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24 夜空と花火と、浴衣姿ではない美少女

「では、魔物の撃退と、大神官シュウ様のご活躍を祝い、乾杯(かんぱい)!」

「かんぱーい!」


 スケルトン襲撃からちょうど1週間後、村では宴席(えんせき)がもうれられた。星空がよく見える夜だった。


 村の広場にテーブルが置かれ、数々の料理が並べられた。

 サンドイッチやステーキ、煮こみ料理やくだものの盛り合わせなど、量も種類もおどろくほど多かった。


「シュウ様、こちらをどうぞ」

「フィーナ、ありがとう」

 渡されたのは木で作られたワイングラスだ。中身は、ぶどうみたいな果実の果汁を、俺が光魔法で浄化したおいしい水で割ったものらしい。

「これは……マジでうまい」

「ふふ、よかったです。シュウ様のお水のおかげですね」


 広場の周囲には、魔石でつくったトーチや、油を燃やしたかがり火が置かれ、あたりを優しく照らしていた。

 フィーナは俺と同じ木のグラスを持って、かがり火の近くにいた。

 フィーナの銀の髪は、オレンジの光に照らされて、夜風に揺れていた。


「……? どうしました、シュウ様?」

「……いや」


 いつもとは違う環境で見るフィーナは、とても綺麗に見えた。着ているのは青いワンピースのようなドレスで、前にも見たことがあるのに。


「フィーナ、その服似合ってるなと思ってな」

「……ありがとうございます。シュウ様にほめていただけると、とてもうれしいですね」


 フィーナは照れたように微笑んだ。

 非日常の夜、美しい少女。これは花火大会に近いシチュエーションなのかもしれないな。


「さ、シュウ様、お料理も召し上がってください。私も準備をお手伝いさせていただきました」

「フィーナの料理はおいしいからな。うれしい」

「それでは、こちらの揚げ物(フリット)などいかがでしょうか?」

「どれどれ……」

 サクッとした食感のあとに、じんわりと肉のうまみが口の中に広がっていく。


「最高だな」

「ふふふ、よかったです」

「なんだか、力がみなぎってくる気がするな」

「あ、それはシュウ様のお力かもしれません。《調理》スキルを強化していただいた皆さんが、料理に能力強化(バフ)効果がついたとよろこんでいました」

「食べると攻撃力アップみたいなアレか。どういう原理なんだろな」


 そんなふうに話していると、

「やっほー、シュウ君。食べてる?」

 マナカが手を振りながらやってきた。


「ああ、おいしくいただいてるよ。花火打ち上げ装置はどうだ?」

「問題ないわ。今日のフィナーレは楽しみにしていてね。合図は覚えてるわよね?」

「魔石トーチで円を描くんだろ」

「バッチリね。あたしは最後の方になったら村の外れに移動するから。よろしくね」

「了解だ」


「マナカ、間に合ったんだね」

「ええ。フィーナたちだけに頑張ってもらうわけにはいかないからね。ちょっとだけ無理したけど、なんとかなったわよ。ところでさ、あなたの剣も完成したって話、聞いてる?」

「あのミスリルの剣?」

「そ。ジルおばさんがいってたわ。どうやらこの宴席の直前まで《鍛冶》スキルで剣をきたえてくれたそうよ」


「わ、それはお礼をしないとだめだね。シュウ様、ごめんなさい。ちょっと席を離しますね」

 フィーナはグラスを持ったまま、村人の()の中に入っていった。


「……なんていうか、マナカもお疲れ様だな。ずっと働きっぱなしだったんだって?」

「けっこう楽しかったわよ? 素材はシュウ君たちが持ってきてくれたのがたくさんあるし、ずっと道具生成(クラフト)だけしてても大丈夫だし、みんなからご飯も差し入れてもらえるし。最高だったなぁ……」

