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第28鮫 収集家サメとデカいシスター

この話、前の話と分ける必要無かったけど仕方ないのでそのまま載せます。

 たまに真北の向きを確かめつつ、木々の間を縫って真っ直ぐ進んで約半日。

 日が傾いていくに従って雪は強くなり、地面は雪で覆われていくが、ウマサメ達は足元の積雪を蹴散らして歩いていく。


 やがて上り坂になり、木々がまばらになっていく。

 周囲が見晴らせる小高い丘の頂上にたどり着くと、雪化粧された平原の真ん中にぽつんと石レンガの建造物が建っていた。

 いくつもの三角屋根が組み合わさったようなこの建物は、かつて人間が築いた修道院の跡なのだが、そんなことを知る者は最早存在しない。


「これが……『コレクター』の家なの?」

「そうらしい……」


 ヒレブレヒト(カフカ抱っこ中)はセンパーから降り、修道院の扉に近寄る。

 恐る恐るサメ頭のドアノックを掴んで、3回叩いた。


「はぁ~い」


 中から緊張感のない女性の声。

 しばし待つと「うんしょ」と気合を入れつつ扉が開かれた。


「どうされましたぁ?」


 姿を現したのはゆったりとした白いローブの上にスカプラリオを身に着けた、修道女のような恰好の30代くらいの女性。灰色のボリュームのある長髪の上に頭巾を被り、縁のない眼鏡をかけている。

 ひと際目を引くのは服の上からでも分かるグラマラスな体型。

 そして3メートル近い長身である。

 扉自体もヒレブレヒトより大きかったのに、腰をかがめて潜るように外へ出てきた。


「――――」


 目の前に現れた大質量の迫力に気圧されて見上げていた彼を、不思議そうに眺める女性。


「……カンガルー?」

「え? ああ……」


 ヒレブレヒトはカリブーサメの毛皮服のチャックを開け、すっかり有袋類の赤ちゃんと化していたカフカを吐き出した。


「いでっ! 冷たっ! 寒っ!」


 いきなり雪原に落とされたカフカは、ヒレブレヒトを恨めし気に睨みつつパラタスに載せた荷物からジャケットを取り出して、紐ビキニの上に着込んだ。


「あの……僕ら『コレクター』を探しに――」

「貴方ってもしかして人間じゃないですか?」


 修道女らしき女性はヒレブレヒトの言葉を無視して、前のめりになって覆い被さるように彼を観察し始めた。


「エラ跡はない……歯も尖ってない……」


 そして彼の股間をアンダーサーブで鷲掴んだ。


「ぉヒュ……ッ」

「――1本!」


 女性はスカプラリオの懐部分からVHSのビデオテープを取り出した。


「なんと貴重な……生きた人間をこの目で見られるなんて……! 絶滅危惧種は(わたくし)めが責任を持って保護しなければ――」


 蓋を開いて磁気テープを掴み、一気に引き抜く。


「【不朽の王国(ステイシス・ステイト)】」


 リボンのように宙に舞った磁気テープが輝くと共に急激な吸引力が発生し、ヒレブレヒトとカフカはその光の中へ吸い込まれていった。

 キュルルルルル……とテープが巻き取られ、何事も無かったかのようにその場には女性と、不思議そうに立ち尽くすサメウマ達だけが残された。


「ああ幸せ……私めの大切なコレクションがまた1つ増えました――」


 頬を染めて微笑み、VHSを懐にしまうと、女性はセンパーとパラタスの手綱をとった。


「そんなところにいては寒いでしょう? さあ、中にいらっしゃい」

「ヒヒンサメサメ」


 女性の優しい笑顔と声に、2頭はすんなりと修道院の中へ引かれていった。

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