25 【断章・sideマナカ】花火大会の裏側
――星空が広がる夜。
うたげの会場からはなれた村のはずれ。
あたしは、花火打ち上げ装置の準備をしながら、魔石松明による打ち上げの合図を待っていた。
打ち上げ装置をもう一度点検する。
しくみは簡単だ。
セレスト輝石でつくった半球に手を当て、魔法をつかう。
すると、魔法は外部には行かず、魔石へと蓄積される。
魔石の大きさから、大魔法は3発まで蓄積可能だ。
たまった魔法は、スイッチを押して魔石を刺激すると、1発ずつ発動できる。
「あ……」
さて、うたげのにぎわいが静かになった。
そろそろ打ち上げの時間だ。
「……ふう」
緊張する。うまくできるかな。いや、うまくやらなくちゃ。
村の、さらに言えば世界の命運がかかっているのかもしれないのだから。
そんなことを考えていると、遠くで魔石松明の灯りがゆれ、おおきな円が描かれた。
あたしの勇者様、シュウ君が合図を送ってくれたのだろう。
あたしもトーチを点滅させ、合図を返す。
「ふふ」
ふたりだけの内緒の連絡。恋人みたいでうれしくなる。
「さてと」
さっそくいこう。
あたしは打ち上げ装置のスイッチを入れた。すると、シュウ君の光魔法が無音で空に打ち出される。
あたしは、思いっきり笛をふいて、ヒュー、という音を重ねた。
3、2、1。
タイミングはシュウ君になんどか魔法を見せてもらって、おぼえた。
つぎに、手元の革袋をふり、中にいれたスライムの酸とふくらまし草を混ぜ合わせて、空に投げる。
すると、袋はやぶれ、どおおん!といった大きな音がした。
それとほぼ同じタイミングで、勇者様の光が花開いた。
――大成功だ。
「ようし」
2発目にとりかかる。シュウ君は、あたしがこんなかんたんな方法で音を重ねていることに気づくかな?
気づかないでほしい。
シュウ君もがっかりするだろうし、なによりあたしのことを頭がよくて頼りになると思ってほしいから。
3発目の花火魔法に音を重ねているとき、ふと涙がこぼれた。
あーあ、あたしは何をやっているのだろう。
あたしも、勇者様、シュウ君のとなりで、この綺麗な光を見たかったな……。
笛なんて吹いていないで、ロマンチックな景色を楽しみたかった。
もう少し時間があれば。
あたしが装置をもっとうまく作れて、遠くからでも操作できたのなら、シュウ君と一緒に花火を見れたのかな。
「勇者様……大好きです……」
あたしのつぶやきは、誰にも聞かれることのないまま星空に消えていった。
「明日は……勝負の日だな」
もしも生き残れたら。
またシュウ君と会えるのなら、今度は並んで花火を見たいです。
――あたしの勇者様。