 マナカは上機嫌に言った。

「それはよかったな」

 本人にとっては天国みたいな状況だったのか。


 そんなふうに話していると、今度は村人が集まってきた。

「よう、大神官様! 食べてるかい?」

「いろいろとお恵みいただいて悪いわねぇ」

「ぜんぶの恩は返しきれないが、今日は楽しんでくれよ」

「ああ、ありがとな」

「あたしばっかりシュウ君を独占したら悪いかな。じゃあ、また! 合図よろしくね!」

「了解だ」

「さーて、食べるぞー」

 マナカは料理を取りにいった。


「大神官様、先日は私のキズを治していただき、ありがとうございました!」

 俺は村人ひとりひとりに礼を言われていった。その都度、自分がつくっただのということで、食べ物や飲み物を差し出され、最後には満腹になってしまった。


「もう食えないな……」


 料理もなくなりつつあるころ、村長が言った。


「――それでは、今日一番の出し物の時間じゃ」

 村人のあいだでは「なんだ、なんだ?」と声があがる。

 村長はせきばらいしてから言った。


「この村に滞在しておる大神官シュウ殿は記憶を失い、本来のちからが出せない状態にある。ちからを取り戻すためには、女神様へささげる儀式が必要ということじゃ」


 ……そういえば、異世界に来たてのころ、そんなふうにごまかしていた記憶がある。完全にでまかせだが。


「今回、シュウ殿とマナカがその儀式を再現する道具をつくったということじゃ。せっかくだから、みなも立ち会おうではないか」

「うおおおおお!」

 村人から歓声があがる。


「さ、シュウ様」

「……ああ」

 フィーナから松明(トーチ)を受け取る。


 ついに、このときが来た。浴衣を着た恋人もいないし、出店(でみせ)もない。


 しかし、銀髪の美少女フィーナが横にいる。また、遠くでは同じく美人のマナカが協力してくれている。村のみんなも俺のことを憎からず思ってくれている。


 元の世界で、誰にも振り向いてもらえなかったことを考えると、最高の状態になっている。


 俺は手にもったトーチで、大きな円を描いた。

 すると。

 遠くでチカチカと光が点滅した。


「マナカも準備ができているようです」


 しばらくの沈黙。

 そして。


「あ…………」


 ひゅーというかん高い音とともに、ちいさな光が夜空へと駆け上った。そしてーーどぉん、という大きい音とともに青い大輪の花が夜空に咲いた。


「うおおおおおおおおおお!」

「なんだ、あの光は!?」


 村人が騒いでいる。


「やった……」

 俺もうれしい。マナカはうまいこと、俺の無音の魔法に音を当ててくれたんだな。


「……すごいです……」

 フィーナも感激しているようだ。


 続いて、2発目。再びヒューと音がして、光が空へ昇る。

「シュウ様……」

「え……」


 気づけば、俺のとなりにいるフィーナが、俺の手をにぎってきた。

 そのタイミングで、空に花火が咲いた。今度は赤から青に色が変わる花火だ。


「フィーナ…………」

 俺はフィーナの手を、ぎゅっと握り返した。心臓がどきどきした。

「シュウ様……ありがとうございます……」


 そして、3発目。マナカとの打ち合わせでは、これが最後だ。


 ひゅー、どぉーん。


 オレンジ色の大輪の花が夜空に咲いた。光はそのままヤナギの枝のようになって地上へ降り注ぐ。ホーミング機能を活用した、しだれ柳だ。


「なんて、綺麗……」

 俺の横では、フィーナが瑠璃色の瞳を輝かせて天を見上げていた。


「これが、シュウ様が生み出したかったものなのですね」

 彼女の銀の髪は、夜風を受けてさらさらと揺れている。


「……ああ、でもまだ足りない」

 フィーナがいてくれて、うれしい。だが、浴衣姿ではないし、屋台でのデートもできていない。


 俺の夢はまだまだこれからだ。


「……シュウ様の記憶は、お戻りにはなりませんでしたか?」

「ああ」


 ……フィーナをだます罪悪感があった。もともと俺は転生者で、記憶など失われていないのだ。

 だが、そう答えるしかなかった。


「シュウ様は、急にレベルアップしたり、スキルが覚醒することもなかったのですね」

「ああ、昨日と同じつよさのままだ」


「……お力になれず、申し訳ありませんでした」

「そんなことはない。最高の時間を過ごすことができた」

 フィーナは俺の手をつよくにぎった。


 ――花火のあと、宴会は解散となった。


 俺はいつもの家に帰り、ベッドに横になる。疲れていたのか、すぐにねむってしまった。


 俺は夢を見た。


 青い浴衣を着たフィーナと、赤い浴衣を着たマナカ、3人で花火大会デートをする夢だ。


 フィーナがりんご飴をなめ、マナカは金魚すくいに熱中していた。


 俺はそれをながめながら、泣きそうな気分になっていた。


 ☆


 次の日、目が覚めると、()()()()()()()()()()()()()()

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