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婚約破棄されたらループするので、こちらから破棄させていただきます!~薄幸令嬢はイケメン(ストーカー)魔術師に捕まりました~

作者: 雨宮羽那


「僕は、真実の愛を見つけたのだ。フェリシア、君との婚約は、破棄させてくれ」


「ごめんなさい、お義姉様……。私、ヘンリー様をお義姉様から奪うつもりとかなくて……」


「ああ、エレノア……、君が気に病む必要はないさ。悪いのは僕だ……。君の魅力に抗えなかった僕が悪い」


「まぁ……ヘンリーさま……」


 目の前で寄り添い合うのは、私の婚約者だった伯爵家長男・ヘンリーと私の義妹・エレノア。

 仲睦まじい二人の姿に、私、フェリシア・ウィングフィールドは思った。

 

 ――もう、いいや。と。


 この光景を見るのは、()()()になる。

 毎度決まって、婚約破棄を告げられた後にエレノアが私を見てニヤリと笑う。そして次の瞬間、世界が暗転して私は一年前に戻ってしまうのだ。


 一年前の、ヘンリー様との婚約が決まった瞬間へと。

 

 初めは、初恋の人でもあったヘンリー様から婚約破棄されたことが悲しかったし、それ以上に義妹に奪われたことが悔しかった。

 だからこそ、やり直す機会を与えられて喜びもした。


 しかし、ヘンリー様に前以上にアプローチするも上手くいかず。二人が仲良くなるのを徹底的に邪魔してみても意味がなく。仲の悪かった義妹といっそ仲良くなろうとしてもダメ。義妹と距離をとってもダメ。

 結末は毎回同じ。婚約破棄されてまたループするの繰り返し。


 そうして四度目の婚約破棄が告げられて、なんだか気持ちが冷めてしまった。


 ――そんなにエレノアが好きなら、もう好きにして。姉と婚約が決まっているのに義妹に手を出すような男、私だって願い下げよ。


「……そうですか」


 私はただ一言だけ返した。

 エレノアが私を見て、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。それを合図に世界がぐるりと回り、暗くなる。

 

 ――ああ、やっぱりまただ。


 ぐるぐると回る視界の中、私は考える。

 

 ――もし、またあの日に戻るなら……次は……。



 ◇◇◇◇◇◇



「……では、よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそ。今後ともよろしく頼む」


 はっと目を開けると、そこは屋敷の客間だった。

 私の隣には、ウィングフィールド公爵家の当主であるお父様。目の前には、ヘンリー様とそのお父上である伯爵様が座っている。


 ――やっぱりまた戻ってきたみたいね。


 このシーンを見るのはこれで五度目になる。

 忘れもしない、ヘンリー様との婚約が決まった日だ。


「これからよろしくね。白光(はっこう)の令嬢として名高い君と婚約できるなんて嬉しいよ」


『白光の令嬢』とは、私のことを示すあだ名みたいなものだ。

 ホワイトブロンドの髪や肌の白さから、私は社交界で『白光の令嬢』と呼ばれていた。


 ――何が白光、よ。白光じゃなくて、薄幸の間違いでしょ。

 

 皆は褒め言葉として呼んでくれたのだろうが、今となっては別の意味に聞こえる。

 何度も婚約破棄され続けて、やさぐれ気味の私は思う。


 幼い頃に母を亡くし、五年前に再婚した父が連れてきたのは義妹と、義妹ばかりを優遇する継母だった。

 義妹・エレノアは、服でも本でも私のものをなんでも羨ましがり、すべて盗っていった。

 父は継母に頭が上がらないらしく、義妹が私のものを盗っても何も言ってくれない。

 挙句、継母は金遣いが荒いようで、ウィングフィールド公爵家の家計は火の車に陥っていた。


 この婚約は、いわゆる政略結婚だ。

 私が伯爵家へ嫁ぐ代わりに、公爵家(うち)に融資してもらうことが決まっている。


 それでも私は、ヘンリー様のことが好きだった。


 ――でも、それは今までの話。


「フェリシア?」

 

 差し出されたヘンリー様の手。

 今までは、その手を握り返していた。

 しかし、今回はそれをはたき落とした。


「申し訳ありませんが、その婚約、破棄させていただきますね」

 

「……は?」


 婚約が結ばれてものの数分で破棄されるだなどと、誰が思うだろう。

 ヘンリー様がぽかんとしている。いい気味だ。

 

「フェリシア! この結婚の意味がわかっているだろう!?」

 

「ヘンリー様のお相手でしたら、私じゃなくてもよろしいでしょ? エレノアなんていかがかしら」


 この結婚の意味なんてわかっている。

 だけれど私はもう、ヘンリー様との結婚にうんざりしているし、エレノアにもお義母様にもお父様にも嫌気がさしていた。


 ――なにより、もうループするのは嫌だ。

 

 怒鳴る父を尻目に、私はソファーから立ち上がった。


「勘当でも好きになさってくださいな。私はこの家を出ていきます」


 呆気に取られている三人を放置して、私は急ぎ足で自室に向かった。


 

 ◇◇◇◇◇◇


 

 ――ああ、やっと解放された! そもそもの婚約がなければループなんてしないでしょ!


