31 街の奪還
ローゼスを倒した俺は、村人たちの近くに駆け寄った。
「マナカ、みんなは!?」
「シュウ君、ごめん、もう持たない! 助けて!」
村人を見ると、残りHPがひと桁の人が複数いる。HPの減少具合からすると、もって後20秒くらいだろろう。
急いで自分のスキルに命じる。
「《勇者の資質》、全体回復魔法の開発をしてくれ」
『スキルポイント300を使い、再生の光の派生魔法、再生の光流を開発可能です。実行しますか?』
俺の目の前に現れたウィンドウの「はい」を押す。
「シュウ君、もう息が……!」
「こっちもだ、助けてくれ!」
「意識が……!」
俺は急いで魔法を発動する。
「――光魔法・再生の光流を発動!」
すると、俺を中心にオーロラのような光が発生した。光は渦巻のように回りながら、周囲に広がっていく。
「あ……キズが……!」
「治って…………!」
性能的には、再生の光を範囲内全員にかけるものらしい。
光が村人を包んだとき、みんなのステータスを見ると、それぞれ最大値までHPが回復していた。出血も止まったようだ。
「ふぅ…………」
さすがに疲れた。その場に座り込む。
「シュウ君!」
マナカが駆け寄ってきて、俺の肩を支えた。
「ありがとう……あたしの勇者様…………」
「勇者様はやめろっての…………」
「ダメなの……?」
「いや……」
なんか照れくさい。
「大神官様っ!」
「さすがですっ!」
「ありがとうございますっ!」
村人たちが俺の方に集まってきて、いろいろと祝福の言葉をかける。
だが、どうも頭に入ってこない。
「頭がぼーっとしてきた……」
魔力切れだろうか。
だが、まだ倒れるわけにはいかない。街のどこかではフィーナが戦っている。それに、ほかの敵がまだ隠れているかもしれない。
「フィーナ……勝てるよな?」
回らない頭で呼びかけた。
信じているが、それでも心配だ。
すると。
「――シュウ様!」
聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
振り返ると、銀髪の少女・フィーナがこちらに駆けよってくるところだった。
そのまま俺に抱きついてきて――。
「シュウ様、私、勝てました……。お父様を利用した死霊使いを倒すことができました……。シュウ様のおかげです……」
「そうか……。よかったな」
「ありがとう……ございます……」
「フィーナ、勝ったのね!!」
「マナカ!!」
マナカも駆けより、3人で抱き合う。
「よかったぁ、フィーナ、よかったよぉ」
「マナカぁ、お父様と少し話せたよぉ、私のこと、うらんでなかったよぉ」
「当たり前でしょう……!」
「…………」
泣いて抱き合う少女ふたりに挟まれ、どんな顔をしていいかわからない。
でも、まあ。
「――よかったな、ふたりとも」
今日は笑って過ごそう。
しばらく3人で喜びを分かちあった。そうこうしていると。
「――痛っ」
「どうしたの、フィーナ……って、貴方、これ、骨折れてるんじゃないの!?」
「気がつかなかった……」
「どれだけ集中してたのよ! ね、シュウ君、お願い」
「ああ」
俺はフィーナの腕に手を当て、再生の光を発動した。
「あ……、もう痛くないです。ありがとうございます、シュウ様」
「シュウ君はすごいわね。もしいなかったらと思うとぞっとするわ」
「光の勇者様ですから。あ、今日の偉業をたたえる歌を作らなければいけませんね。えー、ごほん。イェイ♪」
「それはいらない……」
……さてと。
「それはそうと、街を取り返すんだろ。街に魔物は残ってそうか?」
「……それはこれから確かめるわ。でも、フィーナも帰ってきたし、ローゼスもグレンダルも倒したんだもの、残党はきっとあたしたちだけでもなんとかなるわ」
「――じゃあ、最後に仕掛けるか」
「え……?」
「祝砲がわりだ。悪いが、俺が倒れたら守ってくれ。まあ、敵は全滅できると思うが。たぶん普通に戦うより犠牲は出ないはずだ」
「シュウ君、あなた……」
俺は空に手を伸ばし、魔法の発動を念じる。
「――光魔法・打上花火タイプ追跡発動。この街の魔物を倒してくれ!」
俺の指からは白い花火が打ち上がる。空中200メートルまで打ち上がり、直径150メートルの花を咲かせた。
白い光の粒は流星になり、街のあちこちに降り注ぐ――。
(ああ、もう限界か……)
意識を失いながら、俺の前に現れたメッセージウィンドウを確認する。
