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アストライア冒険譚  作者: ものえの
第一章 それぞれの始まり
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5.十年後

 9年前、エリザベス女王戴冠直後の事。今後の国政について新たに就任した護国卿オリバー=クロムウェル、護国兵団一番隊隊長エドゥ、アストライア国教会教皇ゲオルニクス三世による会合が行われていた。

「忙しい中この場に集まってもらった事に感謝する。まずは護国卿、今後のクリスト王国の方針を大まかに聞かせて頂きたい。」

エリザベスが国家元首らしく堂々とした口調でクロムウェルに意見を求める。

「まずは法の整備。門閥貴族らによってスカスカにされてしまいましたからねぇ。大人しく従うならそれで良し。反抗するなら国境警備に飛ばします。辺境での生活も悪くないですよ、実際見て来ましたし。」

「国境警備というのであれば国教会からも見込みのある若者を送り出そう。君の父君には受け入れられ無かったが悪い提案では無いと思うのだ。どうかね?」

教皇は年長者らしく物腰の柔らかいゆったりとした口調でクロムウェルに話しかける。

「悪くは無いです。しかしそれで教会が手薄になりませんか。」

「『赤き茨』の排除は国教会全ての信徒の願い。邪悪に屈してはこれまでの流した血が無駄になりましょう。」

「アンタがもの分かりの良い教皇で助かりましたよ。その助力、喜んで受けさせてもらいましょ。」クロムウェルは頭を掻きながらエリザベスに目を向ける。

「次に王都警備。国境警備に駐屯する護国兵団の一部を王都に引き上げさせます。元々親父の私兵みたいな連中ですから給金さえ払えば戦力として計算が見込めます。陛下の護衛にも目が届きますし。それとエドゥには王都に潜伏する『赤き茨』残存勢力の追い込みを任せます。長い戦いになりますがアイツ以外に適任がいないもので。」

一息入れると、クロムウェルは続けて話を進める。

「陛下。ここからが重要です。魔女の扱う茨の魔法は鉄の鎧や盾では防げません。そして亡者に対して強力なアドバンテージを持つ神聖魔法も茨の魔法とは相性が合いません。魔女を封じるには魔術のエキスパートである魔術師の存在が絶対です。早急に”国立魔法学院”の設立を進言します。」

「クリスト王国民は古来より魔術に対して強い畏怖を持っておる。それでも必要と言うか?」

「この戦いに勝ちたいのであれば。1、2年で結果を出せる事業ではありません。が陛下が親政を執り行えるまでには必ず。」

「・・・よかろう。元より今の私は護国卿に反論を問える立場には無い。して場所はどこに設立するつもりだ?」

「あ、そこ使います。必要無いと思いまして。」

クロムウェルが指差した先は宮殿内の大森林。そして思い出の湖があった場所。

エリザベスは一瞬声を詰まらせるがすぐに気を取り直し承諾の言葉を発する。

「承認する。元よりあの森は父の道楽で造られたもの。国家の危機に迷う事など何一つない!」

「ほぉう。では早急に計画を進めさせていただきます。俺からは以上です。」

クロムウェルは一礼すると早々に議場を引き上げる。

「あ、エドゥ。お前は俺に着いて来い。」

「承知しました。」

エドゥもまた席を立ち議場を後にする。

「陛下もお強くなられましたな。」

「何がだ。」

「あの森は幼少の頃からの遊び場であったはず。多くの思い出があった事でしょう。」

「まぁ・・・な。」

「おや少し顔が赤いようですが。さすがにお疲れになられましたか。」

「疲れてなどおらん!」

「そうですか。では私から最後に一つ。国境警備隊は一度配属されると大抵の場合10年は王都に帰属出来ません。しかしその分実績が高く評価され高位の位階への道が拓かれます。陛下、私はこの国境警備隊の一人にオリオン=ヘテロギウスを推薦するつもりでおります。ですが最終決定権は陛下にあります。彼を陛下の護衛として側に置くことも神はお許しになられましょう。」

「当初の予定通り進めよ。今、私が愛すべきはクリスト王国の民全てだ。たった一人の神官などではない。」

エリザベスの毅然とした言葉に安堵の笑みを浮かべると、教皇もまた静かに退席していった。

「オリオン、必ず生きて戻れよ。私は待つから、ずっとずっと。」


 一方、先に退席したクロムウェルとエドゥは宮殿の宝物庫に足を運ぶ。

「エドゥ、茨の魔女との戦闘経験は?」

「何度か。しかし全てにおいて勝利とは言えぬ結果であります。」

エドゥは顔に刻まれた無数の傷に手を当てる。

「茨に絡めとられた傷か。」

「はい。その度に死を覚悟しましたが、仲間に救われました。」

「それじゃあダメなんだなぁ。今のままでは魔女はお前を畏れない。」

二人は宝物庫の手前で足を止める。その傍らには美しいエルフの女性がいた。

「お待ちしておりました、エドゥ様。」

「シルヴィア殿?宝物庫で何を。」

「大半のお宝は門閥貴族が持ち逃げしたからな。中はカラッポ同然よ。シルヴィア、開けてくれ。」

「承知しました。」

シルヴィアが解除の呪文を唱える。するとゴゴゴ・・・という石がこすれる音と共に宝物殿への道が拓かれる。

「表向きは魔術を否定しながら裏ではちゃっかり魔法を利用している。先王は大した二枚舌だよ。」

皮肉交じりにクロムウェルは宝物庫の中への入っていく。

「ホラ、こいつだ。」

クロムウェルが指差したのは、漆黒で統一された重甲冑と大剣だった。

「これは・・・ただならぬ力を感じます。これを私に、と?」

息を呑むエドゥにクロムウェルは語る。

「王都に潜伏する魔女はこの先もあらゆる手を使ってお前を潰しに来るだろう。お前は常にそういった外道を相手に戦う。これはその切り札、”黒曜石の装備”。そしてこれを手にする事でお前は圧倒的優位を得る。」

