09 新生フィーナの実力と、花火魔法の開発(エラー)
もう1体のブラックケルベロスは明らかに警戒心を強めた。同胞を一瞬で撃破されて、フィーナの力を認識したらしい。
巨大な犬は唸りながら、つま先立ちでフィーナの周りをうろつき、間合いをはかっている。
「ーーさあ、いつでもどうぞ」
フィーナは剣を構えながら、相手の出方を伺っている。
しばらくして。
咆哮とともに、ブラックケルベロスは巨大な爪でフィーナをなぎ払った。
フィーナは避けもせず、剣でそれを受け止めた。
「お、おいっ!」
次の瞬間、ブラックケルベロスは回転し、背中から地面に叩きつけられた。
「ーーシュウ様に教えていただきました。衝撃分散です」
「……強い」
ブラックケルベロスも強敵のはずだ。フィーナも昨日はあれだけボロボロにされていた。だが、今日は完全にフィーナが一枚上手だ。逆に手玉に取っている。
ーーそして、気づく。
俺のスキル《勇者の資質》は、この世界のパワーバランスを変えうるものなんだ、と。
クソ女神の肝いりスキルは伊達ではなかった。
「続いてーー神速」
「ーーっ!」
フィーナは高速で移動しながら、ブラックケルベロスを斬りつけた。斬撃を受け巨大な犬は草原にのたうち回った。
続いて、フィーナはケルベロスの身体を踏み台に飛び上がると、上空から剣を突き刺し、その動きを封じた。
「さあ、シュウ様! 光線を!」
「あ、ああ!」
戸惑う暇もなかった。俺はフィーナに言われるがまま、発動を念じた。
「光線!」
俺の指先から発した光は、ブラックケルベロスの体を貫いた。
『ブラックケルベロスに359のダメージ。ブラックケルベロスを撃破しました』
「はぁ……」
2体目のブラックケルベロスも動かなくなった。大したことはしていないが、精神的に疲れた。すると、俺の身体が淡く輝く。この感覚は……。
『シュウはレベルアップしました。レベル21。《光魔法》身体強化を習得。基本術技の習得は完了。後はスキルポイントを使用し、強化してください』
「へいへい」
もはやレベルアップでは新技は覚えないのか。まあ、攻撃、回復、移動、補助、強化と基本形は揃ったからな。戦いには十分かもしれない。戦いたくはないけど。
そうこうしていると、フィーナが俺の元へ駆け寄ってきた。
「シュウ様、お見事でした! 光線の輝きもいつにも増して神々しく……」
「お世辞はいい。それよりフィーナこそだいぶ強くなったようだな」
「シュウ様のおかげです! 先ほどのご指南のおかげでここまで戦えるようになりました。本当に、本当にシュウ様と出会えて幸せですっ!」
「おおげさな……」
フィーナの瞳には、うっすらと涙が浮かびきらきらと輝いていた。崇拝のまなざし、といったところだ。
「シュウ様もレベルは上がりましたか?」
「ああ、おかげさまでな」
「シュウ様のレベルアップに貢献できて、光栄です!」
「……ん?」
そのとき、気づいた。
1体目のブラックケルベロスは瞬殺だったのに、2体目には時間がかかっていた。お互いに慎重に戦ったのかもしれないが、おそらくは。
「……フィーナ、2体目のケルベロスは、俺がとどめを刺せるようにお膳立てしたな」
レベルアップの仕組みがどうなってるのかは知らないが、きっとフィニッシュボーナス的な何かがあるのだろう。
「いえ、な、なんのことでしょうか。ふ、ふぃ〜♪」
「口笛もまったくふけてないぞ」
……あの強敵相手に手加減までできるとは。
スキルポイント割り振り恐るべし、だ。
俺も自分のポイントを早く使ったほうがいいのかもしれないな。
フィーナがここまで強くなった以上、村を守るにはひとりで事足りる。俺が少々何かをしたところで過度な期待を寄せるやつも少ないだろう。
「……フィーナ、疲れたか? この後はどうする?」
「まずはブラックケルベロスを解体して、魔石や素材を回収したいと思います。ここは村に近いので、村の皆さんにお手伝いをお願いしたく、私は一度村に帰らせていただきたいと……」
「昨日は森に転がしたままだったからな」
俺がいた手前、昨日はフィーナも最小限の魔石回収だけしていたのだろう。
「特に、爪や革は使いみちがたくさんありますから。昨日はともかく、今日も放置したらマナカが怒ると思います」
「……それはマナカには言わないほうがいい」
おそらく、マナカは村の鐘を聞いてフィーナの帰りを泣きそうになりながら待っているのだろう。こんなふうに言われているとは思っていないはずだ。
「シュウ様はいかがされますか? 私と一緒に村にお戻りになりますか?」
「いや……」
誰もいない草原か。術の開発にはかえって好都合なのかもしれない。いざとなったら飛行魔法で逃げられるし。敵も今日はもう来ないだろう。
