序
連載版です。
しばらく短編とほぼ同じ流れになりますが、よろしくお願いします。
程よく日焼けした、そのくせなめらかではりのある肌。他が滑らかであればあるほど目立つのは、ところどころにある古傷の跡だ。首元に残る古傷を、つ、と指でなぞれば、面白いほどびくんと身体を跳ねさせる。
潤んだ青い瞳は、部屋の電灯の光を反射してきらきらと輝いている。は、は、と短い間隔の息と、上気した頬に、つい口角を上げれば、情けなくきゅうと眉を寄せた。
顔のいい男は何やっても絵になるなあ、なんて心の中で呟きながらも、大きくは表情に出さないままで手元の鎖を引く。・・・その先は、目の前の男に嵌った首輪につながっている。そこそこの勢いで引いたのと、おそらく男に抵抗する気が全くないのとで、男の身体は簡単に前へと傾いだ。
「、あっ、ローゼマリー嬢、」
「あら?どうしました、フェリクス様。随分情けないお声ですこと。」
「っ!」
とぼけたわたしの声に、フェリクスは声にならない声を上げ、潤む瞳で切なげにわたしを見つめる。着衣の乱れはないものの、だからこそむしろ、そんな姿の男が首輪をつけて跪いているのは、何とも倒錯的な光景である。
ところで。実を言うと目の前の男は救世の勇者で、わたしは貴族の娘である。さらに付け加えれば、本日は勇者御一行の戦勝記念パーティー開催日であり、ここは会場である我が国の王城の、とある一室である。間違ってもこんな倒錯的なシチュエーションには似つかわしくない場所と言えよう。
さてさて。なぜこんなことになっているかといえば、少しだけ、いやかなり時を遡った説明が必要となる。長くはなるのだが、お付き合い願いたい。