 すぐさま家出の準備を整えた私は、開放的な気分でトランク片手に森を歩いていた。

 とりあえずの目的地は、森を抜けた先にある町だ。


 今の私は、必要最低限のものと、お金になりそうな宝石数個しかもっていない。

 町に着いたら宿と、それから仕事を見つけよう。

 私は令嬢ではなく、ただのフェリシアとして生きていく。

 と、私が決意を固めていると……。


「ああ? なんでこんなところにこんな身なりのいい女がいるんだぁ?」


 柄の悪そうな男たちと遭遇した。


 一応持っていた中で一番簡素なワンピースを身につけたつもりだが、(元)お嬢様であることが見抜かれてしまったらしい。

 

 私の姿を上から下まで眺め、男たちは顔を見合わせる。


「どっかの令嬢か?」


「売ったら金になりそうだな」


「待て、こんな綺麗な女、見かけること滅多にねぇぞ。先に俺たちで楽しんでもいいんじゃねぇか?」

 

 ――あ、終わった。


 話し合う男たちに、私の顔から血の気が引いていく。


 ――に、逃げなきゃ。

 

 筋骨隆々な男性たちは、にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。

 だっと駆け出したものの、女の足だ。男たちにすぐに追いつかれてしまった。


 男の1人がぐっと私の腕を掴むと、そのまま私を地面へと引き倒した。他の男たちも、私の方へと近寄ってくる。


「残念だったな、お嬢ちゃん」


「離して!」


 私はどうにか男の手から逃れようと、じたばたと暴れた、のだが。


「……っううッ!」


 突然目の前の男が、喉を掻きむしり苦しみ始めた。

 

 ――え?


「な、なんだ……ッ?」


「わかんねぇ……、ただ苦しい……ッ」


 他の男たちも、皆喉元を押さえて苦しそうにしている。

 わけが分からないまま男たちから距離をとると、私と男たちのちょうど真ん中でふわりと風が起きた。


「俺のフェルに手を出そうとしてるのは誰だい?」


 風の中から、低く、そして甘い男の声が聞こえる。


 目の前の風が緩やかにやんで、私の前に姿を現したのは、銀の長髪が美しい長身の男だった。

 銀髪の男は、古びた木の杖を持っているようだった。


 ――この人、魔術師……?


 この国には、時たま魔力を持って生まれる人間が存在する。その人たちのことを『魔術師』と呼ぶのだが、実際に目にしたのは初めてだ。


「君たちにはお仕置きだ」


 彼が何事かをぼそぼそと呟くだけで、地面の男たちが悶え苦しむ。


「ぐ、ぐえええぇ……ッ」

 

「ま、待って! 殺さないで……!」


 男たちの断末魔にようやく我に返った私は、慌てて魔術師に駆け寄った。


「どうして。この男たちは、君を殺そうとしたんだよ」


「どうしても!」


 ――あれ……私、この人とどこかで会ったことある?


 風に揺れる銀の髪と、薄紫の瞳。眼鏡をかけているせいか余計ミステリアスに見える。

 不思議な雰囲気の男性だ。


 私は、魔術師なんて存在に会ったことなどないはず。

 この男性にも、会ったことがないはず。

 

 それなのに、間近で魔術師の顔を見上げて、私は妙な既視感に襲われてしまった。


「……仕方ないなぁ。君がそう言うなら」


 内心困惑している私のことなど知らない魔術師は、杖先をくるりと回した。

 それだけで、男たちの苦しみはなくなったらしい。男たちははぁと、深く息を吐き出している。


「ほら、早く逃げな。俺の気が変わらないうちに」


「ひっ、ひいいいい」


 魔術師が冷たい視線を男たちに向けると、男たちはどこかへ一目散に逃げていった。


 その場に残されたのは、私と魔術師だけ。

 男たちが走り去るのを見送ると、魔術師は私の方へ向き直った。


「あ、あの……」


「君、どうしてこんなところにいるのさ?」


「どうしてと言われても」


 私はこの男性と初対面のはずだ。

 なのに、どうしてそんなことを言われないといけないのだろう。


 ――本当に初対面?


