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プロローグー新しい春
小さな村。
リゼットの故郷。
村の広場では、今年初めての春祭りが開かれていた。
子供たちの笑い声。
花飾りをつけた若者たちの歌声。
あたたかいスープの香り。
すべてが、懐かしく、そして新しかった。
リゼットは、ノアと並んで広場を歩いていた。
村人たちは、最初こそ驚いていたが、やがて自然に二人を受け入れた。
春を取り戻した巫子と、その隣に立つ者。
ふたりは、世界を救った英雄だった。
とはいえ、本人たちはそんな肩書きに興味はなかった。
ただ――
今日、この日を共に迎えられたことが、何よりも嬉しかった。
リゼットがふと、ノアを見上げる。
「ノア」
「ん?」
「……これからも、ずっと一緒にいてください」
ノアは少し驚いた顔をしたあと、ふわりと微笑んだ。
「当たり前だ」
迷いも、躊躇もない、まっすぐな言葉。
リゼットは、満面の笑みを浮かべた。
二人の手が、そっと重なる。
あたたかな、春の光の下で。