悪夢の方眼Excel ~エルさんが直面したワークシートの迷宮~
ある朝、エルさんは上司から「来週の会議資料、変更点を反映しておいて」と頼まれた。添付されたファイルを開くと、見た目は整然とした“方眼Excel”がそこに広がっていた。
セルは正方形に整えられ、ありとあらゆる場所にセル結合と罫線が張り巡らされていた。「見た目は資料っぽいけど……これ、どこが修正箇所なのか一発でわからない……」エルさんは思わず顔をしかめた。
上司の頭の中では、**「変更になった箇所だけサッと修正すれば済むだろう」**という、単純な作業を想定していた。しかし現実は違った。セル結合のせいで文字を入れると表全体が崩れ、Ctrl+Cすら機能しないこともある。関数は一切使われておらず、全て手入力。入力欄は飛び飛びで、どこを修正すればいいのか、探すだけで一苦労だった。
しかも、この「方眼Excel」、社内では悪名高かった。
社員の誰もが「これは何とかすべき」と思っていたが、**「レイアウト崩れが怖い」「どこから手をつけていいかわからない」**という理由で、誰も触りたがらなかった。
上司自身も本当は「そろそろ脱・方眼Excelを……」と考えていたが、作り直しの煩雑さと、過去の資料との整合性の確認が面倒で、結局そのまま使い続けていたのだった。
エルさんは覚悟を決めた。ネットで情報を調べ、3日かけてこのExcel迷宮に挑む。
全セル結合を解除し
セル幅・高さを標準に戻し
表形式に整理し、データ部分とレイアウト部分を分離
関数と名前付き範囲を使って自動更新可能な仕組みを構築
作業の過程で、「この項目、同じ情報が2箇所でバラバラに管理されてる……」「この合計、手入力で直してある……」といった“危険な問題”も次々と発見され、修正されていった。
完成した新しいファイルは、ぱっと見は素朴だったが、正確で再利用性が高く、誰でも更新可能な“本当に使える資料”になっていた。
上司はそのファイルを見て、静かに言った。
「……あの迷宮みたいなシートが、ここまで整うとは。正直、やらなきゃと思いながらも、怖くて見て見ぬふりしてたんだ。ありがとう、背中を押してくれて」
こうして、社内に小さな変化が起こった。
「方眼Excelじゃなくても、ちゃんと伝わる」
そんな空気が、ゆっくりと広がっていった。