 ふと、思い出す。

 先程この魔術師は、私の名前を呼んだ。しかも親しい間柄でしか呼ぶことしかない私の愛称『フェル』と。


「あなたこそ、誰? どうして助けてくれたの?」


 私が聞くと、魔術師は酷く困ったように顔をしかめた。

 何かを言おうとして口を開きかけ、一旦閉じる。


「……俺はユーリー。ただの魔術師だよ」


「ユーリー……」


 名前を繰り返してみるが、やはり私の知り合いではないはずだ。名前に心当たりがない。


「ほら、これをあげるから帰りな。婚約者殿が待っているだろう?」


 ――なんで私の事情を知ってるのよ。


 ユーリーは私の手を掴むと、くるりと手のひらを上向けさせた。

 そこにユーリーが手をかざすと、光とともに手のひらサイズの白い花が現れる。その美しい光景に、私は目を……心を、奪われてしまった。


 ――魔法って、こんなにきれいなの?


「お守りだ。家に着くまで、君のことを守ってくれるだろう」

 

「家には帰らないわ。婚約は破棄したし、私はもう公爵令嬢じゃないの」


 私の言葉に、ユーリーがぎょっと目を剥く。

 それを見て、私は決めた。ユーリーについて行くことを。


「私をあなたの弟子にして」


「な……」


 私の発言に、ユーリーが絶句している。

 でしょうね、と私も思う。

 

 本来の私であれば、こんな決断はしなかったかもしれない。

 しかし、繰り返しを終わらせたい一心と、半ばやけになっていたせいもあったのだろう。

 

 ユーリーは悪い人ではないと思う。私のことを助けてくれたし、お守りの花とやらもくれた。

 どうせ行くあてもない。それならいっそ、心のおもむくままに行動してみたい。


 ユーリーがどうして私のことを知っているのか気になるし……。

 そしてなにより、彼の魔法に惹かれたのだ。


「……弟子って言っても、君……魔力ないでしょ」


 ちらりと私を見たユーリーは、苦笑すると歩き始めた。


「ないけど……雑用でもなんでもするわ」

 

 ユーリーは身長が高いせいか歩幅も大きい。

 私は早歩きでユーリーを追いかけながら答える。

 

「……家には帰らないんでしょ? まさかとは思うけど住み込む気? 俺と二人暮らしだよ?」


「ダメなの? あなたはいい人でしょ?」


 この人は、多分私の嫌がることはしない。

 なんだか妙な確信があった。

 

 先手を打つようにそう言うと、ユーリーは言葉に詰まったようだった。


「……わかったよ。君の気が変わるまで面倒見よう」


「ありがとう!」


 

 ◇◇◇◇◇◇



 そうして、私とユーリーの共同生活が始まって一週間。


 ――思ったより普通だわ。


 ユーリーは町外れの小さな一軒家に住んでいた。空き部屋があるとのことで、私はそこを使わせてもらうことになった。

 どうやらユーリーは魔術の研究をしているらしい。日がな本を読んだり、庭で術を使ったりして過ごしているようだった。

 たまに街の人が訪れて依頼を受けたりもしているらしい。


 私はというものの、ユーリーから薬草の調合について教えてもらっていた。

 

「ねぇ、ユーリー」


 ごりごりとすり鉢で薬草をすり潰しながら、目の前で魔術書を読むユーリーに声をかけた。


「この薬草ってなんの効果があるの?」


 潰せば潰すほど甘い香りがしてくる。

 とりあえず言われた通りにすり潰しているが、まだ何を作っているのかは聞いていなかった。


「その草と水を混ぜて煮れば、即効性の睡眠薬になるんだよ。不眠症の患者がいるから欲しいっていう依頼さ」


「へぇー……」


 なるほど。街の人から以来だったのか。


「ねぇ、もう一つ聞きたいんだけど」


「今度はなんだい」


「いい加減教えてよ。ユーリーはどうして私のことを知ってるの?」


 もう、何度目かの質問だ。

 何度聞いても、適当にかわされて終わる。

 それでも尋ねずにはいられなかった。


「またその質問か……。別にいいだろう、俺が君のことを知っていても」


「良くないわよ」


 勝手に知られている、というのは例えユーリーがミステリアスなイケメンであっても怖いものだ。

 それに、もしどこかで会っていて私が忘れているのなら申し訳ないし、とても失礼だろう。


「それに、どうしてあのとき助けてくれたの?」


 その理由もまだ分からないままだ。

 助けてくれた理由がわかれば、ユーリーが私のことを知っている理由にも繋がる気がする。


 ユーリーはようやく魔術書から顔を上げた。

 

「……君のことが好きだから、って言ったらどうする?」


「え」

 

 薄紫の瞳と目が合う。

 ユーリーの瞳の奥に熱が揺らいでいるように感じられて、私は思わず呼吸を止めてしまった。


「……そんなこと、あるわけないでしょ」


 なぜだか、緊張して口の中が乾く。

 ユーリーが私のことを好きだなんて、ありえないだろう。

 

