第4鮫 パワハラサメと大統領令
「テメーら、ほんっとバカばっかだよなぁ! オレ様の価値ってのを理解できてねぇんだからさぁ!」
デリカタの中心部、かつての市庁舎ビルの廃墟の最上階で、喚き散らしている人間サメが一人。
「でも分かる奴にはちゃぁんと分かるわけよ。見ろコレを! さっき伝書サメで届いた、オレ様への大統領令だ! ヒハッ! ホホホハハハハキヒッ!」
壁沿いに一列に並べた部下の男たちへ、一枚の紙を突き付ける。
『サメリカ合鮫国大統領 ケーニッヒ・ワーナット=ブリリストン』と署名がされた手紙を、興奮した様子で振り回しているこのサメこそ、デリカタの長であるデュエル・バス・プロ・バブチャンである。
「やっぱこの世界を牛耳ろうって奴は見えてる景色が違うんだよなぁ。このオレ様を敵に回したくない、仲間に引き入れたい――そう考えるのが当然だよなぁ!?」
ヒステリックにがなり立てるバブチャンに対し、部下たちは何も言わず床を見ている。
「だからオレ様はH.E.A.D.Sのメンバーに選ばれた! オレ様には価値がある! 親父よりも! テメーらの誰よりもだ!」
バブチャンはギョロリと大きな目を見開いて、部下たちの顔を順番に覗き込んでいく。部下たちはただ冷や汗を垂らし目を反らす。
そのうち一人の前でバブチャンが立ち止まった。
「――テメー」
呼ばれた部下はビクリと硬直する。
「テメーさぁ……オレ様のこと見下してんだろ?」
「ヒッ、いえッ! そんなことは――」
「綺麗な歯並びしてんなぁテメーよぉ……オレ様のこと心の中でバカにしてんだろ? アイツはガッタガタの汚ぇ歯してんなぁってよぉ。墓場の柵みてぇな歪んだ歯並びだって陰で笑ってんだろぉ? なぁ!?」
「違います! 決して私は!」
「【釘の寝台】」
突然、バブチャンに詰め寄られていた部下に、他の部下が一斉に攻撃を仕掛けた。
くぐもった悲鳴はすぐに鈍い打撃音にかき消されていく。
「ハンっ! やっぱテメーら全員オレ様のこと見下してやがったな」
自嘲気味に呟くと、手紙を目にこれでもかと近づけて眺め回すバブチャン。
『この女は吾輩の暗殺を狙った極悪人である。追手が貴殿の領地の近傍にて消息を絶った。発見次第、必ず処理してもらいたい。貴殿の助力に期待する』
文面の下には、目つきの悪いカフカの写真が貼られていた。
「素直にオレ様を必要としてくれる奴にはさぁ、素直に力貸したくなっちゃうよなぁ」
跳ねるようなスキップで、割れた窓辺へ歩み寄り、巨大な水たまりのような瞳で外を睥睨するバブチャン。
「オレ様の目からは逃れられねぇぜ――一番嫌いなんだ、面の良い女は」
バブチャンの網膜には、路地を歩くブロンドの少女がはっきりと映っていた。