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アストライア冒険譚  作者: ものえの
第一章 それぞれの始まり
7/24

6.”魔女狩り”の魔術師

※次回投稿は明日、7月21日 21時前後になります。

ご注意ください。

 8年前。秋も深まり収穫を終えた人々が地母神アストライアへ感謝の祭を捧げる時期。前年から始まった『赤き茨』への反攻作戦の効果もあってこの年は大豊作と呼べる恵みの年となった。

王都マデランテも多くの人で賑わい牛馬の車輪が立てる騒音がその活気を彩る。そんなある日の夕刻、西方にある自治区サラゴナから急報が届く。

「護国卿、一大事です!」

サラゴナからの伝令が血相を変えて執務室に飛び込んでくる。

「何だよこんな時間に。今日はシルヴィアと祭を楽しむ予定があるんだよな。」

「それどころではありません。『赤き茨』の魔女がサラゴナのイヨラ村に出現しました。」

「は?」

「魔女は村を一瞬で焼き住民のほとんどが逃げる間も無く・・・。」

「で、サラゴナは軍を出したのか?」

「はい、恐らく交戦中かと。」

クロムウェルはその言葉に頭を抱える。

「報告ご苦労。こちらからサラゴナに急報を出す。今はその身体を休めておけ。」

「了解でありま・・・。」

そう言うと伝令はクロムウェルの前で崩れ落ちる。

「誰かこの伝令の介抱を。」

「は、直ちに。」

呼び出された侍従が倒れた伝令を担ぎ執務室を退席する。

「シルヴィア、居るか?」

「はい、ここに。」

まるで空間をすり抜ける様に美しいエルフの女性が姿を現す。

「すまねぇ、今日のデートはキャンセルだ。」

「先ほどの魔女の話ですか?サラゴナ近辺であればエドゥ様の第一部隊を援軍に送るも可能と思われますが。」

「いやエドゥは動かさねぇ。『赤き茨』の仕掛けた揺動の可能性もある。俺とお前で直接現場に向かった方が早い。手を貸してくれるな?」

「もちろんです、我が主。少しデートの行き先が変わっただけですわ。」

「呑気なものだ。さぁ、飛ばしてくれ。」

「では行きます。空間転移テレポーテーション!」


~イヨラ村~

「何だこりゃあ・・・。」

歴戦の魔術師であるクロムウェルですら顔をしかめる村の惨状。その悉くが何者かの強い力によって蹂躙され、業火によって燃やし尽くされていた。

「大地も魔によって穢されています。主よ、この先何が潜んでいるのか。精霊達も怯えています。」

「そんな構えている余裕は無ぇ。一刻も早く魔女を見つけ出せ。」

「ご命令とあれば。」

クロムウェルとシルヴィアは二手に分かれ魔女の行方を追う。

熱風が肌を焼く中を駆け抜けるクロムウェル。

「魔法結界を先に張っておくべきだったな。・・・ん?」

クロムウェルの目先にあったもの。それは茨を鞭の様に振って遊ぶ赤髪の年の頃10歳ほどの少女であった。

「まさかこんな子供が、か?」

「オジサンだぁれ?」

「オジサンはこの村に用があってね。大人の人を知らないかい?」

慎重に言葉を選びながらクロムウェルは少女の行動を探る。

「あ、オジサンも魔法を使うんだね。じゃあ、ミイナと一緒に遊ぼうよ。」

無邪気な笑顔でミイナは両の手のひらを拡げる。その手から放たれるは無数の茨。

「即時詠唱だと!?」

咄嗟に殺気を察知したクロムウェルは間一髪で茨の攻撃をかわす。

「すごーい。オジサンこれをかわせちゃうんだ。じゃあ、もっと大きいのを出すね。」

「炎の幻獣よ。汝の力、今我に宿さん・・・。」

クロムウェルの詠唱が完了する間もなく、大地から巨大な蔓が生え、今度は蔓から生えた無数の茨がクロムウェルを拘束する。

「ぐあっ!。」

「へへぇん、捕まえた☆」

茨がクロムウェルの肉体を締め上げる。

(身体の力は抜けない。体力吸収の力は知らないようだな。)

