにこにことして頷く。エキスパート2人が質問に応じてくれるなんて、なんて恵まれた環境なのだろうか。


 父の膝の上で浮かれていると、お嬢様はお戻りになって、そろそろお仕事の続きをさせて差し上げましょう、と控えていたわたし付きのメイドから声がかかった。明日からを大いに楽しみにしつつ、父に退去のあいさつをして手を振った。


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