「俺はちょっとやりたいことがある。ここでフィーナを待ってるよ」
「承知しました。では、申し訳ありませんが、しばらくお待ちくださいね。あ、神速で行きますので! お水もお持ちします!」
「……俺が授けた技をパシリみたいに使わないでくれ」
なんか罪悪感がある。
「そうおっしゃられるなら、普通に、でも早歩きでいきますね」
「それでいい」
「では、シュウ様。行ってまいります」
フィーナは村の方へ歩いていった。
「さてと……」
ステータス画面を開く。俺のスキルポイントは575あった。レベルアップしたので増えたらしい。
そうだ、まずは最初に。
「ーー退魔結界」
念のためにエンカウント避けの結界を張る。昨日の森では気がつかなかったが、透明な光の幕が俺を中心に広がり、ドームのようなエリアを形成した。
ブラックケルベロスの亡骸を幕が通過するとき、ピシッというプラスチックが割れるような音がした。おー怖。びびったじゃねーかよ。
おそらく未回収の魔石か何かに反応したのだろう。
さてと、気を取り直して、花火魔法の開発をしよう。
「《勇者の資質》、サポートよろしく」
『承知しました。派生魔法開発のサポートをします』
「まずはイメージだったな」
長年の憧れがある。イメージは容易だ。
目を閉じて、想像する。
蝉の声も止んだ夏の夜。空は深い青に染まり、星が輝く。
かすかに濡れた草と、発電機の燃料の匂い。
通りに並ぶ提灯と、色とりどりの屋台の数々。
溢れんばかりの人々。
俺の隣には青い浴衣姿の女の子ーーなぜか配役はフィーナになってしまった。昔好きだった女の子の顔は……思い出せない。
ヒューというかん高い音がして空を見上げる。
すると、夜空に細く光がのぼっていき、やがてどんっという大きな音とともに大輪の光の花が開く。光は余韻を残しながら、ゆっくりと消えていく。
横を見ると、花火を見上げる少女の顔が、一瞬だけ明るく照らされてーー。
ああ、泣けてきた。リアルタイムで経験したかったなあ……。
『エラー、派生魔法の開発はできません! エラーリストを表示します』
「ああんっ?」
せっかく感傷に浸っていたのに、《勇者の資質》が茶々を入れてきた。
は? 何が悪いってんだ? 表示されたウィンドウを確認する。
【エラー】
・術者を離れて術を起動することはできません。術は術者の手元から起動してください。
・希望する規模の術を開発するためには、光線をLv9にする必要があります。
・光魔法の作用途中に音を発することはできません。風切り音及び爆発音発生の指定を外してください。
【注意事項】
・光魔法は白色で最大出力となります。戦術上の理由がない限り、色は変更しないでください。
・空中での炸裂後、光の移動速度が著しく低下しています。戦術上の理由がない限り、速度は変更しないでください。
「あー、うるせーっ!」
ごちゃごちゃどうでもいいことを。
まず俺の手元から花火を出せ、だぁ?
「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」っていうけどよ、俺はかわいい女の子の横から見る派なんだよ。打ち上げがしたいわけじゃないんだよ。
それに音は出ないだぁ? あのクソマスコットが最後に上げた光は音が出てたぞ? なんか言ってみろ!
『説明します。女神セレスが使用した光は、光同士のエネルギーを激突させることで音及び閃光を発していました。シュウのイメージのように、放射線状に光を拡散させる場合、音の発生は不可能です』
使えない魔法だ。やはりクソ女神は俺の意向なんか考えてくれなかったんだな。
「クソ女神、どうしてくれるんだよ!」
ーー俺は、女神を冒涜する言葉をひととおり吐いて、なんとか気を落ち着かせた。
……仕方ない。
かわいい方の犬ころ、ス○ーピーも手持ちのカードで勝負するしかないと言っていた。
とりあえず、できるところまでやろう。
動画編集のように、後口で音をつけることくらい、《道具生成》スキルなら何とかしてくれるはずだ。
それに運用中に改善方法が見つかるかもしれない。
未完成より不完全のほうがマシ。
不本意だが、そう思うことにした。
「まずは……」
光線のLvを最大まで上げる。
『スキルポイント100を使って、光線を強化してよろしいですか?』
もちろん「はい」だ。
『シュウは光線をマスターしました』
よし。
続けて……音のない花火をイメージすればいいのか?
『シュウが指定する術には、色彩の変化等推奨されない機能が含まれています。手動にてカスタマイズを行ってください』
その言葉とともに、俺の前には半透明の黒いウィンドウが表示された。