 私は公爵令嬢として生きてきた。見たところユーリーは身分があるわけでは無さそうだし、社交界での接点も無いだろう。

 そうなると、私がユーリーに出会っている理由がない。

 出会っていないのに、好かれるわけがない。


「なに、もしかして私のストーカーでもしてたわけ?」


 どこかで私を見かけて勝手にストーカーとなっていた、ならまだ納得できる気がして茶化すように言うと、ユーリーはふと考え込んだ。


「……確かにそうかもしれない」


「否定してよ!」



 ◇◇◇◇◇◇



 ユーリーと暮らし始めて、二週間が経過した。

 どうして私のことを知っているのか分からないことは多い。だが、私はユーリーという魔術師に愛着が湧き始めていた。


 というのもこの魔術師、私に対して非常に優しい。


 私は、令嬢ということもあってあまり料理が得意ではない。ご飯の用意はユーリーがしてくれるし、困ったことがあればすぐに駆けつけてくる。

 なんなら、気がつけばそばにいる。呼んでもいないのにいるものだから、ちょっと怖い。

 

 ――なんでこんなに良くしてくれるのかしら。


 私は魔術書を本棚にしまいながら考える。

 ユーリーとは、どこかで会ったことがあるような気がするのだ。なのに、思い出せない。

 あの魔術師は目立つ外見をしているから、一度会ったら忘れるはずがないのに。


「フェル、この本もしまっておいてくれるかい?」

 

「えっ、ああ、置いておいてちょうだい」


 聞こえてきたユーリーの声に、私ははっと顔を上げた。

 いつの間にかユーリーが書庫に入ってきていたらしい。


「何を考えていたの?」


 机に本を置いたユーリーが、私の方へ近づきながら言った。


「べ、べつに何も! ただ、どうして良くしてくれるのかなって考えていただけ!」


 素直にユーリーのことを考えていたと打ち明けるのは気恥ずかしくて、私はふいと顔を背けた。


「……もしかして、婚約者殿のことかい?」


「はっ?」


 婚約者? ヘンリー様のこと?


 なんでそんな勘違いをしているのだろう。私が主語を省いたせいだろうか。

 

 ヘンリー様のことなんて、ユーリーに聞かれるまですっかり忘れていた。

 ここ最近は、ずっとユーリーのことばかり考えていたから。


 ――あれ、私もしかして、この魔術師のことが気になってる……?


 ふとその考えに思い当たって、私は動きを止めた。


 ――い、いやいやいや、違うから! 確かにユーリーはかっこいいし、優しいけど、得体がしれなくて!


「……君はあの婚約者殿のことが好きだったんだろう? ()、俺に話してくれたじゃないか」


「……昔?」


 そんな話をユーリーにした覚えがない。怪訝に思って首を傾げると、いつの間にやら目の前まで来ていたユーリーに手首を掴まれた。

 そのまま本棚へ押し付けられる。


「……っなに?」


 なにするの、と見上げると、ユーリーは泣きそうな顔をしていた。

 あまりにも苦しそうな表情をしているものだから、こちらまで苦しくなってしまう。


「俺は……、君が幸せになれるならそれでいいと思っていたのに。そのためなら、俺はどうなってもいいと思っていたのに……」


 溢れ出るように呟かれた言葉は、いつも澄ましているユーリーには似つかわしくないほど弱々しいものだった。


「君が手の届く距離にいると、駄目みたいだ。君を……俺だけのものにしたくなる」


「ユーリー……?」


 ユーリーの顔がゆっくりと降りてくる。

 薄紫の瞳に囚われて、私は動けない。

 ユーリーは長身を屈めると、私の唇に掠めるようなキスを落とした。


「な、なにするの……っ」

 

 触れたのは、ほんの一瞬。

 だけど、ひんやりとした唇の感触がまだ残っている気がする。


「……なにって、キスだけど?」


「なんでキスされなきゃいけないのよ」


 一体この魔術師は、勝手に何を抱えているというのだろうか。

 キスされたことよりも、教えてくれないことが腹立たしい。


 ユーリーを睨みあげるが、全く効いていないようでふっと口元だけで笑われた。

 

「なんでって……君が好きだから?」


「はぁ……?」


 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 こちらは好かれる理由が分からないというのに。


「もう一度キスしたら、俺の気持ちがわかるかもね」


 そう言って、ユーリーは顔を近づけてくる。


 ――ひ、ひいいいい!


