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23 ふたりへのプレゼント

「ちょ、ちょっとシュウ君、こっち来て!」

 村に帰るなり、マナカに手を引っぱられた。

「マナカ、シュウ様はお疲れなんですよ!」

「悪いけど、ちょっとだけ!」


 ……なんだ? 特に悪いことをしたおぼえはないのだが。

 連れていかれた先には村の広場だ。そこには、ただの石と宝石、ふたつの山があった。


「シュウ君が倒した魔物だけど、解体したら中からたくさん鉱石が出てきたの」

「おお、それはよかったな」

 デカミミズのやつは、腹の中にこんなに溜め込んでいたんだな。


「あっちの宝石の山がシュウ君のなんだけど……ちょっとこっちも見てくれない?」

 マナカは石の山からひとつ、こぶしくらいの大きさの鉱石を手にとった。


「魔物の中には、レア鉱石ミスリルが入っていたわ。ミスリルを使えば、フィーナには最高の剣を作ることができる……。だけど、とても高価なものだから、本当に村でもらっていいか確認したくて……」

「なんだそんなことか」


 俺にはただの石ころでしかないし。それに、あっちの宝石の山は俺のものになんだろ。


「いいよ、やるよ。てか、俺からフィーナへのプレゼントってことにしよう。さっきも剣を折ってしまったばかりだしな」

「え……」


 フィーナは俺に駆けよって、抱きついてきた。そして、耳元で言う。


「ミスリルは宝石と同じくらいの価値があります……。本当に、私にプレゼントしてくれるのですか……? 私にはもったいなくありませんか……?」

「そんなわけあるか。ミスリルの剣を使って剣聖になってくれよ」

「シュウ様……!」


 フィーナが俺を抱きしめる力が強くなった。


「本当に大好きです……。ありがとうございます……」

「こちらこそ、いろいろありがとな」

 フィーナに感謝され、こうやって抱きしめられると幸せな気持ちになる。石ころをやるぐらいでこんなに幸せになっていいのかな……。

 