「お言葉ですが、私にその大役が務まるでしょうか。」

「できますよ。精霊たちもそう祝福しております。」

「精霊?」

「ああ、黒曜石は精霊たちの故郷でしか鍛造する事が出来ない。例え黒曜石を持ち込んだとしてもこの世界じゃ砂粒になって消えてしまう。だが、精霊界で鍛造され祝福を受けた”黒曜石の装備”であればこの世界であっても、こうして実体を保つ事が可能となる。」

クロムウェルはエドゥの肩を叩き、檄を飛ばす。

「魔女にとっての絶望となれ、漆黒の断罪者『黒太子エドゥ』。いい通り名だろぅ?」

その言葉にエドゥは大きく頷く。

「ありがたく拝領させていただきます、護国卿。」


そして現在。時間はワッチと黒太子が出会う二週間ほど前までの話。

王都、護国卿執務室。王都から魔女結社一党を殲滅させたクロムウェルは次の一手を打つべく黒太子エドゥと戦略を語り合う。

「エドゥ、追い込みの方はどうだ?」

「二番隊以下より敵戦力をバルダ方面へ追い込む事に成功した、との事。」

「都市に紛れ込んだら見つけ出すのは困難。だがこれでヤツらを再び集約出来る。まぁバルダの市民には迷惑だろうがな。で、次の一手はどう仕掛ける?」

「冒険者ギルドと連携し、このような檄文をバルダ全域にバラまきます。」

クロムウェルは文を手にしてその内容を見る。

「ふむ。【黒太子エドゥの部隊がバルダに到着した。目的は我ら『赤き茨』の討滅。・・・】悪くないんじゃないか?」

「撒き餌ですから失敗の可能性もあります。その場合は怪物退治を冒険者に行ってもらう予定です。」

「何かあんのか?この地区。」

「ええ、治安は余り良くないそうです。」

「で、護国兵団からは誰を行かせる?」

「一番隊からリチャード=レンカスターを。」

「レンカスター・・・ああ、俺が飛ばした門閥貴族の息子かぁ。」

「ええ。まだ腕は荒いですが責任感の強い男です。」

「お前が言うなら間違いないだろうよ。俺の方からはユウナ=ロレーンを出す。」

「いよいよ実戦投入ですか。」

「ああ、”魔女殺しの魔術師”。ようやく目途が立ったぜ。」

「国教会からは誰が?」

「聞いてねぇ。ま、聞かなくても判るだろ?」

「そうですね。・・・では私は先にバルダへ向かいます。面白い情報を手にしたので。」

「面白い情報?」

「『グレイハウント』の諜報員が潜んでいる、という情報が。」

「ほう。もし本当なら絶対に殺すな。」

「承知。」

そう言い残し黒太子はバルダへと旅立つ。


そして現在。謁見の間にて『赤き茨』討滅戦の任が与えられた者達が集う。

リチャード、ユウナは女王エリザベスの御前で静かに片膝を付くも、教皇推薦と聞く神官は一行に姿を見せる気配はなかった。

(女王の謁見に遅参だと?いったいどんな非常識な神官なんだ!)

怒りを隠しきれないリチャードに対しユウナは冷ややかな目で戦士を観察する。

「よい。これより貴公らに魔女結社『赤き茨』の討滅作戦を命じる。名を聞こう。」

女王の言葉にリチャードが立ち上がる。

「私は護国兵団一番隊所属リチャード=レンカスターと申します。クラスは重戦士。仲間と共に憎き魔女を掃討する事を誓います!」

「力強い言葉だな。期待しておるぞ。」

女王の激励にリチャードは固く拳を握る。

「では次。」

「ユウナ=ロレーン。王立魔法学院第一期卒業。得意分野は氷結、呪縛、跳躍。」

彼女の声は涼やかで優雅、上級の教育を受けて来た事が瞬時に分かる立ち振る舞いであった。

「貴殿がクロムウェルの言う切り札か。」

「たぶんそうでしょう。『殺さなければ殺される』私はそういう生き物です。」

ユウナの言葉に女王は怪訝そうな表情を見せたが、気を取り直し声を上げる。

「次の者。・・・何だ、まだ来ぬのか。」

「遅れて申し訳ありません!」

謁見の間の扉を開いたのは、一人の青年。数多の修羅場を潜り抜けてきたのであろう、その顔に以前の気弱さは無く使命感に満ちた精悍さを伴っていた。

「いつも待ってばかりだったお前が・・・今度は待たせるとは成長したな。」

「それはお互い様です、女王陛下。」

男は神官らしく儀仗を立て女王に拝礼する。

「オリオン=ヘテロギウス、国境警備隊の任を終え只今帰着いたしました。どうぞ、次なる御命令を。」

挿絵(By みてみん)

==次回予告==

それは余りにも惨い光景だった。

護国卿の汚点としてクロムウェル伝に残る”イヨラ村の虐殺”。

今、その真実を紐解こう。

第6話 ”魔女狩り”の魔術師”

お楽しみに!

※画像はオリオンとエリザベスの成長した姿。

進む道は今は違っていても想いは一つ。

幼少期の構図を元に作成しました。

皆さんのイメージ補完のお手伝いになれば幸いです。

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