「さ、さよならっ!」


 私はユーリーの手を振り払うと脇をすり抜け、逃げるように部屋を飛び出した。



 ◇◇◇◇◇◇



 ユーリーにキスされた日から三日。

 ひとつ屋根の下で暮らしているというにも関わらず、私とユーリーの間にはなんとなくきまずい空気が流れていた。


「はぁ……」

 

 私は食堂の机に頬杖をついて、深いため息を吐き出した。

 

 ユーリーはというと、もう夜だというのに街の人から依頼を受けたとのことで街へ行っている。

 魔術師というのは、思いのほか便利屋として重宝されているらしい。

 私は一人お留守番だ。


 ――なんで、キスなんかするのよ。


 私が悩んでいるのは、すべてあの魔術師のせいだ。

 別に、ユーリーのことを避けているわけではない。

 だけど、あの日から、ユーリーの顔を直視できないのだ。


 ――私、ユーリーのことが好きなのかな。


 わからない。

 自分の気持ちも、ユーリーが何を抱えているのかも。

 

「はぁ……」

 

 このまま考え込んでいてもしょうがない。

 私はもう一度ため息を吐くと、調合の勉強をするために書庫へむかうことにした。


 ダイニングを出て、短い廊下を歩く。

 と、来客を知らせるチャイムが鳴った。

 

 ――あれ? お客さん?


 もう夜更けだというのに、珍しいこともあるものだ。

 こんな時間にどうしたのだろう。

 私が不審に思いながら玄関の扉をそっと開けると、男が二人、立っていた。


「ああ? なんだ、この女」


「それはこっちのセリフなんだけど……」

 

 一体この二人の男は誰なのだろう。ユーリーの知り合いだろうか。


 気にかかるのは、身なりがあまりよくないということだ。

 服装は、黒ずくめ。人相は、悪い。

 一見すると、犯罪者にしか見えない。


 私が男たちを見定めていると、外から別の男が走ってきた。

 どうやら3人組らしい。

 

「ユーリーは?」


「居ないみたいッス」


 リーダー格らしき男が尋ねると、あとからやってきた男が返事を返した。


「ちっ、間が悪いな……。女だけでも連れてけ。交渉材料にはなるだろ」


 そういうと、男の一人が私の体を羽交い締めにしてきた。


「え……。ちょっと離してよ……!」


 抵抗しようと試みるが、力が強くて上手くいかない。別の男が私の口元にハンカチを当ててきた。


 どこかで嗅いだことのある、甘い香りがする。


 ――これ、私が前にすり潰した……。


 水と混ぜて煮れば強い睡眠薬になるという、あの草の香りだ。


 気づいた時にはもう遅い。


 私の意識は闇の中へと溶けていった。



 ◇◇◇◇◇◇



「……っん」


 がた、ごと、と体が揺れる。

 振動と馬のいななきに目が覚めると、私は馬車の中にいた。


 即効性の睡眠薬だと聞いていたが、持続性は低いのだろうか。

 丸一日寝ていたのでなければ、それほど時間が経っていないと思われた。馬車の窓を流れる景色はまだ夜だ。


 起き上がろうとして……、私は自分が動けないことに気がついた。両手両足を縛られてしまっている。幸いと言っていいのか口は封じられていないようだが、薬のせいなのか上手く言葉が発せられなかった。


 ――どうしよう。もしかして誘拐されてる?


 もしかしなくてもそうだろう。

 さすがにこれはまずい、と頭の中で警鐘が鳴る。

 どうにか打開策はないかと考えを巡らせていると、御者台の方から男たちの話し声が聞こえてきた。


「……にしてもユーリーのヤツめ、こんな町外れにいるなんざ思わなかったよ。組織を壊滅させておいて呑気に過ごしやがって……」


 ――組織? 壊滅……?


 一体男たちはなんの話をしているのだろう。

 ユーリーに関わりそうな話だということだけは察してしまい、私は思わず聞き耳を立ててしまった。


「――そういえばこの女、見覚えありません?」


「ああ、あるともさ。多分、五年前にうちの組織が誘拐した貴族の一人じゃねぇか? なんで町外れにいたかは知らねぇが……」


「まぁ、この女をダシにして、ユーリーに復讐できればこっちのモンっすね」


 男たちがけたけたと笑っている。

 だけれど、それどころではなかった。

 

 ――五年前……? 誘拐……?


 聞き捨ててはならない言葉が聞こえた気がする。

 なんだか、酷く頭が痛い。心臓がバクバクして、呼吸が苦しくなってきたような……。


「あ? お前なに馬車の上でマッチなんかすろうとしてんだ?」


「だって、俺は運転してないからタバコ吸ってもいいかなって」


 御者台の方では、男たちの会話がまだ続いているようだった。

 ……マッチ? タバコ?

 なんだか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 

「気をつけろよ?」

 

「分かってますって……あ」


「あ、おいバカ、なんで馬車の上にマッチを落とすんだ! 早く逃げろ!」

 

 ――今、「あ」って言った!? 逃げろ!?


 慌てふためいている男たちに、なんだかやっぱり嫌な予感がするのだが……。


 程なくして馬車が止まった。

 ヒヒィン、と馬が大きく鳴き、どこかへ走り去っていくひづめの音がする。男たちの声も聞こえなくなる。


 ――え、な、なにごと……!?