 しばらくして、フィーナは俺から離れた。フィーナは涙目になり、顔を少し赤らめていた。うれし泣きなのかもしれない。


 すると、マナカも俺の近くへきて、言った。


「……シュウ君、あたしへのプレゼントはないの? あたしだって、シュウ君から何かもらいたいのに……」

「え……」

 ふざけて言っているだけかと思ったが、泣きそうな顔をしている。こちらはうれし泣きではない。


「プレゼントか……」

 やばい、何もない。アイテムボックスの中は食料と薬草類しかないぞ。


 ちらりと広場を見る。すると、宝石の山の中に、魔石が入っていることに気がついた。あのデカミミズの魔石だろう。


「マナカにはこれをやろう」

 そう言って、俺は宝石の山から魔石を拾い、マナカに渡した。


「あ…………」

「ゴーレム生成にも使えるだろうし、何かと便利だろうからな」

 マナカは魔石を胸元でぎゅっと抱きしめた。

「……大事にするね」

「ああ」


 そして、マナカは俺の近くに来て、耳元でささやいた。

「……フィーナには内緒だけど、あたしもシュウ君のこと、大好きだからね?」

「え……」


 マナカは俺から離れ、ミスリル鉱石を手にとった。

「じゃあ、これ、ありがたく使わせてもらうね。シュウ君は、ジルおばさんの《鍛冶》スキルをまだ上げられないか見てくれないかな。ミスリルをあつかうのは技術がいるし」

「了解だ。ついでに村のやつら全員のスキルポイントを見ておくよ」

「ありがとね、シュウ君」


「――そうだ」

 マナカの依頼もこなしたんだった。

「食料と薬草を集めてきたんだ。どこに置けばいい?」

「何を採ってきたのか、いったんここに出してもらえるかな」

「了解だ」


 俺は今日の戦利品を広場に並べた。食料になるイノシシなどの魔物、薬草、果物などだ。


「……まただいぶ採ってきたわね。これだけあれば大丈夫っていうか、加工が間に合わないかも」

「悪くなってしまうかな?」

「うーん、お肉の加工がどうかな……」


 すると、俺のスキル《勇者の資質》による説明が入った。

『説明します。アイテムボックスを使用すれば、格納時の状態でアイテムを保存することができます』


「なるほど……」

「どうしたの、シュウ君?」

「俺のアイテムボックスにしまえば、食料も腐らないで済むらしい」

「……本当に、神様みたいなスキルを持っているのね。じゃあ、解体してお肉の状態になったら、シュウ君に預けてもいいかしら?」

「あとでウマい飯にしてくれるなら、な」

「ふふふ、この村のみんなに任せなさい」

 マナカはそう言って、胸をたたいた。


 そんな話をしていると、食料や薬草の山を目にして、また村人が集まってきた。


「すごい量の食料……、大神官様とフィーナが採ってきてくれたのですか!」

「これだけあれば、うたげも大々的にできるな! ありがとう!」

「薬草もこんなに……、昨日のスケルトン軍団のせいで回復薬がなくなっていたところだから、本当に助かるわ。大神官様は村の救い主ですね!」

「大神官様、ありがとー!」

「フィーナもさすがね!」

「鉱石とあわせて、大切に使わせてもらうわ!」


「シュウ様……」

 フィーナからうながされ、手をふって応える。すると、村人のあいだから「うおおおお!」と歓声がおきた。


「ふふ、シュウ様も本当に大人気ですね」

「たいしたことはしてないのにな」

「そんなことはありませんよ。シュウ様が来てから、この村はいいことばかりです」

「そう言ってもらえるなら、うれしい」

「シュウ様はもっといばっても大丈夫なくらいですから」

「いや、しょうに合わない」


 そんな話をしていると、

「はいはい」

 マナカが手をたたいて、あたりをしずめた。


「しばらく忙しくなるわよ、みんな!

 今日はたくさん働いてもらって悪いんだけど、解体班は食料の切り出しをお願い。生肉はシュウ君に頼めば保存してくれるわ。調理・加工チームも解体班と一緒に動いてね。

 回復薬をつくれるスキルを持っている人は、ここから薬草をもっていって調合をお願い。調合ができたら、村の倉庫に入れてね。

 あと、シュウ君からあらためて鉱石の使用許可も出たから、足りない道具があったらあたしに言ってね。この機会に作っちゃいましょう!」

「了解!」

「やったー!」

 村人から声があがる。


「みんな、一週間後は祝宴(しゅくえん)よ! せいだいにやりましょう!」


 ☆


 村のみんなはそれぞれの持ち場所へ帰っていった。あちこちで、わいわいがやがやと話がはずんでいる。この村に来たときとくらべ、だいぶ活気が出てきたようだ。


 俺はマナカと一緒に《鍛冶》スキルを持つ村人に会って、「武器作成」Lvを上げてやった。スキルポイントの制限で最大Lvにはできなかったが、「なんだか今なら最高の剣がつくれそうだよ」と意気込んでいた。


 俺はマナカと村を歩いていく。

「ありがとう、シュウ君。村もいい雰囲気になってきたね。調理チームは、毎日シュウ君においしいご飯を差し入れするんだって意気込んでいたよ」

「それはうれしいな」


 そういえば、マナカに報告することがあった。

「マナカ、今日の特訓でだいたい花火魔法が完成したぞ。あとちょっと調整すれば、満足いくレベルにできると思う」

「……わかったわ。あたしも、うたげの日までには打ち上げ装置を完成させるわ。花火魔法が完成したら、あたしにも一度見せてね。装置の細かい調整をさせてもらいたいから」

「装置はできそうなのか?」

「ええ、設計は済んでいるわ。あとは形にするだけね」

「了解だ」


 夜のうたげ。

 魔石による、かがり火。

 さえぎるもののない夜空。


 ――そして、夜空を(いろど)る大きな花火。


「……なかなか良さそうだ」

 浴衣もない、りんご飴や金魚すくいもない、と足りないものもあるが、ひとまずの形にできそうだ。ゼロからやっとここまでこれた。


 見てるか、クソ女神め。無知なお前にも、やっと本物の花火を見せてやれる日が近づいている。少しずつ努力すれば、決められた運命だろうがひっくりかえせるときが来るんだ。


 ☆


 俺とフィーナは、毎日剣と魔法の特訓をした。フィーナは1日2本は崩れたスケルトンのあいだから剣をひろい、そして訓練の中で折っていった。ミスリルの剣ができるまで、剣聖への道は閉ざされているようだ。


 また、俺は村人のあいだを歩きながら、スキルポイントに余力がありそうな人を見つけては、スキルを強化してやった。先日のスケルトン襲来のときに、レベルが上がった村人が少なからずいたようだ。毎回おおげさに感謝されるのだけは慣れなかった。


 魔物の襲撃もないまま、平和な日が続く。

 ――そうして、うたげの日になった。

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