『シュウの打上花火タイプ追跡により、72体の敵に合計900ヒット、平均3704ダメージ! 範囲内の敵を倒した!』
☆
「ううん……」
目を覚ますと、知らない家の中だった。
「お気づきですか? おはようございます」
枕元にはフィーナが椅子に座っていた。
「ここは……?」
古びてはいるが、家具類はかなり高級そうだ。
「昔、私が住んでいた家です。少し掃除はしたのですが、こんなほこりっぽいところしかなくてすみません」
「いや、ありがとう」
ベッドから起き上がる。シーツの代わりに誰かの上着を下に敷いてもらっていたようだ。
「……いまの状況は?」
「シュウ様は3時間ほど眠っていました。フローリア内の魔物はシュウ様の魔法で全滅したようです。いま、《気配探知》スキルを持っている方を中心にあらためて確認中です」
「そうか……」
うまくいったみたいだな。なら。
「戦いの結果は俺たちの大勝利ってことでいいんだな?」
フィーナはにこやかに笑い、
「――はい! 私たちの大勝利です!」
「よかった……」
「……あ、そうでした」
フィーナは壁に立てかけた剣を手にとった。
「その剣は……?」
フィーナの椅子の横にも、別の剣がある。
「これは、フローレンス公爵家につたわる名剣シルフィードです。シュウ様には、お礼としてこちらをお受け取りいただきたく」
「いやいやいやいや」
そんな大切なもの受け取れるか。
「フィーナが使えばいい。俺は剣を使わないし、俺にはもったいない」
「……お父様からの遺言なんです。この街からのお礼として渡せ、と。どうかお受取りください」
「お父さんと話せたのか?」
「はい、短い時間だけですが、支配から開放されたようです。シュウ様、どうか私に、お父様の言いつけを守らせてくださいませ」
「…………」
そういう事情があるなら、断りにくい。俺はフィーナから剣を受け取った。
「ありがとうございます、シュウ様」
そのとき、フィーナが俺の頬に口づけした。
「な、な……!」
なんで急に!
頭がショートする。
「えへへ。シュウ様、世界が平和になったら、私と一緒にこの街を再興しましょうね」
あ、あれ?
「結婚することになってる?」
「今日は最高の1日ですね。さ、シュウ様、もう歩けますか? みんなが待っていますよ」
「あ、あのー……」
俺はフィーナに手を引かれ、屋敷の外へと出た。
すると、まぶしい太陽の光とともに、村人たちの歓声に包まれた。
「勇者さまーっ!!」
「もう大丈夫なんだなっ!」
「キャアーっ!!」
「おれたちの救世主ー!!」
「すごいな……」
「ふふ、シュウ様もすっかりみんなの勇者様ですね」
「……悪い気はしないな」
「それはよかったです」
そうこうしていると、
「シュウ君! 気がついたのね!」
マナカを始めとする一団が帰ってきた。
「マナカ、どうだった?」
フィーナが問いかける。
「ええ、もう魔物は残っていないわ。フローリアはあたしたちの街に戻ったのよ! フィーナとシュウ君のおかげだわ!」
その声を聞き、再び村人が歓声をあげた。
「うおおおおおおお!!」
「勇者様、バンザイ!」
「ありがとう、勇者様っ!!」
「フィーナ、昔の果樹園にまだくだものがなっていたから、少し採ってきたわ。手持ちの食糧と合わせて、ささやかながらパーティといきましょう」
「マナカ、ありがとう」
フィーナは俺の方を振り向き、言った。
「さあ、シュウ様、勝利の宣言をいたしましょう。その剣、シルフィードを高くかかげてください」
「ああ」
言われるがまま剣を抜き、天にかかげる。名剣シルフィードは太陽の光をうけて、キラリと輝いた。村人たちは静かになり、俺の方を見る。
「皆様、かつてこの街をほろぼした3人の魔族、影使いジェイダーク、死霊使いグレンダル、そして大魔族ローゼスは、ここにおられる光の勇者・シュウ様のご活躍により討ち滅ぼされました! 私、フィーナ=フローレンスは、ここに、この街、フローリアの復活を宣言します!」
「うおおおおおおお!!」
「勇者様ーっ!!」
「ありがとうーっ!!」
村人たちは熱狂のまま、パーティに入った。
そうして、太陽の光が頂点を超えた頃、いつしか《大工》スキルなどを持つものを中心に寝床の準備がされていった。
「――よかったな」
俺は、フィーナからもらった剣を握りしめながら、かつてにぎわっていたこの街に思いを馳せた。