 

 私が動揺していると、ぱちぱちとどこかから何かが燃えるような音がしてきた。

 それに、馬車の中が熱くなってきたような……。

 

 ――まさか!


 はっと周囲を見ると、馬車から火が上がり始めているようだった。


 ――ああ……、私が薄幸(白光)令嬢だなんて思ったからかしら……?


 誘拐された挙句、運悪く馬車が燃え、縛られているせいで逃げられもしないとは……。

 確かに元から幸が薄い方だという自覚はあったが、これはさすがに酷い。

 ついていないにもほどがあるだろう。


 あまりの運の悪さに、気が遠くなってしまう。


 ――違う。それだけじゃなくて、煙を吸ってしまったからだ。


「けほけほ……っ」


 薬のせいで上手く喋れないというのに、煙を吸ったせいで喉が焼けるように熱い。

 周囲の火はどんどんと大きくなって、視界が赤く染まる。


 ――ああ、もう……。


 熱くて、苦しくて、何も考えられない……。


「フェリシア!!」

 

 聞き覚えのある声がする。

 馬車全体に水がかけられ、あれだけ燃え盛っていた炎が一瞬で消えていくのがわかった。


「フェリシア! フェル!!」


 誰かが私の体を馬車から引きずり出し、強く抱き締めてくる。

 この人は、誰だろう……。

 必死に私の名前を叫ぶ声に覚えがあるのに、頭がぼんやりして、すぐに思い出すことができない。


「ユー……リー……?」


 霞む視界の中で目を凝らせば、月夜に照らされた見覚えのある銀髪が、視界の端で夜風に揺れていた。

 私は絞り出すようにして、ユーリーの名を呼ぶ。


「死なないでくれ、フェル」


 ぽたりと、ユーリーの薄紫の瞳から、涙がこぼれ落ちた。

 私の頬に落ちた雫が、ゆっくりと顔を伝って流れていく。


 薄幸なだけで私は死なない、と。

 そうユーリーに言いたかった。

 

 ――それに私、まだユーリーに気持ちを伝えてない。


 私を抱いて涙を流す姿を見て、自覚してしまった。

 私はこの、得体の知れない魔術師が……。ユーリーが好きなのだと。

 言わないといけないのだ。


 それなのに、もう。言葉が出ない。


 ここで死んだら、私はどうなるんだろう。

 消えてなくなるのだろうか。それとも再びループの流れに戻るのか。


 意識が遠くなっていく中、ユーリーが魔法を使う気配がした。


 ――ああそっか、そういうこと。


 そうして死の直前になって、私は全てを思い出し……そして気づいたのだ。


 

 ――――――



 俺の腕の中で、フェリシアが目を閉じる。

 俺の腕の中で、フェリシアの命の火が消える。


 そんなこと、俺は許さない。

 彼女が幸せになれないなんて、許さない。


 フェリシアが幸せになるためなら、俺の生命なんて安いものだ。

 彼女のためなら俺は、何度だって寿()()()()()()()()()()()()()()

 俺は――。


「……」


 俺は、まだ温もりの残るフェリシアの唇へ、自分の唇を押し付けた。


「君の不幸な結末なんて、俺が覆してみせるよ」

 


 ――――――



 私が忘れていたのは、五年前のことだ。

 忘れていた……というより、忘れさせられていた、という方が正しいのだろう。他でもない、ユーリーの魔術によって。

 思い出したのは、ユーリーの魔力に間近で触れたせいだろうか。


 ともかく、私とユーリーは五年前に出会っていたのだ。

 

 あの男たちが言っていたように、私は五年前に当時国内最大規模だと噂されていた犯罪者組織に誘拐された。

 多くの貴族の子息や令嬢が誘拐された、国を揺るがすほどの大事件だった。


 ほとんどの子たちがひとつの部屋にまとめられて監視されているなか、私は一人何もない別室にいた。

 私は公爵家の令嬢ということもあり、それなりに特別扱いされていたのだろう。

 

 犯行グループたちが国との交渉に忙しい中、私の見張り役としてやってきたのが、ユーリーだった。

 彼はあまり喋らなかったが、暇だった私は彼を話し相手にした。

 当時は12歳と幼かったとはいえ、我ながら肝が据わっていると思う。


「ねぇ、あなた暇なの? 私とお話しない?」


「……好きにしてくれ」


 無表情でそう言われたが、私は気にせずに続けた。


「私、フェリシアって言うの。フェリシア・ウィングフィールド。あなたは?」


「…………ユーリー」


「へぇ、綺麗な名前ね!」


 私はユーリーに、色んなことを話した。まるで友達のように。

 もうすぐ父親が再婚すること。義妹ができること。当時片思いをしていたヘンリー様のこと。


 多分、誘拐された恐怖でおかしくなっていたんだと思う。

 突然部屋にやってきた、少し年上で眼鏡をかけた銀髪の少年をやり過ごすための、私なりの対処法だった。


 やがて私はユーリーに聞いた。

「あなたはどうしてここにいるの?」と。


「……俺はこの組織に拾われたからここにいる。それだけだよ」


 どうでも良さそうにユーリーが答える。

 今よりも能天気に生きていた当時の私には、あまり理解できないものだった。

 

