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06 スキルポイント振り分け

 村長への挨拶のあと、フィーナは俺を近くの小屋に案内した。広さはホテルの1人部屋(シングルルーム)くらいだ。


「シュウ様、申し訳ありませんが、私はこれからマナカと一緒に村長にご報告しなければならないことがあります。すぐに戻ってまいりますので、しばらくおくつろぎください」

「ああ」

「こちらに井戸水を用意しましたので、どうぞお召し上がりください」

 フィーナはまた村長の家へ戻っていった。


 ドアを締め、俺は木製の椅子にもたれた。

「……はぁ」

 肉体的にはまだ大丈夫だが、精神的にこたえたみたいだ。急に疲れが出た。

 水でも飲むか。だが、異世界の水を飲んでお腹を壊さないか。ちょっと心配だ。


『スキルポイント1を使い、退魔結界(ホーリーサークル)の派生魔法、浄化光(ピュリファイ)を開発可能です。手動実行しますか?』


 おお、スキル《勇者の資質》による解説だ。意外と使えるな、これ。勝手に「はい/いいえ」のメッセージウィンドウまで出てきた。てか、スキルポイントなんて持ってたかな?


『シラミズ・シュウは326ポイント所持しています。ポイントはレベルアップ時、またはスキル使用時に取得できます』


「結構あるな」

 そうか。ブラックケルベロス討伐時に魔法のカスタマイズがどうとか解説があったけど、あれか。てことは、ほかにもできることがあるのか。


『スキルポイントは、手持ちの術技の強化、もしくは派生術技の開発に使えます。派生術技は使用者が想像(イメージ)できて初めて開発可能となります。先ほどはシュウが水を綺麗にすることを望んだので、浄化光(ピュリファイ)の開発が可能となりました』


「じゃあ、例えば、追跡する光線とか、枝分かれする光線とか」


『はい、光線(レイ)派生、追跡光線(ホーミングレイ)拡散光線(マルチレイ)開発可能です。スキルポイント振り分け後、実際に使用を念じることで習得は完了します。補足ですが、既存の術技に類似した物がある場合、命名は自動でなされます』


「なるほど……」

 じゃ、326もあるんじゃ試しに使ってみるか。

「スキルポイントを1使い、浄化光(ピュリファイ)を取得」

 俺はメッセージウィンドウの「はい」を押した。

『実行確認。スキルポイントを使用します』


「…………」

 何も起こらない。

「ステータス、オープン」

 意味もなくウィンドウを開いてみる。《光魔法》を開いてみたが、光線(レイ)再生の光(ヒールライト)双光(エンジェリック)(ウィング)退魔結界(ホーリーサークル)の4項目しか出てこない。