絶望的な窮地の中、クロムウェルはあくまでも冷静に状況を計算する。

「強いなぁ、お嬢ちゃん。ところでこの村もお嬢ちゃんが燃やしたのかい?」

「そうだよ。お父さんもお母さんもみんな燃えちゃった。」

「そうかぁ。じゃあ、オジサンにもその魔法見せてくれるかな?」

「いいよ。でもおじさんでも耐えられないと思うよ。『燃やしちゃえ、茨たち!』」

業火の炎がクロムウェルを包む。しかし先に燃え尽きたのはクロムウェルを拘束していた茨の方であった。」

「え・・・ウソ。」

「炎の加護が間に合ってくれて助かったぜ。・・・何のきっかけで魔女の力が顕現したのかは知らんが、その力は危険だ。狩らせてもらう。」

怯える少女を前にクロムウェルは冷静さを失う事無く剣を抜き、その首を払う。

しかし、その攻撃を魔法の盾が防いだ。呪文の主はシルヴィアだった。

「シルヴィア、何のつもりだ!」

「その子はまだ子供です、何の自覚も無い幼子です。」

「魔女にそんな道理が通用するか!この娘は俺と互角以上に戦える。放置など出来ん。」

「それに、生存者はもう一人います。」

シルヴィアはミイナと同じ年頃と思われる一人の銀髪の少女を保護していた。

「あ、ユウナ。ユウナ助けて!アタシ悪いオジサンに殺される!」

「丁度いい。お前はその銀髪の娘を殺せ。同じ魔女だ。」

「出来ません。子を慈しみ守るのは大人の務めです。」

シルヴィアはその指先からミイナに向けて魔法を放つ。やがて柔らかい光が彼女を包み、虚空へと消えていった。

「この俺を裏切ったな・・・。」

苦虫を噛み締めるようにクロムウェルは呟く。

「いか様な罰も甘んじて受けます。それでもこの子は助けて下さい。」

クロムウェルは銀髪の少女に近づくと跪きその様子を伺う。

「ミイナ・・・行かないで・・・。」

クロムウェルはその言葉を聞き、シルヴィアに告げる。

「シルヴィア、お前がこの娘を養育しろ。」

「助けていただけるのですか?!」

「ただしお前がこの娘の継母となる事が条件だ。ユウナ=ロレーン。それがこの娘の新しい名だ。」

「ありがとうございます、オリバー様!」

「礼を言うには早い。時期が来たら早々に王立魔法学院に入学させる。魔女では無く魔術師として育て上げろ。俺も氷結魔法の師範として協力する。」

「わかりました。この娘の命が助かるのであれば。」

 この事件は後世”イヨラ村の虐殺”として誤報を信じ魔女と関わりの無い村人を殲滅させた護国卿の大きな汚点として記録される。だがその事実を知る人は少ない。

 そして現在、魔法学院の第一期生として一人の魔術師が王宮からの招聘を受ける。

腰まで届く銀色の髪、時折宝石のような輝きを見せる緑色の瞳、その整った美しい顔立ちはすれ違う異性の足を留めてしまうほどの魅力を放っていた。

(うっとおしい・・・)

女性はそう呟きながら王宮へと足を早める。

彼女こそ『茨の魔女』ミイナの姉であり、クロムウェルの氷結魔法、シルヴィアの跳躍魔法、魔女の茨に代表される束縛魔法を得意とする魔術師。名はユウナ=ロレーン。”魔女狩り”の魔術師である。


 時は来た、時は来た。雌伏の時が終焉を迎えた。我らの手で再び”大いなる炎”を齎そうぞ。

案ずるなかれ、あの方の目覚めは近い。『茨の魔女』ミイナ様の目覚めは。

挿絵(By みてみん)

==次回予告==

バルダの酒場”一攫千金”の主人である髭爺に会う為、酒場に飛び込んだ少女ワッチ。

そして少女はある東方の男と出会う。

第二章 我ら『元気組!』

お楽しみに!

※今回の挿絵は”魔女狩り”の魔術師ことユウナ。

ダウナー系美少女を意識して製作しました。

皆さんのイメージ補完のお役に立てたら幸いです。


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