「……ふぅん? お父さんやお母さんの代わりをしてくれているってこと?」


「違う。俺の魔術の力を利用しているだけだ」


 当たり前だが、魔術なんてそうそう見られる機会なんてない。

 私はユーリーのその言葉に目を輝かせて身を乗り出した。

 

「あなた魔術が使えるの!? 見てみたいわ!」


 はしゃぐ私の様子にため息をついたユーリーは、仕方なさそうに魔法を使ってくれた。

 あの、白い花が出る魔法だ。

 白い花が、甘い香りと光を放ちながら現れる。

 この瞬間こそが、本当に私が初めて魔術をみた瞬間だった。

 

 私はこの時も、ユーリーの魔術に目と心を奪われた。


「すごい! 初めて魔術をみたけど、とっても綺麗! あなたのその力、絶対他のことに使った方がいいわ!」


「他の、こと?」


 私の言葉は思いもよらぬものだったのだろう。ユーリーが目を丸くする。

 彼の表情が変わった瞬間だった。


「ええ! もっと素敵なこと! あなたが楽しいと思えることに!」


「……そうか。なら俺は、君のために力を使いたいな」


「え……」



 

 そこからは屋敷に戻るまでは、あまり思い出せなかった。

 気づけば私は屋敷に戻っていて、父に泣きながら抱きしめられていた。

 新聞では、犯罪者組織が壊滅寸前まで追い詰められ、主犯格のメンバーは捕らえられたと報道がなされていた。


 だが、その時の私にはもう、誘拐されたこと自体の記憶がなく、完全に他人事で状態だった。



 ◇◇◇◇◇◇



 ふっと暗闇から意識が浮上する。

 私が目を開けるとそこは、ユーリーの家の食堂だった。それも夜。


 ――私、生きてる?


 馬車が燃えて、炎に包まれたあの時。

 私は確かに死んだと思った。

 ユーリーの腕に抱かれて、私は自分の命が消えていくのを確かに感じた。


 だけど、今、私は生きている。


 体が溶けて消えてなくなりそうなほどの熱さを感じたのだ。

 火傷の一つや二つ、それどころか全身に火傷を負っていても不思議ではないのに。

 私の体には、傷一つない。


 ――やっぱり巻き戻ってる。

 

 そんな馬鹿なと思う自分と、やっぱりと思う自分がいるのを感じる。


 六度目のループ先は今までとは異なり、ヘンリー様との婚約が結ばれた時ではなく、ユーリーの家だなんて。


 食堂には私一人しかいない。部屋に置いてある時計を見るに、ユーリーが街へ行ってすぐの時間くらいだろう。

 ここまであからさまだと、溜息をつきたくなる。


 婚約破棄される度に、今まで私を何度も何度もループさせてきた犯人はユーリーだったというわけだ。


 ――ユーリーに会いたい。


 私は、おかしい。

 あんな、得体の知れない魔術師に会いたいと、こんなにまで強く思うなんて。

 ユーリーの顔が見たくてたまらないなんて。


 私は一度死んで、なおさら狂ってしまったのかもしれない。

 

 それもこれも、あの男が最期に私を抱きしめたりなんかするから。

 あの男が、涙なんて見せるから。

 

 私の脳裏には、私が死ぬ間際に見たユーリーの姿がすっかり焼き付いてしまった。

 私を想って泣く、彼の姿が忘れられない。


「ユーリーの馬鹿……!」


 私がユーリーを探しに行こうとを部屋を出ようとしたその時。

 後ろから不意に抱きしめられた。

 

「誰が、馬鹿だって?」


 耳元から、聞き覚えのある甘い男の声がする。


「……ユーリー……っ!?」


 一体いつ現れたのだろう。

 この部屋には誰もいなかったはずだ。

 だが、そんなこと問うだけ無駄であろうことは分かっていた。

 彼は魔術師だ。大概のことを魔術で解決出来てしまう。


「どうしたの? そんなに泣いちゃって。俺に会いたかった?」


 言われて気づく。どうやら私は泣いていたらしい。


「ええ、会いたかったわよ、私なんかに大技を何度も使う馬鹿な魔術師に!」


 私はユーリーの腕の中で振り向くと同時に、彼の唇へと口付けた。

 ユーリーからされた時と同じように、私も一瞬だけ触れ合わせて直ぐに離れる。

 見上げたユーリーは、薄紫の瞳を驚きで見開いていた。


「……気づいてしまったのか」


「ついでに全部思い出したわ」


 私がそう付け足すと、複雑そうな表情をユーリーは浮かべた。

 困ったような、でも嬉しいような、そんな顔。

 