 ……ということは。


 俺は水差しに手をかざした。

 すると、水差しが淡く輝いた。


『条件達成。シュウは浄化光(ピュリファイ)を習得しました』


 よくわかった。

 この世界で新しい術を使えるようになるためには、ステップがいるということか。


 まずはイメージを固める。

 次にスキルポイントを消費する。

 最後に実際に使う。


 確認したところ、俺のステータスにも浄化光(ピュリファイ)が追加されていた。2回目からは普通に使えるのだろう。

 さっそく逃亡用魔法の双光(エンジェリック)(ウィング)を強化してもよいのだけど……今後のこともあるし、いったん保留しておく。


 まずは水を飲むか。


 俺は水差しから、淡い光が残っている水を木製のコップにそそぎ、口に含んだ。


「……めちゃくちゃうまい」


 なんだこれ、臭みとか雑味とかがまったくなく、ただただ透き通った硬水の味がする。元の世界で飲んだミネラルウォーターなんかよりはるかにうまい。2杯目にいく。


「ぷはぁっ!」


 生き返る。酒飲みどもはこんな感じで楽しんでたのかな。ま、今なら理解してやれそうだ。


「いい魔法を開発したよ」

 疲れも吹き飛ぶな。俺は3杯目をつぎ、チビチビやることにする。


 しばらくすると、玄関のドアがノックされた。

「シュウ様、お待たせいたしました。よろしいでしょうか?」

「ああ」

 かんぬきを開けて扉を開く。そこには、フィーナとマナカが並んで立っていた。


「遅くなり申し訳ありません。ご夕食を用意しますので、ご足労ですが私の家までお越しくださいませ」

「シュウ君、あたしも一緒にいいかな? あたしもシュウ君に興味があるんでね」

「わかった、ありがとう」


 女の子が家に迎えに来てくれるなんて経験したことなかったから、新鮮な光景だ。しかも手料理も作ってもらえるとは。ちょっとだけ、転生してよかったと思う。


 そうして、俺たちは3人でフィーナの家へ向かった。

 道中、フィーナが俺の顔を横から覗き込んで、言う。


「さて、シュウ様。お約束をお忘れではないですよね?」

「約束?」

 まったく記憶にない。


「あんまりです……。私のスキルもご覧になってくださるというお話ではなかったですか……?」

「シュウ君はそんな約束してないでしょうに」

「マナカは黙ってて! 自分だけずるいです!」

「別にあたしはお願いしたわけでもないんだけどな。ね、シュウ君。スキルなんて見て、面白い?」


「む〜〜……マナカ、ひどいです……」

 フィーナはふくれっ面だ。

「あはは、ごめんごめん。ついからかっちゃった。そんなに怒らないでよ。ね、シュウ君、見てやりなよ。別に何か代償があるわけではないんでしょう?」

「まあな。わかったよ」


 フィーナを眺めて、ステータスウィンドウを表示させる。フィーナは満足そうにドヤ顔をしている。


 フィーナ レベル31

【所持スキル】

 《剣術》

 《説得》


 ほら、案の定《剣術》じゃないか。新鮮味がないな。《説得》というのは……?


『自己の考えを伝え、他者を動かすコミュニケーションスキルです。常時発動(パッシブ)型です』

 スキル《勇者の資質》による解説が入る。


 非戦闘スキルか。てか、厄介なものを持っているな。フィーナのさじ加減ひとつで、民衆が俺を勇者だと祭り上げることもありえそうだ。フィーナの取り扱いには気をつけなくてはならない。


 ま、《説得》には意外性もあったけど、概ね予想の範囲内のスキル構成だな。


 フィーナにそう伝えようとして、気まぐれでスキル《剣術》の詳細を確認した。


 ーーすると。


 《剣術》

 基本剣術Lv9(上限)

 体捌(たいさば)きLv9(上限)

 動体視力Lv9(上限)

 スキルポイント残:()()()()


 と表示された。


「は……?」

 フィーナはスキルの基本技だけで戦っているのか? てか。


「スキルポイントは使わないのか?」

「え?」

 フィーナはきょとんとした顔をして。

「スキルポイントって、なんですか?」

 と質問を返した。

「なんですかって……」


「あたしも聞いたことないなぁ」


『補足。スキルポイントの振り分けはスキル《勇者の資質》所持者だけが行えます。勇者のパーティメンバー以外は、スキル使用時に極低確率でLvが上がるか、新規の術技を習得します』


 ……なるほど。たしかに、こういうポイント振り分けは、勇者というか、その操作者(プレーヤー)しかできない印象がある。ゲームの話だけど。高レベルで仲間になるキャラは、ある程度スキルポイントの振り分け余地があるパターンも多い。


 てことは、フィーナは、あと1524ポイントも強くなる余地があるということか。今でさえ十分強いのに、ぜんぶ割り振ったらどれほどの強さになるのか。


 ーー間違いない。

 フィーナは、最強のボディーガードにできる。

 あのクソ女神も少しは使えるスキルをくれていたようだ。


「どうしました、シュウ様?」

「いや……」

 だが、今はスキルポイントを振り分けても、習得のための試し撃ちができない。もう夜になるし、動けるのはどうせ明日だ。

 ま、ここは褒めておくか。


「フィーナは《剣術》スキルの冴えがすごいな。達人の域だ。頼りになる」

「あ……!」

 フィーナは満面の笑みを浮かべ、

「ありがとうございます! 光栄です! いぇい♪ 認められたよ私の剣術♪ 抑えきれない喜び噴出♪」

「禁止だ!」

「……勇者様のことじゃないのに」

「こら、ぼそっと言うな!」

「ご、ごめんなさい!」


 マナカに聞かれたか様子を見ると、何やら考え込んでいた様子だった。

「マナカ?」

「ああ、ごめん。ちょっと考えごと。シュウ君の言うとおり、フィーナの《剣術》は確かに達人の域だよ。スキルの神託を受けてからたった5年で磨き上げたとは思えない」


「5年?」

「シュウ様がご存知かわかりませんが、私たちは10歳になる年にスキルを授かります。私とマナカは同じ年に信託を受けました」

「そうなのか」

 じゃ、15歳か。ふたりともこの世界の俺と同い年なんだな。


「フィーナの《剣術》レベルの高さは、そのままあたしたちがどれだけフィーナに戦いをお願いしてきたかと裏返しだからさ。シュウ君が褒めるのを聞いて、ちょっと複雑な気持ちになったんだ」

「私は別に……」

「あんたはそう言うだろうけど、あたしの気持ちがね……」


「ま、適材適所じゃないか。マナカだって何もしてないわけじゃないだろう」

 俺のお抱え花火師としての任用も考えてるしな。下手に戦おうとして怪我でもされたら困る。

「そうです! マナカの製作(クラフト)してくれた音玉(おとだま)や回復薬がなければ私だって今ごろ……」

「……ありがと、フィーナ」


 気づくとふたりは手をつないでいた。

 よきかな。


「さあ、シュウ様。ここが私の家です」

 そこには、先程の俺がいた小屋とそう変わらない大きさの家があった。

「すぐにお食事を準備いたしますね」


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