「どうして私を何度もループさせたの」


 間髪入れずに私は聞いた。逃げられないようにじっと見つめる。

 ヘンリー様から婚約破棄される度に、私は繰り返しループさせられていた。それがどれほど私を困惑させていたか。


 ユーリーははぁとため息をついた。私の視線に、逃げられないことを悟ったのだろう。


「君が俺に言ったんじゃないか。あのヘンリーとかいう男のことが好きなんだって」


 確かに、私は昔ユーリーに言った。

 社交界で知り合ったヘンリー様がかっこよくて素敵なのだと。残念ながらその男は、婚約者の義妹に手を出すクズ男に成長してしまったが。


「俺は、君に魔法を褒められたあの日から、君のことが好きで。……ずっと君の様子を見守ってきた」


 ――それって、やっぱりストーカー……。


 思ったものの、口には出さない。

 見守っていてくれた、というのは嬉しくもあるが、生活のあれやこれやを見られていたかもしれないというのは少し複雑なものがある。


「俺は、君の隣に立てるような綺麗な人間じゃないから。俺は、君を幸せにはできないから。……せめて、君が好きな相手と幸せになって欲しかったんだよ」


 ――この魔術師は本当に……。


「だから俺は……自分の寿命を対価に、君が幸せになれるまで時間を巻き戻すつもりだった」


 なんて、優しいんだろう。

 なんて、悲しい人なんだろう。


「ユーリー……」


「それなのに、今回君がおかしなことをするものだから、様子を見に行ったらこれだ」


 おかしなこと、とは私が婚約破棄される前に婚約破棄したことだろうか。

 男たちに森で襲われていたとき、タイミングよくユーリーが助けに来てくれたことにようやく合点が行く。


「ずっと我慢していたのに、どうしてくれるんだ? 君とこんなに近くで過ごしてしまったら、返したくなくなってしまうじゃないか」

 

 私の腰に回されたユーリーの腕に、力が込められた気がした。

 悲しそうに話すユーリーに、私まで余計に泣きたくなる。

 だけど、私にはどうしても言いたいことがあった。


「あなた……ほんとにばっかじゃないの!?」


 この魔術師は、優しくて悲しくて、そして何より大馬鹿者だ。


「そんなこと、いつ私が頼んだのよ! 私の幸せは私が決めるわ!」


 私がそう言うと、ユーリーはぽかんとしていた。


「あなたが綺麗な人間かどうかなんてどうでもいい。私はあなたのことが好きで、一緒にいたいし……あなたの魔法にずっと惹かれているのよ! だから――っ!?」


 まだまだ言い募ろうとした唇は、柔らかなものに塞がれた。

 ユーリーの唇だ。

 舌先が私の唇をなぞってくる。

 そのくすぐったさに思わず緩んでしまった隙に、口付けを深められた。


「……っちょ、んん……っ」


「……俺をそんなに煽っていいのかい? もう返せないよ?」


 唇が離された瞬間、間近で囁かれる。ユーリーの吐息が唇にかかってぞわりとした。

 なんだか甘い花のような香りがする様な気がして、酔ってしまったかのようにくらくらする。


「そんなの……っ」


 ユーリーは私の言葉を塞ぐように、何度も繰り返し口付けてきた。

 まるで私からの言葉を聞きたくないかのようだ。


 彼はきっと、私が「やめて」と言ったらその通りにするのだろう。そうしてきっと、私の知らないところで私のために勝手に何かして、私の知らないところで朽ち果てるに違いない。


 ――そんなのは許さない。

 

「返さないでいいわ」


 どの道、私はもう公爵家に戻るつもりなんかない。

 私はもうとっくに、この魔術師に捕まってしまっているのだ。


「じゃあ、旅に出ようか。世界一周なんてどうだい?」


「それは楽しそうね」


 私はユーリーの言葉に賛成した。

 ここにこのままいたところで、ユーリーを追っているであろう犯行グループの生き残りが来るだろう。

 逃げた方が懸命だ。


「君は、魔術師に捕まった可哀想な子だ」


 ユーリーが泣きそうな、だけれど幸せそうに顔をゆがめて、私を抱えあげた。

 一見すると、確かに可哀想なのかもしれない。

 魔術師に好かれたばかりに、何度も同じ時間をループさせられ、家を捨てる道を選んだ。

 だけど。


「そうね。でも、とびきり幸せな子よ」


 私は幸せだ。心を奪われるほど美しい魔法を使う魔術師が、私を愛してそばにいてくれるなら。


 私は愛しの魔術師の首に、自分の腕を回した。

 

 


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